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今までの参加レコーディングを振り返る Vol.14 井上陽水 UNITED COVERS 2 2015(間違いではありません。ややこしくてすみません)

今までの参加レコーディングを振り返る Vol.14 井上陽水 UNITED COVERS 2 2015(間違いではありません。ややこしくてすみません)

井上陽水さん。僕は幼少の頃より名前が似ているというので色々な目にあいました。良いことも悪いことも。
そもそも僕が生まれた時は陽水さんはまだデビューしていなかったので親としてもどうしようもなかったのです。
そして、僕が小学生の頃に、とある事件で逮捕された記事が新聞に載ったことで、友達の間では、「お前も〇〇吸ってるんちゃうん」というような言われ方をして。今ではイジメになるのでしょうが、そこは昭和の大阪の小学生は多少、優しかったのか、こちらが気にしなかったのか。しかし親はとても気にして、改名しようとか、もう次の名前は決めてあるとか先走った行動をとっていたように思います。多分僕が、他の名前で生きていくのは嫌だ!とか言ったかと思いますが、よく考えたら、スケ、と最後に着く名前が、「スケべ!」と言われるのが嫌だったのに、なんで名前を変えなかったのかとも思います。人の心とは不思議です。

とりあえず、いい事としてはすぐに人に名前を覚えてもらえるというのがありました。これは音楽を生業とするにはとても有利な事です。ジャズというまあまあ近いような遠いようなジャンルというのも良かったのでしょう。

悪い事、というよりは困った事としては、よく誤植されてしまう、もしくは勘違いされてしまう、というのがあります。
大学を卒業して、一大決心して東京に出て、初めてピットインの昼の部に出演出来た時の事。
リーダーがこれまたポップスのスターと同姓同名、漢字も同じというのもあって、人々はまさかの共演がピットインで、と思ったのでしょう。
通常、ピットインの昼の部は当時でもお客さんは5人から10人くらいというのが相場でしたが、その日は外まで並ぶ大行列。ネットやSNSもない時代でしたから口コミ的に広まったのかもしれません。
とにかく、満員のお客様が開演を待っている状態で、違うんですとも言えず、始まったサックスカルテットの演奏。軽快なテンポとは裏腹に何やら不穏な空気が。そうです、みんな気付いたのです。人違いだという事に。
一曲目が始まったばかりなのに皆んな帰り始めました。入り口で金返せ、とか揉めていたような気がします。
たまにはジャズも聞いていけばいいのに。と思ったものの、その人たちを止めるすべもなく、結果的にはお客さんはいつもの5人くらいになっていたような気がします。

そんなエピソードを数年経って、村上ポンタ秀一さんにその話をしたところ大変喜ばれました。ポンタさんは陽水さんと良く知った間柄。
しばらくしてその話を陽水さんに聞かせたそうです。陽水さんも、何やらふざけた名前のジャズのベースの人がいるなあ、と思っていたそうで、本名なんです、とポンタさんが教えてくれたそうです。

さてさらに時は流れて、僕が渡米生活から日本に活動の場を移して、塩谷哲トリオでブルーノート東京に出演していた時。
お忍びで陽水さんが観に来られていて、楽屋に挨拶に来てくれました。
みんな一斉に「本物が来た!」と叫びました。
おいおい、わしはニセモノやったんかい?!

とまあ、だいぶお近づきにはなったのですが、そこからさらに数年経ち。
とある大物シンガーのライブがきっかけで素晴らしいアレンジャーとキーボディストの森俊之さんとご一緒したのがきっかけで、一曲だけですがレコーディングの話が来ました。井上陽水さんの。

ネタ作りでもなんでもなく、ちゃんとベーシストとして演奏を評価されて呼ばれたので誤解のなきように。

それがこのアルバム「UNITED COVER 2」の一曲目、「シルエット・ロマンス」でした。

森くんの作ったトラックにベースのみの録音という事で指定されたスタジオに出向いて行きました。
通常、こういう録音にはアーティストはあまり立ち会わないので、僕も気軽な気持ちで出かけてスタジオに到着。
ドアを開けたら、そこに陽水さんが。
第一声が「紛らわしい名前ですみませーん」でした。
いえいえ、それはこちらのセリフで、なんて事を返答した気がしますが、あまりにも意外な問いかけて翻弄されました。

さて、録音が始まると、まずは聞いてくださいという事で、ヘッドフォンからすでに録音された、陽水さんの素晴らしい歌声が。ああ、この人はなんて歌に説得力があるのだろう。まるで魔法のようだ、と思いながら色々とチェックをして行きました。

一箇所、バンドが止まって、ベースだけになる場所があって、そこに陽水さんはこだわりを持っていたようです。最初のテイクは、そつなくこなしまして、ほとんどのところはOKだったのですが、その場所をもう一度トライして欲しいとリクエストが。次は無難ではなく違ったアプローチで。そしてもう一度こちらがトライさせて欲しいとお願いして、再度そのあたりをやり直し。
演奏が終わってすぐに陽水さんが「いやらしいベース。」とコメントが出て、スタッフのみんなが「はいOKです、お疲れ様でした〜!」と。
「いやらしいベース」がOKという事だったようです。

そんな、陽介ミーツ陽水のお話でした。

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