「型」事例集_コストを抑えて店舗の集客を増やす
このnoteの概要
こんにちは、村井庸介です。
新卒の就職・転職における内定取り消し、自宅待機が増え今後のキャリアについて悩む方の話を聞く中、僕が世の中に少しでも下支え出来ることは何かと考え、働き方・キャリアについて、出版した2冊の著書をもとに、このnoteを始めることにしました。
前回までは、この本でお伝えしているGISOVという「型」の概要や、「型」そのものの重要性について、お伝えしてきました。
ここから数回は、私が実際に「型」を活用した事例に触れていきます。
上場廃止寸前のメガネチェーン店
ある老舗メガネチェーンに私は、社会人10年目頃に異動しました。その会社は、その時点で連続赤字が続き、「上場廃止か?」と言われるほどの瀕死の状況でした。
その過程で投資ファンドが株を取得し、上場は続けながらも業績を改善していくというプロジェクトが発足していました。しかし最初の2年間は何をやっても泣かず飛ばず。むしろ赤字が拡大していく状態でした。私が入る1年前に新社長が入ってきていました。企業再建の経験が豊富な方で、その経験を活かしながら、まずは大型店舗の閉鎖など思い切った改革で、ようやく赤字も出し切り、少しずつ商品の売上単価が改善していく兆しが見えてきていました。
次は「どう上がっていくか」が会社の課題。黒字に転換する期限はあと1年、さもなければ上場廃止というタイミングで、私は入社したのです。
このタイミングでしか、関われないなにかがあると感じとって、年収も下げて当時は転職いたしました。
では、1年間で全体を黒字にするという会社全体の課題に対して、当時の売上構成の現状はどうだったか。
メガネの買い替えは3年から4年に1回といわれています。同社は、過去に自社店舗でメガネを買ってもらったお客さんが買い替えるときに、他社に逃げられていたことが、業績不振の大きな原因だったのです。
そこで、既存サービスの改善やお客さんの眼環境を守るための新しいサービス導入といった施策を打ち、ある程度、既存顧客を取り戻すことにも成功。それによって、少しずつ業績がプラスに向かい始めていました。
新規顧客を集めたい、けどお金はない
一方、新規顧客獲得の状況は、惨憺たるものでした。
赤字続きの企業のため、広告宣伝を打つ余力もなく、期待するほどには伸びていませんでした。私が入社した段階での業績改善のポイントは、「新規顧客の拡大」にあると考えました。
接客を通じた単価向上やコンタクトレンズ購入の継続率向上など、黒字転換のための戦略の中で、「必ずやらなければならないとわかっているけれど、誰も手をつけにくい」仕事です。私が提案する余地がある業務でした。
結果として、同社に在籍した約1年間で、私が軌道に乗せた施策のうちのひとつが、「カード会社との提携」です。私が在籍していた時点だけで数店舗分相当の粗利を獲得することに成功しました。
提携カードを使って決済してもらうと、お客さんには通常よりポイントが貯まります。そのポイントは自社が販促費として負担するのですが、都合のよいことに一部の会社では後払いが可能なのです。つまり、先行投資のリスクがありません。
そのため、カード会社と提携は、ポイントを通じて新規のお客様に店舗を利用する「口実」づくりとなったのです。
どう「GISOV」を活用して社内提案したか?
入社当初から、「カード会社との提携」というアイデアはありましたので、水面下でリサーチは進めていました。
そして3カ月後に、社内での提案を行うことになります。
その際の「GISOV」は、それぞれ次のようなものでした。
G:ゴール
店舗と商品の改善「以外」の方法で、売上を上げる仕組みをつくる。極力コストをかけずに、新規顧客を獲得する(売上単価を上げることも、プロモーションにお金をかけることも必要としないこと)
既存顧客のリピートは成功しつつある一方で、「いかにコストをかけずに新規顧客を拡大するか」が業績改善のために必要な施策でした。
もちろん、売上を上げる仕組みなので、新規事業を開発するということでも良いかもしれません。(実際にウェアラブル端末の検討などをしておりました。)しかし、新規事業は多くの場合、即効性が低く、再生過程で時間が限られている場合得策ではありません。
また、これから目が悪くなる産業全体にとって新規のお客様もいますが、それは、どこにどのように存在しているのかわかりません。もちろん、CMなどを打てば、向こうから来てくれますが、当時の会社の体力ではほぼ無理な状態でした。
当時全国に300近くの店舗を持っていましたから、「店舗近隣のエリアで他社に流れていたお客さまを、いかに自社の店舗に呼び込み、メガネ、コンタクトレンズを購入してもらうか」がゴールであると考えたのです。
I:イシュー
会社の業績が悪化している状態では、多くの宣伝費はかけられない
DMやチラシ配布等の既存のプロモーションは、マーケティングの部署がすでに改善を行っていました。それと重なる提案をしても仕方がありません。
現在のブランド力のままで、宣伝費もかけれない中、いかに新規顧客を獲得・拡大するのかが、この提案にあたってのイシューでした。
S:ソリューション
会員制度を持つ企業との提携
自分たちで新しい商品やマーケットをつくり出すということは、連続赤字というその時点のフェーズではありえません。
勢いがあり、自社と提携メリットのある企業と組むのがベストな方策でした。つまり、提携を通じて相手先ブランドを活用し、自社に顧客が流れる仕組みをつくることです。当然相手にメリットがあることが前提です。
O:オペレーション
提携先のリストアップ、候補企業との交渉
この提案の時点で、私はすでにカードとは接触しています。この提携は実現可能だという手ごたえはすでにつかんでいました。
しかし、完全に決定というわけではありませんし、「なぜそのカードがベストなのか」を示すためには、複数の提携先を挙げる必要がありました。
ポイントが貯まるカード系の会社を、10社くらいリストアップしました。
結果として提携した会社は、ほかのポイント制のカードと比べると、明らかに顧客単価が高かったのです。つまり会員の年収が高い。
これは「1本あたりの単価を上げていく」という当時の戦略として狙っている顧客と一致していました。
V:バリュー
全国300店舗の現場で混乱がない。ムダになりかねないコストが発生しない。自分が交渉することで最善の条件で提携できる
ここでのバリューは、提案の相手である自社(経営陣やメンバー)に対しての付加価値です。まず、既存の店舗のレジ担当者に新しい負担がかからないこと。購入時に顧客に付与するポイントは自社で負担するものの、実際の購入後に発生するため、リスクがないこと。そして、提携相手に対して、「自分なら、よりよい条件を引き出せる」ということです。
提案の準備と並行して、社内の現場に入り込む
入社して約1年の間に、このカード提携を含めていくつかの提案をして、それぞれ承認してもらい、実行しました。しかし、入社してすぐに提案を行ったわけではありません。
というのも、入社直後というのは、誰の信用も得ていない状態だからです。
「あいつ、誰?」と思われている環境で、いきなり「こんなことを考えました!」「こうすれば問題を解決できます!」と声高に主張しても、認めてもらうための地盤ができていないので、へたをすれば「ただの生意気なやつ」だと思われておしまいです。
私が在籍したのは、既存のメガネビジネス以外の領域、たとえば企業間の提携を活用し、新しい事業をつくっていくという部署です。
まず始めたことは、上司や同僚が扱い切れないでいるタスクを拾い上げ、プロジェクトのスピードを上げることでした。メンバー同士の意思疎通のお手伝いをしたり、効率のよい議事録づくり、資料作成のスピードアップといった業務を担ったりしました。
そうした、いわば地味だけれど必要な仕事をコツコツと行うことで、まず部署内で「村井、ちゃんと仕事できるね」と認めてもらう段階を踏みました。
もうひとつ、意識的に行ったことは、現場である店舗とのコミュニケーションでした。極端に言えば、「外から来た、よく知らない高給取りが、自分たちのことも知らないくせに何か言ってくる」というメンタリティが、現場の方々にはどうしても生まれてしまうと思ったのです。
さらに、店舗の現状を知らなければ、提案はできません。現場を自分の目で見て、体感しなければ、みんながよくなるための提案をし、納得してもらうことはできません。
それらを解消するための行動をとることで、しっかり地盤を固めてからでないと、提案は承認されないだろうと考えました。
幸いなことに、当時「キャラバン」という活動がありました。
当時の社長が始めたもので、毎週末に全国の店舗のうちのいくつかを、社長と社長の直属メンバーが臨店するのです。
具体的には、40名くらいの集団で週末に10店舗くらいを回ります。そして自分たちの手で棚にある商品の配列を替えたり、新しいポップにつけ替えたり、チラシのポスティングをしたりするのです。
私はよほどの用事がない限りは、自ら手を挙げて「キャラバン」に毎週参加しました。すると、まず現場の仕事の実態がわかります。どんなお客さんに、どれくらいの接客時間がかかっているのか。少ない店員で店を回すとはどういうことなのか。
現状の人員では、店舗はすでに手いっぱいだと、身をもって感じました。「いま以上に新しい業務を増やしたらパンクする」と感じたのです。
そこで、カード会社との提携にあたっては、既存の店舗店頭での新しい負担は、いっさいかけないことにしました。せいぜい「○○カード、使えます」というシールを貼るだけ。レジでの接客の手間は、従来のクレジットカード払いとまったく変わらないこと。これは、自分で現場を回ってみたから生まれた発想です。
「キャラバン」のもうひとつの成果は、人と人とのコミュニケーションです。入社したてでありながら、毎週、現場に出ることによって、いち早く顔と名前を覚えてもらうことができました。
提案は机上の空論であってはなりません。現場で一緒に汗を流し、一緒に飲み食いする。すると「ああ、あの人ね」と「提案者」の顔が見えます。そこではじめて、実態に沿った提案ができますし、受け入れてもらえるのです。聞く耳を持ってもらうための地盤・土台をつくる時間が、提案に有効に働き、それ自体がバリューになったのです。
提携先との取引条件を徹底的に交渉する
実はカード会社との提携にあたって、ひとつのネックがありました。実は以前に別の会員カード会社と提携したものの、うまくいかずにやめたという経緯があったのです。今回の提案では、「過去の提携とは違う」というメリットを打ち出す必要がありました。
まず自社のメリットは、ポイントの支払いが後払いであるということ。通常の宣伝広告費と比較して、ムダな支払いがなくてリーズナブルであることを、数字を出して明確にしました。
さらに、先の項目と重複しますが、店舗での新しいオペレーションがいっさい増えないこと。つまり、ムダなお金も、手間もかけずに、勝手に新規のお客さんが店にやってくる仕組みとなるよう、カード会社と交渉をしました。
そして、打ち合わせを重ねるうちに、この提携が実は先方にとってもメリットが大きいのだということに気がつきました。店舗のエリアが全国展開であること、客単価が比較的高いこと、カード会社の顧客層に対して知名度がそれなりにあること。これらの特性が、加盟店舗を全国的に増やして会員を広げたいという先方の思惑にマッチしていたのです。
そこで、提携の条件については、かなり細かく打ち合わせをし、できるだけ自社に有利な条件を引き出すことに成功しました。たとえば、万一、思うような効果が出なかったときには、できるだけ負担が少なく撤退できる、といった内容です。
「相手先との交渉を、ここまで自社に有利に運びました」という事実は、大きなバリューになります。「いろいろ相手を説得できたんだね。うちにいい条件を出せたし、撤退もしやすいのなら、やってみてもいいよね」という、提案を承認する理由が生まれるわけです。
以降の事例でも同様なのですが、「GISOV」の裏側には、さまざまな「仕掛け」「準備」が必要です。「根回し」といってもいいかもしれません。提案とは紙の資料だけに収まるものではないのです。
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