見出し画像

Relay Therapeutics IPO分析

2020年7月16日にソフトバンクビジョンファンドやGVが投資をしたRelay TherapeuticsがNASDAQに上場しました。IPO取引初日に株価は75%上昇して終了し、IPOは4億ドル(約430億円)規模となりました。取引初日の時価総額は約30億ドル。2020年8月3日現在、32億ドルまで上昇しています。

IT×Bioの領域は、今後注目される分野ですので、Relay Therapeutics(以下、Relay)のForm S-1を中心に見ていきたいと思います。

Relay Therapeutics is a clinical-stage precision medicine company transforming the drug discovery process.

そもそも何をやっている会社か?

Relayは、2015年に創業。新薬のターゲットとなる標的タンパク質の構造ダイナミクスを分析することで新薬開発を進めています。Relayは、「Dynamoプラットフォーム」を構築して、タンパク質の構造と動きに関する理解を創薬に応用できるように、最先端の実験的および計算的アプローチを統合しました。

画像1

またRelayの特長として、 precision medicine(患者個人の遺伝子から標的タンパク質を同定し、そのタンパク質構造の動きを踏まえて、特異性の高い新薬を作ることで、これまでのstructure-based drug design (SBDD)では実現できなかった領域の治療を目指す.)の新薬開発を行っています。

Dynamo Platform

RelayはDynamo Platformを活用し、創薬を進めています。スーパーコンピューター(DE Shaw Researchと契約)やラボでの実験をベースにModel Based Drug Development(MBDD)を進めています。

①ターゲットタンパク質に対し、独自のモーションベースの仮説を開発し、潜在的な新規結合部位を特定
②計算プラットフォームと実験プラットフォームを統合し、リード化合物を特定
③計算科学により、リード最適化のプロセスを短縮

<Dynamo Platform概観>

画像3


従来の創薬とどう違うのか、もう少し見ていきましょう。

基本的には、分子動力学をベースとしたシミュレーションですが、機械学習アルゴリズムを使用して、シミュレーションで観察された分子相互作用と実験で観察された生物活性との関係を計測するようです。

その結果、一般に、検証済みのヒット化合物から開発候補(DC)に進むには3〜5年以上かかりますが、Relayの場合、RLY-1971の場合は2年で、RLY-4008の場合は18か月でヒットからDCに進むことができたとのことです。スーパーコンピューターと機械学習を利用して、創薬プロセスを短縮するのが同社の独自性のようです。(基本的には、Nimbus Therapeutics や  Morphic Therapeutics(2020年8月3日現在 約7.2億ドルの時価総額)と同じアプローチですね。)

<Relayの創薬プロセス短縮実績>

画像8

実際にパイプラインの1つであるRLY-1971は、実験的手法と計算手法を組み合わせて、独自の阻害剤を同定しています。たとえば、長いタイムスケールのMD(Molecular Dynamics)シミュレーションを使用すると、より短いタイムスケールのシミュレーションでは理解できなかった、バインディングポケットのダイナミクスの経時的な変化を理解することができました。その結果、Relayの創薬化学者は、この理解を設計に活用してSHP2の阻害剤を作成することができたとのことです。

下記の図において、低分子(オレンジ色)の左に見える緑色のループは、低分子と結合したSHP2タンパク質を描いています。500 nsのMDシミュレーション(0.5 µs)では、緑色のループが小分子(左)から離れていることがわかります。さらに長いシミュレーション(10.0 µs)では、ループが下向きに反転し、低分子が結合する場所の近くにあることがわかります(右)。

画像11

類似スタートアップの状況

計算科学を活用した創薬スタートアップの評価の差はどこに起因するのでしょうか?今度調べてみたいと思います。

参考: Nimbus Therapeuticsのパイプライン(下記)。(※2016年にGilead SciencesがNimbusのパイプラインであるアセチル-CoAカルボキシラーゼ阻害剤を4億ドルで買収)

画像10


参考: Morphic Therapeuticsのパイプライン(下記)。炎症性腸疾患や原発性硬化性胆管炎のパイプラインを保有している。

画像9


上場時の創薬パイプライン

Relayのビジネスモデルは、Dynamo platformを有していますが、日本のペプチドリームのような創薬基盤技術を大手製薬会社に提供しているのではなく、現状、自社プラットフォームを活用した創薬パイプライン型のスタートアップです。今後戦略的な提携もしていくとS-1には記載もありますが、基本は、自社パイプラインの上市に注力していくようです。

画像2

IPO時のパイプラインとしては、3つあります。

RLY-1971、RLY-4008、RLY-PI3K1047ともにオンコロジー領域の新薬です。RLY-1971は、2020年Q1にフェーズ1を開始しています。RLY-1971は、タンパク質チロシンホスファターゼSHP2の経口、低分子阻害剤です。

単剤でもALK阻害剤であるアレクチニブとの併用でも、大きな市場がありそうです。RLY-1971の特徴は、下記の通り。

臨床開発中の他のSHP2阻害剤とは化学的に異なる
生化学的アッセイでSHP2ホスファターゼの750 pM IC 50阻害を実証
ヒトの薬物動態の予測は、RLY-1971 が比較的低い有効量での1日1回の継続的な投薬に適していることを示唆

IPOで調達した金額のうち、最大1億2,000万ドルをRLY-1971の初期および中期試験に投入する予定ですね!


創業者と経営者

Relayの創業チームは、Matthew Jacobson, Ph.D(カリフォルニア大学サンフランシスコ校の教授)、Dorothee Kern, Ph.D.(Brandeis Universityの教授)、Mark Murcko, Ph.D.(MIT講師)、David E. Shaw, Ph.D.(D.E. Shaw Research)です。現在も経営チームに残っているのは、Mark Murckoさんだけですね。

現在のCEOは、Sanjiv K Patelであり、元々Allergan Incで/Chief Strategy Ofcrを務めた人物です(Allerganはアッヴィに約6.7兆円で買収された)。

USのBiotechのCEOは年収約6,000万円(2019年度)。夢がありますね。これでも大手IT(Google、Netflix等)に比べると安いのかもしれません。

画像7

財務状況

創薬パイプライン型のスタートアップらしく、まだ収益はなく、支出のみのPLです。2018年は49百万ドル、2019年は75百万ドルの赤字です。

画像5

画像4

FundraisingとIPO

IPOは400百万ドル調達しましたが、同社は2020年3月31日までに、約520百万ドルを調達しています。2018年12月にはSoftBank Vision Fundをリードインベスターとして、GV等から400百万ドルの調達も行っています。SoftBank Vision Fundは300百万ドル投資していますね!SoftBank Vision Fundが投資した際のValuationは、約720百万ドル(790億円程度)。IPOで、約4倍程度の未実現益が出ているのでしょうか。

日本のBiotechにも投資して欲しいですね。。

これまでのラウンドに参加した投資家は、 Third Rock Ventures, an affiliate of D. E. Shaw Research, BVF Partners, Casdin Capital, EcoR1 Capital, Foresite Capital, GV, Perceptive Advisors, Alexandria Equities, Tavistock等です。

上場前のcap tableをみるとソフトバンクビジョンファンドが約41%も保有していました。USのBiotechらしく、創業者は1-2%程度しか、持分を保有していないようです。

画像6

主幹事証券:J.P. Morgan   Goldman Sachs & Co. LLC    Cowen   Guggenheim Securities

(おまけ)日本の計算科学分野のスタートアップ

日本には、同分野でModulus株式会社(https://modulusdiscovery.com/)が頑張っています。ペプチドリームとの連携や大型調達も実施しています。日本連合でライフサイエンス分野での日本のバイオテクノロジー業界をひぱって行って欲しいなと思いました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?