[67] はと座にとどける願いもある
名前すら知らなかった街で、名前しか知らなかった街で、残酷という明らかな事実が降り止まないことに、この身のどこかが打ちのめされる。
蝕まれるような非力さに抗うこともできず、平穏にすり寄り、よっこらせ、座りこんで、貪るだけの日々の安穏。その罪悪感のただなかで、もう人間でありたくないという突拍子もない心境を、テーブルにのっけて、見つめている。
遠いむかし、夜空の星を見あげつくられた神話は、どれだけの時を超え、語り継がれてゆくのだろう。神々でさえ、うんざりするほど残虐で切ない物語の連続だから、息が詰まる。
冬の星座はうつくしく見える、そんなことも忘れ、粗雑な倦怠に、苛々鬱々を繰り返す、もったいない命の使い方。生き死にのかなしさが浮上して、ついつい願ったものは、薄っぺらい平和への想い。春のカラス座には、届かなかった。
それぞれが生み出す、それぞれの芸術が、共鳴するでもなく、共振するでもなく、ただ共存しあい、触れた瞬間なぐさめられ、ふかく命を見つめなおしてくれるのなら。
煩悩だらけ、どうしたって苦しむ人間の、人間によって生み出される芸術の尊さ、銀色の蜘蛛の糸のように手繰れたのなら、ちぎれることのない、あなただけの救いとなってほしい。
幻想的な夜を感じられる星空は、きっとやってくるから、不思議なあの鳥に、この願いを託そう。冬のはと座へ届くように。うそつきのカラスではなく、ノアの方舟のあのハトのような、聖なる力の存在信じ、どうかどうかと、つよく願おう。
※幻想宇宙でうたう星々
(耳をすませば星の声 前編)
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