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9月の短歌


へブンに載せた短歌をまとめました~一言解説を添えて~


なぁんにも残りはしない夜の風
肘窩にて笑む無数の穴
検査の注射痕が増えてゆく
湯浴み場に響いた笑い声枕
に重なる遠慮がちな唇
あの温度差は少し緊張するけれど嫌いじゃない
布生地の柔さ確かめ積み重ね
君の身柔く包めと祈り
少しでも新しくやわらかなタオルをお客様用に
限界を知ればこその生き様と
634(むさし)の上に 雲の天井
通勤時、ふと立ち止まって見上げてしまった
"はじめまして"階段を登る背に受ける
声音にそっと緊張測る
きっと私もうわずっている
令和4年きさらぎ行きでないことを
確かめ乗り込む三ノ輪のホーム
あすこの電光掲示板はよく真っ黒になっている
稲妻のやうに嘶き撓る背の
11の部屋にシュートが響く
高まった声が止まる瞬間こちらも僅かに息を飲む
立喰いの喰の字に浮かぶ東京の
『教えてよ』リフレインしてく歌詞
なかなか喰の文字のお店は見ない、東京喰種
尊敬をしてるのだと云ふその口を
見れずに笑う …嗚呼、嬉しい
嬉しさと恥ずかしさに視線をそらしてしまいがち
一節に見た彼のサウナと目を瞑る
瞼に揺れるかのみづうみ
川端康成の小説に出てきて知ったあの個人サウナ
静けさの間に弾む声繰り返す
モニターに笑顔乗せ送迎車
送迎車の動画、昔と少し変わってしまったらしいですね
風俗嬢だって人間だってこと
わからぬ男子(おのこ)打てい豆鉄砲
男と女、人と人
待機室座卓に掛かるふわふわの
綿から溢れ出してく冬が
おこたが出ると、ああ冬だなぁと思う
敷き詰めたタオルの下に敷き枕
茶地布巻いては次の子想ふ
枕ズレ防止のタオルはなるべく巻いておいてあげたい
部屋の主守らんとドアに座すクマの
誇り垣間見心に敬礼
あのかわいいクマぬいのキャストさんは何方だろう
店先に設えられた猫ベッド
人休まざる場のひとやすみ
人もあの寝台で少し寝られたらいいのにね
二つ目の港だと云ふ看板を
見下ろす陸の灯台が唄ふ
サブマリンさんのネーミング、好きです
吉原の名に恥じぬにはと常思ふ
吾の背に朧月影を踏み
疲れた体で考えながらの帰路
遊びとは粋で雅であっけらかん
濡れた余韻だけ残ること云ふ
からっとした人は惚れ惚れしてしまう
恋仲になれぬ私の中の「好き」
桃色じゃないけど温い暖色
好きなくして体は重ねられない
水色のりぼん巻き甘い口付けを
前に繰り出す二人あおい海
お店の向かいのお店とお店
いつの間に見えなくなったボーイさん
今はと振り返るネオン箱
元気にしてくれているといいな
色々と色々と言われるだろうけど
憧れの職になったらいいなぁ
そんな日は来ないけど、そんなふうに働いていたい
ご来店ログを振り返る度ふと思う
如何時思い出されているのだらう
思い出の詰まったリストに並ぶ名前と記憶の中の顔
ささやかな事に幸せ際立って
一期一会の庭だからこそ
ささやかなことがほんとうに嬉しいんです
もう二度と会えないかもと思ふから
抱き締め撫でて伝えたいんだ
形式だけのものなんてちっともしたくない
源氏名に何時しか愛着降り積もり
笑顔で呼んで貰えた数だけ
本名より好きだと思うことがある
いつの日か此処を去る日が来たならば
ありがとうの池で彼の鯉が泳ぐ
吉原弁財天の池にいる白銀色のあの子が好き
面白きこともなき世を思ふから
必ず君に問ふ問ひがある
「最近嬉しかったことはありますか」
最中はね意識も記憶も朧なの
ゆえ言の葉を然と交わさん
始まると記憶が残らないから覚えておきたい
田子の浦にうち出ずとも返す裏
君のも見たいと興味降りつつ
裏を知ってこそ愛せるから
知りたいと思ふのは君の物語
抱いて寝る程の重さをください
心に残るのはあなたの人間味
台風の日だから店を梯子した
云ふ彼の話粋に溜息
店ごと愛してくれる人がいる
宇宙一と吾の締まり評してゐるけれど
腹に宇宙がある故の引力
相手のものに血豆を作ってしまったことがあります
お風呂屋に眠れる森があつたなら
剣ごと溶けるまま共に眠らん
あのまま抱き合って寝てしまいたい
泡玉をながし目に見遣る輪郭に
君の歩んだ道なぞり愛でん
肌に皺に傷痕に、その人となりが刻まれている
繰り返し三十一字を綴る間に
思ひ出が照らす我が内の暗がり
少し込み上げた。詠んでよかったな


※こちらでアップする短歌は、3割のノンフィクションと3割のフィクションと4割のイマジネーションでできています。

※「君」は基本的にお客様全般を指しています。

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