コンサルタントから外資系製薬企業マーケターへ

2024年10月より外資系製薬企業のマーケティング部門へ転職することになりました。このタイミングは自身のキャリアを振り返る良い機会であり、今考えていることを備忘録として記録します。

ファーストキャリアでMRを選んだ理由と仕事選びの軸

転職活動というのは自己分析をする良い機会で、嫌でも自分の仕事に対する信念みたいなものを振り返ります。私の場合は、そもそもなんで薬剤師ではなくてビジネスの世界に来たんだっけということから考えるわけです。当時はスーツ着てオフィスで働くのってカッコ良くねといういわば憧れみたいのもあった気がしますが、根底には2つの理由から製薬会社のMRとして働く選択をしたと記憶しています。

  • 医療従事者として患者の役に立てること

  • そして、より多くの人に影響を与えられる仕事であること

これらを実現するために薬剤師ではなく、MRをファーストキャリアとして選びました。病院で働きたくて薬学部に進みましたが、自分は一人の患者に深く関わるよりも自分の職能で多くの人を助けたいと思い、ビジネスの世界に興味を持ち始めました。そして、MRの経験は想像以上に貴重で、製薬業界でキャリアを歩むうえで良い選択だったと今になって思っています。本題とは逸れるので、また機会があれば後述します。

外資系製薬企業MRからコンサルティングファームへ

そして、2022年にコンサルティングファームへ転職し、医薬品に特化したコンサルタントとして2年間経験を積みました。転職理由や業務内容は先述した記事に譲りますが、大枠としては自分の信念に沿った決断であったと記憶しています。より多くの患者に影響を与えられるビジネスマンになるにはどうしたら良いのか、そしてどのポジションが自分にはフィットしそうなのか。これらを理解するために、マーケティング業務に加え、サイエンティフィックな仕事も経験できるコンサルタントという仕事を選びました。

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そして幸運にも、その期待に沿う形で多くのこと学ばせていただきました。自分の関心領域への理解を深めることができたことに加え、海外でビジネスすることの重要性を痛感した2年間でした。

マーケティング

まず、私の関心領域はサイエンティフィックなものよりもマーケティングのような製品を患者に届ける仕事にあると理解を深めました。ビジネスの世界では良い製品が必ず市場を席巻しているわけではありません。素晴らしい製品が思ったより売れていないケースもあれば、2番手の製品がトップシェアを占めるということもあります。世界的なブロックバスター製剤であるヒュミラも1番手で発売された薬剤ではないことはあまりにも有名な話です。一般消費財よりも先行者利益の大きい業界であるとはいえ、いかにマーケティング戦略が重要かという事例は数多くあります。

Ziffの法則によるマーケットシェアの推移: 先行して市場に投入された製品の方がマーケットシェア獲得に優位であるという経験則に基づいている
Source: Riemer | Market Shares Follow the Zipf Distribution

こういったことに業務で触れていく中で、どうすれば自分たちの良い医薬品を多くの患者の手元に届けることができるのかを考えるマーケティング戦略に関心を持ちました。そして、それは後述するように素晴らしい医薬品を開発できる製薬企業で成し遂げたいと思うようになり、今回転職を決断しました。

現代マーケティングを語るうえでは外すことのできない森岡さんの書籍や、阿智村で出会ったマーケティング事例の書籍を読んでいたことも相まって自分の関心を高めたのかもしれません

臨床開発とライセンシング

一方で、サイエンスというと少しマクロすぎるのですが、いわゆる臨床開発やランセンシングのサポートにもコンサルタントとして関わってきました。バイオテック企業の研究する最先端テクノロジーというのは非常に興味深いものが多く、今までにないアイデアで患者を救おうと目論む彼らと仕事を共にすることはとてもエキサイティングでした。しかし、それとは裏腹にビジネス的なジレンマがそこには存在するということも学びました。よく知られている通り、医薬品開発には莫大な時間とコストがかかります。さらにその成功確率は非常に低い。長いビジネスマン人生の中で、1つでも化合物を市場に出せれば万々歳という感覚です。

Phase transition success rates from Phase I for all diseases, all modalities.
Source: Biomedtracker and Pharmapremia, 2020

これは患者貢献感をモチベーションに日々働く自分にとっては少しネガティブに感じました。また、そもそもサイエンスのイノベーションと患者貢献には相関が必ずしもないというのも懐疑的に感じます。たとえば、どんなに素晴らしい医薬品であっても製造コストが高い、高薬価が見込めないなどの理由からNPVがネガティブであれば、営利企業である製薬会社はもちろんビジネスを前に進めることはできません。ビジネスになるのかという視点で淘汰される化合物も沢山あることを見ると、自分はより患者に近いポジションでいま困っている人の課題を解決する業務をしたいと思うようになりました。もちろんここにこそビジネスマンとしての面白みが存在し、医薬品ビジネスの醍醐味であることは言うまでもありませんが、自分はここに強くモチベートされなかったというだけの話です。

グローバル人材

そして、海外ビジネスの話。これはこの会社に来て自分の考えを最も大きく変えたことです。グローバルで活躍できる人材になりたいと強く思うようになりました。特には、計3回のBIO Conference(San Francisco・Barcelona・San Diego)への出席を通じて、欧米の医薬品産業の盛り上がり、そして日本との差に驚きと悔しさを感じたのを覚えています。加えて日本での昨今の話題は、ドラッグラグ・ドラッグロス。一般的には人類に共通して効果を示す医薬品が日本人には使用できないという状況がすでに招来しています。医薬品のイノベーションで世界を差を広げられているだけでなく、日本の患者へ薬が届かなくなっているというのは由々しき問題で、この業界で働く人間としては忸怩たる思いでいます。こういった経験からも日本の患者に貢献できるビジネスに関わりたいと思っており、まずは自分がグローバル人材になることを目標に成長していきたいと強く思っています。

Source: 令和6年2月9日 創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会について

コンサルティングファームから外資系製薬企業マーケティング部門へ

なぜマーケティング部門なのか

まずは新天地でのポジションについて。次は外資系製薬企業のマーケティング部門に移ります。マーケティングにアプライした理由は大きく2つで、まずは上述したように医薬品を多くの患者に届けるマーケティングという業務が自分の関心領域であること。そしてもう一つは、MR・コンサルタントとしての業務を通じて得た私のケイパビリティとフィットしているということ。コンサルタントとして働くことで関心領域もクリアになり、経験も詰めたことは私のキャリアにとって非常に重要な意味を持つ経験であったと改めて感じています。

なぜこの会社なのか

マーケターとして業務をするときにはもちろんどの医薬品を売るのかということが重要になります。これも上述したように、たとえば2番手、3番手の製品をマーケティングの力でどう売るのかというのもこの仕事の醍醐味であると理解しています。しかし、患者貢献ということを軸に考えれば、自分の担当する製品はFirst in class/ Best in classなものであるべきだと思っています。本当に良い製品で間違いなく患者の役に立てると自信をもって思える製品を患者に届けたいと思うからです。人の命に関わる産業であるからこそ、そうあるべきだと私個人は考えています。そのような会社は2通りの条件で絞り込むができると考えていて、一つはそもそも現在すでに素晴らしい製品を持っている会社。もう一つは、そういった製品を今後開発できる可能性の高い会社ということになります。新薬の開発にはどれだけのお金をに研究開発費に投資できるかが重要です。そのためには研究開発に投資するエコシステムが既にあって、十分に売り上げを上げている必要があります。この条件で考えると選択肢の多くは外資系のグローバルファーマということになり、転職先も外資系製薬企業に決めました。まずはこのポジションで既存製品を患者に届けること、そしてその売上で会社のR&D費を稼ぎ、次の新薬開発に貢献して参りたいと思います。

海外MBAについて

最後に自分への期待も込めて、今後の目標について。いま海外MBAに非常に強い関心を持っています。私がお会いした製薬企業、バイオテックのエグゼクティブはかなりの確率でMBAホルダーでした。MBAなんてただの資格だと愚かな昔の私は思っていましたが、実際に一緒に仕事をしてみるとそもそものビジネスへの理解度が大きく足りていないこと、日本人であれば英語力に俄然の差があることに気がつきました。これからより多くの患者に貢献できるポジションを目指したいと思う暁には、MBAでの経験は非常に重要なのであろうということは想像に難しくありません。そして、グローバルで活躍できる人材になるという目標を実現させるためにも、海外MBAを一つの選択肢として今後チャレンジしたい思っています。

さて、英語の勉強に戻ろう。
秋晴れが広がる佐久スターバックスの空の下より

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