グリムクラウン 第3話


ザガン「1ヶ月後、妖魔撃滅小隊の入隊試験がある」

小屋の近くを歩くザガンとセツナ。セツナは運動用の服に着替えている。イヴリスはランタンの中に収まり、近くの石の上に置かれている。

ザガン「それまでにボウズには仙術の基本、氣を操れるようになってもらう」
セツナ「センジュツ……オド……?」
ザガン「御伽噺に出て来るだろ?」
素手で石を割るシルエット「英雄が振るう一騎当千の力」
水の上に立つシルエット「人とは思えない奇跡」
手の上に火の玉を浮かべるシルエット「自然と一体になり、大いなるエネルギーである”氣”を自由に扱う術」

ザガン「それが仙術だ」

当たり前のように細い枝に脚をかけ、葉の上に立つザガン。

ザガン「自然の中にある”氣”の流れを感じろ。それがステップ1だ」

足場にしている樹木の大本。太い幹に軽く拳を当てる。幹が破裂して折れる。

ザガン「というわけで森で生活してこい」「食料は現地確保で」

セツナの足元に一本のナイフを投げる。地面に刺さる。


イヴリス「で、放り出されたわけか」
セツナ「うるせぇ! これも修業なんだよ!」

大笑いするイヴリスに、むすっとした顔で森の中を進むセツナ。

セツナ「……まずは水の確保だな」

草むらを適当に漁り、キノコを採るセツナ。地面に耳をつけて音を聞き、キノコを齧りながら走り始める。

イヴリス「……食えんのか、ソレ」
セツナ「孤児院の飯だけじゃ足りなかったからな」枠外:山のモンはだいたい全部分かるぞ
イヴリス「……チッ、野生児め」「中毒死はしねぇか」
セツナ「テメェ!」
イヴリス「分かってるよ! 契約しちまったかんな」
イヴリス「お前は生命力を差し出す。俺様は力を貸し与える」「利子も契約料もなし」枠外:我ながら良心的すぎて震えるぜ
セツナ「お前の目的はトワに憑いた”魔”」枠外:俺の目的はもちろんトワ
セツナ「そこまでは共闘すんだろ?」
イヴリス「あるいはテメェが死ぬまで、だな」「今すぐ生命力を全部差し出しても良いんだぜ?」
セツナ「水かけて消すぞ」

いがみ合いながらも川に辿り着く。

セツナ「良し! 川発見!」
イヴリス「……ずいぶん遠かったけど、本当にあのオッサンはここを想定してんのか……?」

セツナは川べりの石を動かして水の流れを変える。

イヴリス「何やってんだお前」
セツナ「罠づくりだよ」「魚取る」
イヴリス「ここに住む気かよ」
セツナ「あの氣ってやつ見ただろ!?」「あの力があれば、トワを無傷で捕まえられるかも知れねぇ」
イヴリス「無駄だと思うがねぇ」
セツナ「ハァ!? 何でだよ」

(以下、イヴリスによる説明)
「”氣”ってのはあらゆるものが持つエネルギーで、そこの川みたいに流れてんだよ」
人や地面、樹木や空気中に多数の矢印で流れがある図。
「その一部を自分の身体に流して使うのが仙術だ」
矢印が腕に集まったシルエット。殴りつけた岩が砕けている。
「対して俺様たち”魔”は歪みや澱みから生まれる――それを叩きつけて現実を汚染するんだ」
真っ黒なシルエットが岩を殴る図。岩の中にある矢印が破壊されている。
(説明終了)

イヴリス「”魔”と”氣”は相容れねぇ」「無駄なことしてねぇでテメェの生命力をもっと寄こせ」
セツナ「……やってみねぇと分かんねぇだろ」

セツナ(……あらゆるものが持つエネルギー)
セツナ(流れ)

セツナの身体を中心に”氣”の流れを感じる。

セツナ「これか!?」
イヴリス「何で出来るんだよ」「普通は年単位で修業するもんだぞ」
セツナ「森の中入るときにいつもやってた」枠外:これができないと一人で狩りとかできねぇし
イヴリス「野生児……」

イヴリスがドン引きする中、セツナは近くの樹木を殴る。が、特に破壊は起きない。

セツナ「ダメか……今までは溶け込もうとしてただけだもんな」


夜。ザガンが山を走る。
ザガン(突然山に放り出されたんだ)(空腹に脱水……ちったぁ”氣”を感じやすくなってるはず)
ザガン(……つうかずいぶん遠いな!?)

視線の先で”氣”の流れに同化するセツナ。ザガンは大きく噴き出す。セツナは樹木を殴る。昼間から続けていたのが分かるほどに拳の痕と血がついている。破壊されてはいない。

ザガン「あっれぇー? もう少し苦戦してると思ったんだけど」
イヴリス「食い意地張った野生児だったんだとよ」
ザガン「……うん?」
セツナ「苦戦してる……」「”氣”の流れを変えられねぇ」
ザガン「ステップ4だからな、それ」

 言いながらザガンはセツナの身体を何か所か殴りつける。吹き飛ぶセツナ。

セツナ「ガッ!?」「何を——……ッ!?」

起き上がろうとしたセツナだが、めまいと吐き気で立てない。

ザガン「時間がないもんでね。ボウズの身体に俺の”氣”を撃ち込んだ」「身体中を暴れまわる俺の”氣”を排出してみろ」
セツナ「は、排出って……ぐっ……!」

言いながら近くの岩に座るザガン。

ザガン「出来なきゃ死ぬからな」「気張れよ」
セツナ「く、クソ野郎……!」

セツナはもがきながら苦しむ。

セツナ(排出、排出、排出……!)
セツナ(”氣”の流れを——)
セツナ(気張れって言われても……)

歯を食いしばって立ち上がるセツナ。いきんだ瞬間、放屁する。

イヴリス「だぁっはっはっはっはっ!」「サイコーだよお前!」
セツナ「うるせぇ! 俺は必死なんだよ!」
イヴリス「それで屁すんのかよ!」「もっかいやってみてくれ!」
セツナ「み、水かけて消すぞ!」

二人は怒鳴り合う。

ザガン「ボウズ。体内の”氣”を感じてみろ」
セツナ「……あれ? 治ってる」
ザガン「コツは掴めたか?」「ほれ、もっかいだ」

再び拳を撃ち込むザガン。セツナは顔をゆがめるが、今度は放屁することなく”氣”の流れを修正する。

ザガン「あの岩を殴ってみろ」

言われた通り殴る。小山ほどもある岩に亀裂が入る。

セツナ「おおっ!?」
ザガン「……大したもんだね」
イヴリス「出来ると思ってたのか?」
ザガン「まさか。追い詰めて半殺しにすれば”氣”を感じるくらいはできるかと」

セツナはザガンにドン引きしているが、ザガンは特に気にした様子もない。

ザガン「しばらくは自然を感じながら生活してろ」「俺は俺でやることがあるからさ」
イヴリス「おいおい……俺様たちを野放しにして良いのか?」
ザガン「妙な真似したら殺す」

いつの間にかザガンはセツナとイヴリスの間に立ち、2丁拳銃の銃口を突き付けている。

ザガン「これでもそういう仕事で食ってるんだよ」「まぁ、君の侵蝕が進めば勝負にならないだろうけどな」
イヴリス「まぁ、大人しくしといてやるか」「今は、な」
ザガン「まぁ、悪いようにはしないからさ」

ザガンが銃口を下ろすと同時、セツナがランタンを持ち上げて振る。

セツナ「突然喧嘩売ってんじゃねぇよ!」枠外:俺まで撃たれたらどーすんだ!
ザガン「はは。仲が良いねぇ」
セツナ・イヴリス「「どこがだ!?」」
ザガン「20日後の夜に迎えに来る」「しっかり”氣”の訓練をしておくように」


ダイジェストで”氣”の訓練と生活の様子。木に刻んだ傷で日にちを示す。”氣”の訓練では瞑想中にセツナの身体を取り巻くオーラみたいなものが現れる。軽々と崖を登り、上にいた熊と鉢合わせして逃げる。魚を取って食べる。日にちとともにオーラが大きくなる。熊とも素手で戦い、勝利する。熊肉を食べる。

——20日後。

夕方。セツナは安定したオーラを纏った状態で瞑想を終える。

セツナ「”氣”の方は充分だろ」
イヴリス「ケッ。けったくそ悪ぃ気配だぜ」
セツナ「で、ここからが本番だ」
イヴリス「無駄だ無駄」「何度も試しただろうがよ」
セツナ「まぁそういうなって」
イヴリス「カスみてぇな生命力しか渡さねぇ癖に」枠外:いくら練習だからってよ

セツナはオーラを纏った状態でランタン内のイヴリスを掴んで胸に押し込む。

セツナ「契約!」

セツナの頭に王冠角が現れるが、オーラが急速に乱れる。

イヴリス「だから無駄だっての」
セツナ「グギギギギッ……!」

踏ん張るセツナだが、コミカルに爆発して川の中に突っ込む。
王冠角とオーラは無くなっており、イヴリスが近くを浮遊している。セツナの口にはびちびちと跳ねる魚が咥えられている。魚を吐き出すセツナ。

セツナ「魚罠が」
イヴリス「あーあ。飯が台無しじゃねぇかよ」

濁った水を見てセツナが思いつく。もう一度目を閉じて集中すると、オーラを纏う。

イヴリス「おい、お前まだあきらめないの——」
セツナ「契約!」
イヴリス「テメ、話くらい聞けよッ!」

王冠角が生える。オーラは右腕と頭を避けてまとったままの状態となる。

イヴリス「お、おお……? どうなってんだ?」
セツナ「魚罠と一緒だよ。”氣”が流れで”魔”が澱みなら、そこだけ堰き止めれば良い」
イヴリス「……デタラメな野郎だな」「つーか器用すぎだろ」枠外:さすが野生児
セツナ「へへっ。”氣”を学んだ意味、あっただろ?」
イヴリス「そんなことするより、俺様に生命力を払った方が早ェんだけどな」
イヴリス「まぁ、エクスのクソ野郎をぶっ飛ばしやすくなったわけだし、許してやるとするか」
セツナ「何もしてない癖にえらそうに」
イヴリス「ああ!? 俺様の力がなきゃテメェの”氣”なんぞ鼻クソ以下だぞ!?」

いがみ合う二人の前にザガンが現れる。

ザガン「相変わらず仲良いねぇ」
セツナ・イヴリス「「良くない!」」
ザガン「約束通り迎えに来たから、試験会場にいこうか」
セツナ「おう!」
ザガン「一応確認しておくけれど、”魔”に通じた人間は殺処分の対象だ」
ザガン「もし落ちたら――」

ザガンは指を銃の形にしてセツナの額に当てる。

ザガン「死んでもらう。覚悟しておけ」
セツナ「……上等だ!」
セツナ「試験くらい受からないと、トワを助けられないからな!」

セツナ(待ってろよ、トワ……!)

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