［22］ 拡声器の嗄れ声

《あきらめましょう潔く
　それがなにより　大事なのです》

駅を出てすぐの道端
野暮くさい身なりの老いぼれが
拡声器を握りしめている
白黒入りまじった頭の女性たちは
せかせかと署名活動

避けるための白眼視は効かず
追いかけられ
署名　お願いします！
めがねの奥の黒目だけは
溌剌とした少女の面影
詳細　なるほど
あなたたちも　てんでわかっていない
なぜ
こんなにも
駆り立てられるのか

《単純明快と複雑怪奇
　掛けあわされた世相です
　どうせ　あなたたち
　甘ったるい夢を
　幾度も拾っては　捨て去るのでしょう？
　それならいっそ
　夢見ることに
　終止符を打つ勇気を》

声を荒げる拡声器
にわかに終止符　打ちたくなって
強引に奪い取った
記入用紙

《夢を見ない暮らしこそ安寧だ》
《夢を見ない暮らしこそ安寧だ》

言い聞かせる
急ぎ足を強いる
しだいに遠のく　老いぼれの嗄れ声
受けとめられない夕やけ
もたれかかったガードレールまで
つたわる
この上ない
喪失感


※逃亡銀河の鼠たち
（逃げのびた闇のなかで　前編）