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書評『スーパーチームをつくる!』、トム・ホーバス著、中塚和志その他文・構成、日経BP、2024年


本書は、今、最も「ホットな」ヘッドコーチ、トム・ホーバスが語る「チームビルディング」・「組織マネジメント」の本である。トム・ホーバスは、バスケットボール男子日本代表ヘッドコーチである。

(私は、平社員なので、「チームビルディング」や「組織マネジメント」には通じていない。そちらの視点からは、書評は書けないのでご了承ください。)

しかし、本書を手に取り、今回のパリ五輪からバスケットボールを観ようという方には、バスケットボールというゲームがこの10年で「革命的」に変わった、ということが本書では書かれていないので、文脈を補う必要性があると思い、書評を書くことにした。

まず、バスケットボールといえば、何が思い浮かぶだろうか。
一つは、背の低い選手(ポイントガード)がポストアップした背の高い選手(センター)にパスをし、センターがシュートを決める場面ではないだろうか。

しかしながら、もうこのようなプレーはバスケでは見られない。

2010年代に、バスケットボールというゲームの統計的分析が進んだ。そのときに、これまであまり分析のされていなかった、シュートを打つ位置とシュート成功率の関係が明らかになり、上で述べたプレーのシュート成功率(得点期待値)が低いことが分かったのである。

このシュートを打つ位置とシュート成功率(得点期待値)のデータより、3ポイントシュートの得点期待値が高いことが、数値化されることにより明白になったのである。もちろん、ダンクやレイアップという昔からある、ゴール下でのプレーが、最も期待値が高いことは当然ではあるが。

このことによって、起こったのが、3ポイントシュートの増加である。おそらく試合を観ていて、一番驚くのは速攻の場面で、選手があえて3ポイントシュートを打ちに行く光景であろう。

もちろん、最も期待値が高いゴール下のプレーが一番の選択肢ではあるが、そこを守られた場合、自チームが数的有利な状況でも、フリーならば3ポイントを打つのが、今や定石である。

このことが、もたらしたのが、「ペース&スペース」革命である。

第1に、一番期待値が高い、ゴール下のシュートを狙うのがもちろん定石である。そこで、ゴール下の「スペース」をあけるため、選手全員が、3ポイントラインの外側に、初期ポジションをとるのである。これが、本書でも挙げられている「5out」というフォーメーションである。

そして、昔で言う「ポイントガード」、今は「ボールハンドラー」というが、味方のスクリーンを利用して、シュートを狙うのが、最初のプレーである。本書では、「富樫選手や河村選手にシュートを打て」というのが、この戦術である。

以上は、現代のバスケットボール戦術の乱暴な要約であるが、これをもとにすると、ホーバスHCの「ビリーブ」というメッセージは、自分を信じて「シュート」を打て、「迷うな」というようにもとれる。

また、試合のペースが上がることによって、自分を信じて選手は瞬時に次のプレーを決めなければならない、これが本書でも書かれている「0.5秒」ルールである。

以上が、現代のバスケットボールというゲームである。久しぶりに観る方は、最初は驚くかもしれないが、以上のことを頭に入れて見ると、何をやっているのかが、分かると思う。

また、「ペース&スペース」革命に興味がある方は、佐々木クリス『NBAバスケ超分析 語りたくなる50の新常識』(インプレス、2022年)を読んでほしい。

私は、「ペース&スペース」革命について、洋書・和書を問わず、かなりの数を読んだが、この本が一番であると思う。


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