「睡眠と腸内細菌叢」 〜⑴睡眠と概日リズム〜 について
「概要」
睡眠は sleep homeostasis と、中枢の時計遺伝子の支配を受ける概日リズム(circadian-rhythm)により制御されている。末梢臓器である腸管も時計遺伝子による制御を受け、腸内細菌の組成と機能には概日リズムが認められる。時差症候群や睡眠時間制限などによる睡眠障害は、腸内細菌の概日リズムに変調をもたらし、dysbiosisや腸管バリア機能低下を惹起し、宿主のエネルギー代謝異常症の原因となる。
規則正しい摂食は腸内細菌の概日リズムを回復させ、中枢時計との同調を促し、睡眠障害の治療となる可能性がある。またプレ・プロバイオティクスなど腸内細菌を介した睡眠障害の治療も期待されている。
「睡眠と概日リズム」
睡眠には時計遺伝子によって制御される概日リズムを含め、多くの要因が関係していることが知られているが、大局的には睡眠の調節は、恒常性維持機構と概日リズムによって支配されていると理解されており、2プロセスモデルと呼ばれている。
睡眠はsleep homeostasis(プロセス S)と概日リズム(プロセス C;circadian-rhythm)により調節されているとされる。
ホメオスタシスによる睡眠制御とは、覚醒中は睡眠負債が増加し、睡眠により減じるもので,睡眠負債が睡眠閾値に達すると入眠し、覚醒閾値に達すると覚醒するというものである。この閾値が概日リズムによる支配を受けており、日内変動を認めると考えられている。
すなわち、日中の覚醒と夜間の睡眠は、覚醒し続けることでたまる睡眠負債と、体内時計からの眠気 (覚醒刺激)で決定するという考え方である。
概日リズムにより生理的に睡眠を促しつつ,環境の変化に 応じた睡眠時間の補償を行うシステムと理解されている。
ヒトを含めた哺乳類は、地球の自転とほぼ同じ約24 時間周期で体内環境を変化させており、これは概日リズムと呼ばれている。光刺激などがないところでも概 日リズムは維持されることから、本リズムは“体内時計”とも呼ばれ,血圧や体温などの日内変動を決定している。
哺乳類における概日リズムは、脳の視床下部の視交叉上核(suprachiasmatic nucleus: SCN)が概日時計の中枢であり、他の臓器の概日リズムも制御している。SCNを破壊した動物では規則的な活動ができなくなり、SCNの移植により概日リズムが回復することが報告されている。
SCN の 1 つ 1 つのニューロ ンは24時間周期で時計遺伝子の転写がなされ、概日リズムの発振を行っている。SCNのニューロンはネットワークを構成し、転写因子CLOCK、BMAL1、およびその活性を抑制するPeriod(Per)、Cryptochrome(CRY)などにより概日リズムを発信する。
実際の概日リズム異常による睡眠障害として、睡眠相前進症候群 (Advanced sleep phase syndrome;ASPS)や睡眠相後退症候群(Delayed sleep-phase syndrome(DSPS)が知られている。
前者では、夕方になると強い眠気が生じ、早朝に覚醒する睡眠パターンを呈し、PER2の遺伝子異常の家系が報告されている。後者では、 朝起床できず社会生活が困難となることが認められ、 PER3の遺伝子多型が報告されている。
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