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[70] エンドロール

うらぶれた暮らしに
袖を通したが最後
延々とつづく
冬籠もり
冬を遠ざける風は
もう二度と 吹くことはないのだろうか
唐突に毛先を襲い
白い首筋をあらわにするような
尊さ帯びた
うつくしき演出

なんてきれいな朝陽なのかしら
ヒロインの
ありふれた台詞の声の端
その粋美だけでは
まんなかの救済にはならず
撫でまわされるように
深まってゆく暗愁

残んの後悔
衰弱のうつつに
どこからともなく現れる 冥府の鮫たち
ぐるぐる
ぐるぐると
確実な夜を狙っている

気弱な指は
いつもうずうずしていた
触れることのないよろこびを
思い煩い
満足に堪能できたことなど
なにひとつ なかったかのように

孤独まみれの幾十年の心が
その一日で洗われたという奇跡です
殺された主人公の棒読みが
頭を掠める

思い浮かべてみる 途方の心象
孤児の苦難
老女の哀願
なぐさめられるのは
ひと握りの心情

裂け目から流れこむ 悟りの心境
父のかまくら
母のてぶくろ
弱まる鼓動は
おわりの心臓

甘やかな幼少の安寧が
切ない調べに乗って
だれかのぬくもりと溶けあうように
ゆっくり
ゆっくりと
はこばれてゆく


※幻想宇宙でうたう星々
(耳をすませば星の声 前編)

お読みいただきありがとうございました。なにか感じていただければ幸いです。