見出し画像

マインドデトックスの旅 最終日

2023年11月20日。午前8時。意識を取り戻す。意識が世界に帰っていく。
起きたくない。でも、起きなきゃ。
今日、夕方には飛行機に乗って鹿児島に帰る。
昨日の夜が散々だったとしても、残り一つ。やり残したことがある。

今日は、午前中にアルヴァ・アアルトの映画を観にいく予定を立てていた。鹿児島では、記念上映会しかなくて、それを観に行けなかったから、今日観に行かなかったら、多分、観にくことはないだろう。

ゆっくり。体が驚かないように。起きる。
洗面所に行き、口をゆすいで、歯を磨く。

着替えていると、友人が起きてきて、今日もコーヒーを淹れてくれた。
二人で椅子に座り、テーブルを囲んで、ゆっくりコーヒーを味わう。
友人は、本当に気が聞く人だ。僕が急いでいることを察して、コーヒーもカップの半分だけにしてくれた。昨晩のことを引きずっていたことにも察してくれて、「ごめんね」って言ってくれた。

少しだけ、モヤモヤが晴れた気がした。

映画見たらすぐに帰ってくるね、と伝え、玄関を開く。
電車に揺られながら、走り去る街をぼーっと眺める。

電車の窓から見える走り去る街並み

吉祥寺で降りて、近くの映画館に走る。
初めて行くところだから、勝手がわからない。券売機がわからず、スタッフに声をかける。後ろにありますと言われ、恥ずかしくなる。

帰る間際に撮影した券売機

チケットを購入し、席に座る。

アアルトの映画のチラシを差し替える映画館スタッフ

小さい映画館だった。でも、ゆったり座れる良い映画館だった。おかげで、30分を過ぎたあたりで意識が途切れた。
次に意識を取り戻したのは、映画が終わる20分くらい前。
多分、1時間は寝てしまっていた。
いびきをかいていなかったことを願うばかりだ。

映画が終わり、ショップに向かう。
何か簡単な映画の内容をまとめたものがないかと思った。けど、目に止まったのは、別のブースで売られていたアクセサリーだった。ヨーロッパで仕入れたものらしく、どれも一品ものだった。10分くらい悩み、今、欲しいという気持ちを大事にしようと思い、購入。

友人からの連絡に気づいたのはその後。
外でランチしようというお誘いだった。

駅で待ち合わせ、数日前に行った喫茶店MIAMIAのスタッフのお兄さんに教えてもらったお店に向かう。

空き家を改修してつくったお店らしく、今やっているプロジェクトの何かの参考にはなるかもと思い、店員さんの許可のもと、写真を撮らせてもらう。

一階にキッチンとカウンター 奥にはテラス
テラス側からの一階内観
端材で作られた簡易的な本棚
既存の躯体に貼られた非常口マン
天井に吊るされたスピーカー
自然と、ナチュラルに並ぶアート
何かの木材をリサイクルして作られたテーブル
既存の壁と新設の壁の間に設けた溝 ここに写真とか本を置いて飾ってる

いろんなところに小さなアイデアが散りばめられており、写真を撮りながらだんだん元気になっている気がした。
頼んだ唐揚げ定食がテーブルに運ばれてきた。

めっちゃめちゃ美味かった唐揚げ定食

朝ごはんを食べていなかったから、すごくお腹が空いていたのもあって、唐揚げがめちゃめちゃ美味しかった。唐揚げ1口に対して、米を3口頬張る。口一杯に米を頬張る。でないと、余計な感情が隙間に入ってきそうで。いっぱいいっぱいにしたかった。口も心も。

お腹がいっぱいになり、食後のコーヒーを飲み始めたら友人から「この旅を振り返ってどうだった?」と聞かれた。

「総じて良かったよ。本当に。来て良かった。嬉しいことだけではなかったことも含めて、色々と考えるきっかけをもらえて良かった。」

2つ、3つ会話のラリーがあった後、続けて、友人に聞かれる。
「なんで、ヨッシーは自分のことを愛せないんだろうね。自信がないのかな?私から見たら、あなたはあなた自身のことを好きでいることは間違いないんだけど、でも、認められてないから愛せないのかな。」
「自信なんてものはないよ。全く。自分のこと嫌いじゃないし、好きな方なんだとは思う。多分ね。でも、自分自身のスキルであったり、能力でいうと全く認めることができない。満足できていない。逆に、認めてしまっては、そこで成長が終わる気がしてしまって、認めたくない自分もいる。だから、周りで僕自身のことを認めてくれる人たちはいても、建築家として認められていない今の自分がいる限り、僕は僕を認めることができないし、それは、多分常にアップデートされる基準なんだと思う。」
「そうか、でも、私はあんたのことを認めているからな。」

友人の言葉を胸の中のすぐ取り出せるところに大事にしまい、お店を出た。

友人宅に戻り、荷物をまとめ、部屋にお礼を言って、玄関を出る。
駅で友人に別れと感謝を告げ、電車に乗った。

電車内では、今朝、友人からもらった本を読むことにした。自分を好きになるってこんな簡単なことなんだって思えると思うから、読んでみて。と言葉を添えられて渡された本。

東京駅で降りて、高速バスに乗り換える。
車内には、高度が落ちてきた太陽の光が差し込んでいた。

車内は、静かで、みんな寝ていた。

本の続きを読み、少し寝る。起きて、また、続きを読む。
空港について、自動手荷物預け機械にキャリーケースを預ける。重量オーバーと通知され、適当な荷物をリュックにいれて、また、キャリーケース預ける。今度は、受け取ってくれて、お土産コーナーに早足で向かい、試食をしつつ、何個かセレクトして購入。
保安検査場を自国ギリギリで抜けて、搭乗口近くの椅子に腰かける。
また、本の続きを読む。搭乗の案内放送が流れ、人の列に並び、搭乗券を係員に見せる。丁寧に、本の上に乗せて、しわにならないように広げてみせる。なんか、そうしたかった。
抜けた先、夕日を見て、この旅が終わることを実感する。

飛行機に向かう途中で見た夕日

機内に乗り込み、座先を確認し、荷物を上の収納にいれて、席に座る。そして、また本を読む。

なぜか、この本を読むことをやめることができなかった。それほどに、この本の文章は、魅力的なものだったと同時に、僕自身に向けて言われているような言葉がたくさんあり、現時点では、正直、元気になれるような本ではなかった。でも、読み続けた。

途中、隣の席に座っていた3歳くらいの男の子と席を変わった。窓際の僕の席から外の眺めを見たそうだったし、僕は本を読みたいだけだったから変わった。男の子は嬉しそうだった。それを見て、僕も少し嬉しかった。
添乗員さんが、飲み物や食べ物の販売を始めた。なぜか、僕の名前が呼ばれ、顔を向けると商品を選んでくださいと言われた。飛行機のチケットを買う時に、誤って機内での軽食のサービスまで購入していたらしい。何かを食べたり飲んだりする気分でもなかったので、隣の男の子に譲った。
「何か食べたいものとか、飲みたいのある?好きなの選んでいいって。お姉さんに何欲しいか伝えてあげて。」
そういうと、隣のお母さんと何を選ぼうかと相談し始め、少し経って、オレンジシュースとハッピーターンを選んだ。その組み合わせ、最高だよな。って心の中で共感した。
男の子は、すごく良い笑顔を僕に向けてくれた。そこから男の子はテンションがあがりまくっていて、お母さんが少し大変そうだったが、僕は気にせず、本を読み進めた。
着陸の15分くらい前に、最後まで読み終わる。
最後の最後まで読んだ。それこそ、どこで印刷されたのかまで。
なんか、最後まで読みたかった。

繰り返しになってしまうが、この本に綴られている言葉たちはとても魅力的なものだった。

ユーハブマイワード

校正はされていても、著者の言葉がなるべく残るように。素直で、若くて、棘があって、でも、そこに真意があって。そんな言葉たちが綴られているこの本の文章、言葉たちの先に、著者が「ちゃんと、生きている」ことを感じた。

マインドデトックスの旅。
もっと晴れやかな気持ちというか、清々しい気持ちというか。明日からのやる気だけに満ちて終わると思っていた旅だったし、そうなることがベストだとも思っていたが、実際はそうではなかった。

多くの気づき・学び・反省・喜び・悲しみ・苦しみ。そんな様々な感情を深く認識し、それでもなお、目の前に立ちはだかる壁を確かに見ようとする。そんな、地に足をつけようとするような、静かに燃える炎を絶やさぬように、ゆっくり薪をくべるような。そんな気持ちでこの旅が終わった。

この旅で会ってくれて、言葉を交わしてくれた方々にお礼を述べて、この度の記録を終わりたいと思います。


この旅で出会った人たちへ

人生の中のほんの一瞬だけど、この旅には、確かに僕の人生にとって意味あるものになりました。それは、楽しいだけではなく、苦しいだけのものでもなかったから。この一瞬を価値ある一瞬にしてくれたのは、紛れもなく会って、話をしてくれたあなたたちのおかげです。
本当にありがとうございました。 

井尻敬天

PS.本を読み終わった後、本の内容でめっちゃ落ち込んできつかったんです。そんな時、助けてくれたのが、隣の席に座っていた3歳の男の子でした。飛行機を降りようとした時、ジュースとお菓子のお礼を伝えてくれたかと思えば、明日からおばあちゃんの家に行くことを話してくれて、「おばあちゃんと一緒にミックスジュースを作るんだ〜」って笑顔で話してくれた。飛行機を降りる時になると、なんで、ついてくるの?と言いながら、なぜか、僕の手を握ってくれて、一緒に荷物の受取所まで歩いてくれた。小さな歩幅に合わせて歩きながら話す彼との時間がとても愛おしくて、彼が握ってくれるその手が温かくて。涙が出そうになるのをめっちゃこらえました。
最後、彼は出口で待っていたおばあちゃんを見つけ、僕にバイバイをしてくれた後、おばあちゃんに走っていきました。

彼に伝えたい。
君が僕の今を救ってくれた。
ありがとう。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?