コミックス版AKIRAを読んで 漫画は時代を映す鏡

オリンピックが延期となり、一時、ツイッターのTLでAKIRAのワンシーンで、「東京五輪2020」「中止だ中止」という立て看板が予言のように語られていたので、一気にAKIRAが見たくなった。

ちょうどネットフリックスで見れたので見たのだが、圧倒的な作画と印象的な音楽に一気に魅了された。が、色々と腑に落ちないことも多くて、往年のAKIRAファンという方から、コミックスを借りた。

AKIRAの漫画の圧倒的な作画というのか?画力に、思わず面食らってしまった。最近はツイッターで漫画を流し読みするばかりで、コマ割など含め、久しぶりの王道の漫画に、若干目が慣れない部分はあったのだろう、なかなか読み進められなかった。

と、思っていたが…もしかしたら違うかもしれない。

特に、1、2巻は主人公たちに「人としてないなー」「非人道的だなぁ…」とか思ってしまって、感情移入ができず、読みすすめるのがしんどかった。AKIRAの発表期間は1982年から。当時はおそらく不良文化が日本中を席巻していた時代、青少年が意味もなく暴力的なのは、たぶんナチュラルに受け入れられたのだろう。荒んだ世界観は、当時の思い描く近未来像なのだと想像がつく。けれど、2020年に今の感覚のまま読むと、突然の暴力性に???となってしまい、感情移入できず、本を閉じまくりまくってしまった。

もちろん、私が大好きなドリフターズや、ゴールデンカムイもかなり暴力的だし、大ヒットしている鬼滅の刃なんかも、誰が見たって暴力的そのもの。コミックスの中で暴力があるのは全然ありだと思う。けれど、今あるコミックス、アニメはどのキャラクターも人間性をちゃんと見せて、暴力的にならざるえなくなった道を見せてくれている。これならば仕方ないというか、むしろ心を無にして楽しめると言うか。意味なく暴力的なだけでは物語は終始しない。

特に感じたのは、女性キャラへの扱いの雑さ。メインヒロインのけいちゃんがともかく雑に扱われる、主要人物からだけでなく、モブキャラにもナンパな口を叩かれ、侮辱される。もちろん、そのあとモブキャラは死ぬのでスカッとする流れなのだけど、おいおいおい、そんな頭悪いこというやついるかね???と首を傾げたくなるレベルの軽口、侮辱っぷり。えーこれ、どういう状況なの?と、いちいち考えてしまって、いちいち没入できない。そして、そんな世界観だからか、けいちゃんはいつまでも男への警戒感も捨てない。女性は読み手が共感する登場人物ではなく、物語を盛り上げる舞台装置ポジション感がすごい強い。

内容なんかより、あーこれが80年代の男社会の中で生きる女だったんだなーと感じてしまって、全然内容が入ってこない。違う文化圏のケーススタディを見てる気分。
そもそも主人公、主要キャラたちの心理描写も少ないので、いまいち共感しずらいものがある。もしかしたら、それは90年代後半、庵野秀明あたりが吹き込んだ風なのかもしれないが、けっこう、今のアニメって主人公たちの心の葛藤や、今に至るまでの理由を丁寧に描く。だからこそ、凡庸な読者、視聴者でも、超人的な彼らに自分を重ね、同じようにエキサイトできる、ような気がする。(鬼滅の刃の主人公の「長男だから耐えられた、次男だったら耐えられなかった」的な。ツッコミどころ満載なのも含めておもしろいし、意味不明すぎてなんか人間味ある)

AKIRAは人物を軸に物語が進むのではなく、国家レベルの秘密と超人的なパワーが軸なので、心理描写は決して多くない。ちょうど3,4巻あたりで、AKIRAの秘密が見えかけて来る感じのところまで読んでなので、後半どのように描かれるかわからないし、そもそも、心理描写主軸でなくても十分面白いので、続きが楽しみだったりする。そのへんの物語の持っていき方も今の主流とは違うのだろうなぁ。

あと、どう考えても絵がうますぎる。

批判的な書き出しになってしまったが、40年近く立っても魅力が衰えない漫画、映画だと思う。ただ、それでも、当時の男女の倫理観(男尊女卑で、女は男を警戒しろとか男は粗暴であってもいいから強くあれ、みたいな男女ともにあるモラル)みたいなものがめっちゃバシバシ感じられて物語のコアにたどり着くまでが大変。たった40年でも隔世の感が半端じゃないなと感じた。

ちなみに、ちょうどAKIRAのコミックスを読んでる最中、戦姫絶唱シンフォギアの第1シーズンを見たんだが、あれも2010年代初頭の流行りが強くて、今の感覚で見るとなんともダサくて、しんどかったな…。悠木碧が主演のこともあって、そこはかとないまどマギ感と、歌で戦うせいでそこはかとないマクロス感…。なぜかわからないがそこはかとないアクエリオン感…。3話くらいからシナリオに没入できるようにはなったが、1話の展開の速さ、大きいお友達サービスの百合感あるサービスシーン、セクシー担当っぽい女性技師からヒロインへのセクハラとか、ちょっと色々きつかったなー。

2010年代は、まだ2020年代と切り離せる ほど離れていないからなんとも言えないが…

やっぱり漫画だって時代を映す鏡なんだね。70年代以前とか、もはやおとぎ話級に倫理観や世界観が違うからおそらくは、うっ…!とはなりにくいだろうが、8,90年代の漫画は微妙に倫理観が近いから違いを如実に感じてしまうな…。


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