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春の大海原で、人的資本経営について思う。

少し前の週末に、大好きな釣りに行ってきました。

決算発表までキリキリと根を詰めた緊張を開放して、素敵な仲間と一緒に、海と空、波と風にたわむれる。大自然にどっぷり浸かり、最高のリフレッシュになりました。

お目当ての魚も釣れて(というより、凄腕の船長に釣らせてもらって)、夜は釣果を美味しくいただいて(調理も、友人の釣り&料理の達人にお任せしてしまいました)、心身共に満たされました。

自然相手の釣りは、なかなか計画通りにいきません。

釣れない時間がひらすら流れ、ただじっと耐えるしかないしんどさも幾度となく味わいましたが、僕がいつも感動するのは発揮される「人の力」です。
潮の流れを読み、正確に魚の群れを突き止める船長の力。道具をスマートに使いこなし、巨大な魚も逃さず釣り上げる釣りの達人達。芸術のような包丁さばきで、目にも舌にも美味しい料理を仕上げる力。

芸達者な皆さんに囲まれて、ただただ「人ってすげぇなあ〜」と感嘆・感動の連続です。釣りの場面に限らず、スポーツや芸術に触れるたびに、同じことを感じます。先日のWBCも、大谷選手の二刀流、苦しみ続けた村上選手の土壇場での大活躍などなど、スポーツの醍醐味を心から楽しむことができ、本当に素晴らしかったですね。

そう、人の力、人のもっている可能性は本当にすごいなあと思います。
あまりにも当たり前すぎてちゃんと見えてなかった「人の力」を可視化して、その価値を最大化する取り組みをしよう。経営にも、そんな姿勢が明確に求められるようになりました。

ご存知の方も多いと思いますが、今後、有価証券報告書で「人的資本経営」に関する情報開示が義務化されます。個人が持つ能力や才能、資質などを、経営に欠かせない価値を生み出す「資本」として捉え、その人的資本を活かすための人材育成やダイバーシティの取り組みや課題についてオープンにするという流れです。

周りの経営者の間でもホットな話題で、ユニポス社長の田中弦さんが上場企業数百社の統合報告書を読み込んで実施した勉強会も、クオリティが素晴らしく大盛況でした(僕も拝聴しました!)。

一方で、中には「こんなに開示しないといけないの? 面倒な時代になったなぁ……」なんてネガティブな本音も漏れ聞こえてきますが、僕の受け止め方としては、めちゃくちゃポジティブです。ようやく「人の力」が資本として評価されるようになったのか、という喜びが湧いています

11年前にマネーフォワードを創業した頃、僕たちにはお金もプロダクトも何もなくて、あるのは「強い想い」と「人」だけでした。
当時、僕の想いに共感してリスクをとって集まってくれた仲間たちの「人の力」は、会社にとって唯一とも言える成長の原資であり、最大の資産とも言えました。

しかしながら、財務諸表や事業計画に乗せる数字上で、その資産価値は表すことは難しい。むしろ「人件費」という「コスト」として可視化されることに、なんとも言えないもどかしさと違和感を感じていたのを覚えています。

ですから、社会全体で「人の力」を「新しい価値を生み出す資産」としてとらえ、人的資本の価値を高める企業の取り組みを評価しようという流れは大歓迎ですし、いい時代になってきたなぁと感じています

翻って、自分たちはちゃんとできているのか? というとまだまだ課題は山盛りです。

まだまだですが、一歩でも前に進めるようにと社内で知恵を出し合って、多方向から施策に取り組んできました。
2020年に人事本部から名称を変えたPeople Forward本部のメンバーたちを中心として、全社を上げて、「Talent Forward」というスローガンのもと、個人がそれぞれの能力や強みを発揮して、仕事も人生もいきいきと楽しめる環境づくりに取り組んできました。

具体的な施策は色々ありますが、少しご紹介すると、ひとつめは「目標」の共有です。
従業員数は5年で8倍(2017年11月期の241名から、22年11月は1909名に!)と急成長する中で、MVVCをしっかりと会社の軸にすえ、各部門に所属する一人ひとりのゴールが、「お金を前へ。人生をもっと前へ。」という会社のミッションと一致するように、コミュニケーションを進化させようとしています。

「自分はなんのために今の仕事をしているのだろう?」
「自分の仕事は、会社にちゃんと貢献できているのかな」
「他のチームは何をしているの?」
「何を達成したら評価されるのか分からない」

組織が大きくなると、現場のメンバーの中にこんなモヤモヤが生まれがちです。その予防&解消のためにできることは、やはり仕組み化を通してのこまめなコミュニケーション。月次の1on1や3ヶ月に一度の「カルチャーヒーロー」と呼んでいる表彰制度などを取り入れています。

そして、これまであまり外向きに発信していなかったのですが、実はコツコツ続けているのが定期的な組織サーベイです。

月に一度の「MF Selfie map」では、3分程度で回答できる20の質問項目で、一人ひとりのモチベーションやストレス状態をチェック。いわば「健康診断」のような役割です。

加えて半年に一度、より詳しく業務や職場環境に対する満足度や課題について収集する「MFグループサーベイ」も実施しています。調査結果はすべて社内に開示して、改善すべき点を共有し、各チームからアクション宣言を行い、課題解決にチャレンジしていく。さらにまた半年後に調査して、改善のサイクルを回しています。

事業領域の拡大に伴って、「人材の育成」も最重要テーマ。若手の子会社社長登用やCTOなど要職への抜擢人事をどんどん進めるために、リーダーシップ育成プログラム(リーダーシップフォワードプログラムと呼んでいます)も強化。2022年は68人が合宿型の研修に参加しました。
 
会社の成長の源が「人の力」であることは、規模の大小に問わず同じだと思います。
幸い、現時点でマネーフォワードは国内のスタートアップの中でも有数の採用力があると自負していますが、優秀なメンバーが集まり、成長、活躍する組織であり続けるためには、職場としての魅力を磨き続けなければいけません。

「魅力ある職場」の条件を僕らなりに考えた結果、見えてきたのは、金銭的報酬は前提として、さらに「働きがい」と「働きやすさ」という二つのキーワードです。

働きがいとは、つまり、「自分の仕事が社会やユーザー様のお役に立ち、かつ、自分自身も成長している」という実感だと置き換えることができるかと思います。他者貢献の実現と自己承認、自己成長の実感を持てるかどうかが、「この会社で頑張っていきたい」というモチベーションを大きく左右するはずです。

今年2月に発表された「働きがいのある会社」ランキングで大規模部門10位に入賞できたのも嬉しいニュースでした!(Great Place to Work ®︎ Institute Japanによる調査)。

さらに嬉しいことに、女性の働きがいのある会社ランキングでも大規模部門で5位に入賞しました!

一方、「働きやすさ」のカギになるのは、“選択肢”の充実。どんな環境であればパフォーマンス高く、生き生きと働くことができるか、その答えは個々のメンバーの特性や仕事内容、経験年数、チームの状況によって異なります。よって、その時々である程度フレキシブルにベストな環境を選べることが大事ではないかと思います。

この春、コロナ禍で制限していた出社ルールを変更し、毎日出社とする企業も多いようですが、マネーフォワードでは全社一律のルールはできるだけ必要最小限にとどめて、できるだけ自分たちで考え、個別に対応する方針で運用していきたいと現時点では考えています。

3月に増床したオフィスフロアでも、「一人で集中しやすいコーナー」と「チームで対話を促進するコーナー」とを分けてレイアウト。同時に、オフィスに来るだけで自然とコミュニケーションが生まれる工夫も随所に凝らしています。人や発想をつないで事業成長に発展させていく場づくりを目指して、フロアコンセプトは「connect」としました。

長々と書いてきましたが、ここであらためて思うこと。

「人の力」を最大化するためにやるべきことは満載で、どれだけやっても終わりはなさそうですが、まさに経営の大切な仕事です。さらに、絶対に忘れてはならない経営の仕事は「正しい戦略の立案と実行」だと思っています

素晴らしい仲間が集まって、パフォーマンスを100%発揮してくれたとして、そのみんなの努力ができるだけ無駄にならないように正しい戦略を練り、実行していくのが、経営の仕事だと思います。

みんなが、せっかく頑張って前進したのに、「方向が間違っていた」では頑張ってくれているメンバーが報われません。同じ船に乗って、時には厳しい時間を耐え、同じ喜びの瞬間を味わって、お互いの貢献を称え合える仲間でありたいと思っています。

経営において、僕の役割は船長かもしれません。みんなの力を正しく結果に導くこと、そしてその力を200%、500%、1000%へと高める航路へと導けるよう、舵を握る手を緩めることなく、User Focusを気持ちの真ん中において日々やっていきたいと思います。

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