見出し画像

食事宅配大競争、ウーバー・出前館をスタートアップ追う

新型コロナウイルスの感染拡大で外食が苦境に陥るなか、食事の宅配を代行するフードデリバリーが活況だ。業界のガリバー、米ウーバーテクノロジーズの「ウーバーイーツ」は定額制の導入で攻勢をかけ、2番手の出前館はLINEが実質的に子会社化した。スタートアップ勢も台頭し、名店の宅配や配達員の質向上で独自性を出す。先の見えない外食業界に希望を届けることができるのか。

「5年でやろうとしていたことが1年でできる」。4月にLINEの実質子会社になった出前館のある社員はこう話す。
2016年に出前館の運営会社に出資し、約20%の株式を保有していたLINEは約300億円を投じて子会社化してデリバリー強化に動き出した。LINEでデリバリー部門を担当していた藤井英雄執行役員が6月に出前館の社長に就任したほか、50人ものITエンジニアも送り込んだ。LINEアプリのフードデリバリー「LINEデリマ」のブランドを年内に出前館に統一する方針で、初期登録も簡単にできるようにする。LINEの技術力を結集して使い勝手を高め、資本力で宅配拠点も拡大する。
国内で約8400万人いるLINEの会員は食事宅配の潜在顧客だ。同社の最重要課題である生活の様々なサービスをアプリで提供する「スーパーアプリ戦略」の中核と位置づける。
迎え撃つのは世界で成功しているウーバーイーツ。日本での加盟飲食店は3万店以上でトップを走る。6日、何回でも月980円で配送する定額制(サブスクリプション)を導入した。1回当たりの注文は1200円以上が条件。飲食店の売上高の35%、配達料の10%というウーバーの取り分は変えないので、ウーバー側の支出は増える見通し。それでも需要が大幅に増え、カバーできるとみているようだ。

大手2社に牛耳られている感のある宅配代行業界にあってスタートアップも存在感を高めつつある。テークアウトできる飲食店が分かるアプリを19年に始めたmenu(東京・新宿)は4月、デリバリーに参入した。まだ4カ月ながら、テークアウトで培ったネットワークを生かし、加盟店は約1万5千店と追い上げる。業界の台風の目と言える存在だ。

それを証明するのが定額制だ。ウーバーが同サービスを始める約1カ月前の7月1日、1回300円の基本配達料が月980円となる定額制を導入した。定額制に加入すれば、何回でも商品代金が1500円以上は5%割引きになり、毎月抽選で500~1万円の専用クーポンが当たる。山敷真プロモーション本部長は「勝負はこの1年。(目先の収益よりも)利用者数を増やすことが最優先」と強調する。

料金以外でも工夫を凝らす。menuは「至高の銘店」と名づけ、予約や並ばなければ入れないような飲食店を約30店集めたデリバリーを始めた。18年に安倍晋三首相とオバマ前米大統領が会談した「銀座久兵衛」なども名を連ねている。注文は2日前の予約制になるものの、早くも人気だ。

4番手以下の宅配代行業者が混沌とするなか、異彩を放つのが「チョンピー」だ。運営会社のSYN(東京・目黒)はDeNA子会社の社長を務めた大見周平氏が19年に設立し、20年に事業を始めた。DeNAやメルカリなどに勤めていたITに詳しい人材を多数集めたほか、配達員は「他社で一定回数以上運んだ実績がないと応募不可」という規定を設けた。

フードデリバリーはきちんと配達してくれるか不安がる消費者が多い。海外では配達員の質の低さが問題となることもある。「ベテランならラーメンの汁がこぼれないように、かばんに隙間を防ぐタオルを事前に用意するなどノウハウを持っている」(同社)。研修など教育にかける費用も抑えることができる。ウーバーで数千回の配達経験を持つ川村留以子さんは「誰が運んでも同じではない。配達員の技量を評価してくれるのでうれしい」と話す。

配送料がお得になる仕組みも特徴。2人以上で同じ店舗で注文すれば配送料が無料になる。まとめて配達することで配達員の人件費を抑えられ、飲食店側からも一定の手数料は得られるので安くできる仕組みだ。

デリバリーの隆盛は新たな外食の形も生み出しつつある。店舗を持たずに調理だけして食事を届ける「ゴースト・キッチン」だ。東京・西麻布の一軒家を訪れると、学校の教室を一回り小さくしたほどの厨房があった。

ゴーストレストラン研究所(東京・港)が運営するこのキッチンでは自社でメニューを開発し、宅配専用に調理する。約10ブランドの"レストラン"としてスープやサラダなどの料理を作っている。同研究所には「丸亀製麺」を展開するトリドールホールディングスなども出資している。

ゴースト・キッチンには色々な形態があり、米国などで発展したものはレストランが食材を持ち込み、宅配専用の商品を共同厨房で調理するものだ。自前主義の日本ではまだこの方式は少なく、自社の専用設備として持つケースが目立つ。「デニーズ」を展開するセブン&アイ・フードシステムズも5月、東京・大井町に開設した。

日本フードサービス協会によると、6月の加盟外食店約3万8千店の全店売上高(新店も含む)は前年同月比約22%減。4月の約4割減に比べれば回復したが、最近の感染者の急増で減少傾向に拍車がかかる。居酒屋などを展開する外食の社長は「デリバリーを頼って生きていくしかない」と話す。

日本のデリバリー市場は20年には1500億円規模になるとみられる。外食が「内食」需要を取り込んで生き残れるかどうかはフードデリバリーにかかっている。

■海外でも市場急拡大
 海外でも新型コロナウイルスの感染拡大と共にフードデリバリー市場が急拡大している。米国では大手3社による寡占が進み、中国では美団点評の独り勝ち。東南アジアではインフラとして定着した配車サービスの一機能として利用が増えている。

LEKコンサルティングによると、米国の2019年の食品宅配市場は約5兆6千億円で、23年には約9兆円になる見通し。19年にドアダッシュが同業のキャビアを約4億ドルで買収し、シェアは約45%と首位に立った(エディソン・トレンズ調べ)。2位のウーバーイーツ(同28%)は7月、4位のポストメイツ(同7%)を買収すると発表。3位のグラブハブ(同17%)はオランダに本社を置くジャスト・イート・テイクアウェー・ドットコム傘下に入った。
 中国では美団点評がシェア7割を持つ。アリババ集団と騰訊控股(テンセント)に続く中国のプラットフォーマーとして注目されるIT(情報技術)企業で、フードデリバリー以外にもホテル予約、民泊などアプリで何でもできるスーパーアプリ戦略を進める。
 東南アジアではインドネシアのゴジェックが提供する「ゴーフード」、ベトナムのグラブフードなど配車サービスのアプリの機能が進化したフードデリバリーが人気だ。バイクの普及台数が多いので配達員は不足せず、狭い路地に住宅が密集している地域が多いことから、バイクによるフードデリバリーを運営しやすい環境にある

出典 日経新聞電子版

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?