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「アリペイ」経済圏膨張 運営のアント、企業価値16兆円

中国のIT(情報技術)大手が金融を核に成長している。

スマートフォン上で提供する通販や動画配信などのサービスを決済でつなぎ、一大経済圏を作り上げている。データを基に新たな金融サービスにも事業を広げる。海外展開にも積極的で、銀行などの既存プレーヤーを脅かしつつある。

20日に新規株式公開(IPO)計画を発表した中国ネット大手、アリババ集団傘下の金融会社アント・グループの企業価値は約1500億ドル(約16兆円)ともいわれる。米シティグループ(約11.5兆円)の時価総額を超え、三菱UFJフィナンシャル・グループなど3メガ銀行の合計(13.3兆円)をも上回る。

最大の強みはキャッシュレス決済サービス「支付宝(アリペイ)」で、ユーザー数は今や世界で13億人を超える。中国の決済額は2019年に市場推計で220兆元(3300兆円)だが、5割強をアリペイが占める。

アリババのネット通販の20年3月期の流通総額は6兆5800億元で、大半でアリペイを介す。ただ高いシェアの源泉は通販だけでない。アリペイのスマホアプリには、配車サービスや出前、金融、医療といった生活全般のミニアプリがある。



決済でつながった13億人もの利用者をアントは他の金融サービスに誘導する。ネット通販に出店する個人事業主や零細企業にはスマホ銀行の「網商銀行」が融資する。

取引データから人工知能(AI)が信用力を評価し、最適な条件で融資する。与信リスクが抑えられ、不良債権比率は1.3%と業界平均の約2%を大きく下回る。融資残高は700億元で、網商銀行は15年創業だが最終黒字が定着している。

運用商品「余額宝」はアリペイの残高を出し入れでき、1日単位で利息が付く。運用資産は1兆2000億元を超え、世界有数のマネー・マーケット・ファンドだ。

消費者はアリペイ内で用が済み、既存の金融サービスを使わなくなっている。中国のATM台数は18年の113万台弱をピークに減少に転じ、1年で4%程度減った。アントは13億人の膨大なデータをもとにリスクとコストを抑えながら、様々な金融サービスで収益を得る仕組みを築いた。

中国市場の圧倒的なシェアを背景にアントの収益力は高い。投資銀行などによると19年度の純利益は170億元、20年度の税引き前利益は280億元になるとみられる。

「上場で世界でのサービスをさらに拡大する」(井賢棟董事長)。アントの上場は、収益の大半を中国国内に依存するアリババグループの海外展開を進める狙いがある。

中国メディアによるとアリペイは東南アジアを中心に50以上の国と地域で展開する。IPOで海外展開とAIなど技術開発に資金を振り向ける。

5月にはミャンマーの携帯電話での送金サービス企業に約80億円の出資を決め、インドでも決済最大手Paytmに昨年追加出資した。シンガポールではネット銀行への参入も検討する。アリババは東南アジアで現地ネット通販の買収を進めており、歩調を合わせる。

ライバルの騰訊控股(テンセント)も金融を強化している。利用者12億人の対話アプリ「微信(ウィーチャット)」にはゲームや教育など230万のミニアプリがあり、決済も組み込む。1日あたり取引回数は約15億回とアントの2.4倍だ。

ただ中国のテック勢が世界を制すためには、人民元を巡る資本規制がネックになる。中国政府はデジタル通貨「デジタル人民元」の発行準備を進める。決済のデータ管理など、デジタル人民元との関係をどうつくるかも避けて通れない課題だ。

(出典:日本経済新聞電子版)​

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