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いつか忘れ去る某日たち パート2

某日①
1日は、「映画を見なきゃ」という気持ちに襲われるから好きでないです。同期とかまわり、みんなどんどん映画を観てて良い映画は映画館で観るべきだって先生とかも言っててわたしもそうだと思うから、1日は苦手です。パラサイトもジョジョラビットも今泉力哉の映画たちも観てないです。パラサイトもジョジョラビットも今泉力哉の映画たちも観てない自分やばいかなって思いながら、家でNetflixでテラスハウス観てます。逆にテラスハウスしか観てないです。快くんがかっこいいです。そして月に一度しかない、年に12回しかない1日を、せっかく映画が安いのに家で泥のように寝て過ごしてしまうと自分がものすごくもったいないことをしでかした気持ちになってすごくもやもやします。同じ理由で水曜日もそんなに好きじゃないです。映画撮りはじめたくせに映画くわしくないからすごくむりです。これどうしよう。これどうしようかな。映画撮ってる人たちと会話できない時あります。追いつかなきゃいけないんだけど。え、てか、映画高くてなんなんですか。貴族かよ。貴族の父と母がたくさん映画観てるから、母から映画の話を1本分聞いたらもうそれ観たってことでいいかな。大体それでいいかな。

某日②
さまざまなツインテールの画像がTwitterに流れてくる。

某日③
朝のバラシのとき、今日節分だね、と職場の人が話しかけてきてくれて、節分のことを思い出した。
夜は居酒屋のバイトにいった。お会計まちがえてそこから芋づる式に色々とめっちゃ怒られて逃げ出そうかと思った。怒られてるとき、怒ってるひとのことを「怒ってるなあ」と思って見てしまいます。このナメくさった態度どうにかならんのか。我ながら。クビにならないようメニューを必死でおぼえています。

某日④
オーディションをした。
いっちょまえに。緊張した。オーディション会場がくさかった。楽しかった。
でもオーディション以外でまだ会ったことのない役者に出会う方法がほしいです。
たった2、3枚の居酒屋メニューと値段を覚えられないくせに、長ったらしい脚本送りつけて台詞まちがってるとていねいに指摘しやがります。何様なんだ監督というのは。何様なんでしょう私。メニューぜんぜんおぼえられません。芽キャベツのローストにカラスミ、みたいなナントカとナントカ、みたいなメニューが多くて覚えるのむずかしいです。お好み焼き、とか、たこ焼き、とかだったらいいんですけど。うっかり文句を言っていますね私は今。黙って覚えます。

某日⑤
オーディション2日目。1日目に引き続き、オーディション会場の部屋がとてもくさい。くさい部屋に初めましてのみんなを集めてわたしは何をしてるんだ一体。新卒で3年働いた会社、某宗教のひとが多くて営業部の同期が営業同行で金ピカの謎の部屋に連れてかれて勧誘された話を思い出す。金ピカの部屋ではないけど怪しいビルの怪しい10階の端のくさい部屋に無抵抗の人々を呼び出す怪しい女としての自覚をしっかり持たなくては。こわくなったらいつでも逃げ出していいんだよというスタンスで。こんな怪しい一角に来てくれたという事実を大切にしなくちゃならない。
2日目もとても楽しかったです。楽しかったことだけを日記につけていったら、その人の人生はとてもハピネスに見えるなと気づきました。書いたことしか残らないというのは、残したいことだけ書けばいいんだなと気づきました。今更。

某日⑥
定期が今日で切れる。女子高校生のカバンをひたすらかき集めた。happy rainbowと虹の刺繍が入ったかわいいナイロンスクールバッグを見つけた。
仕事終わり、石川さんと岡田さんと高円寺のサイゼリヤで夜ごはんを食べました。3人でお子さまメニューのまちがいさがしをしました。途中であきらめかけたとき、岡田さんだけはまじめに取り組んでいました。あと映画の話もしました。映画の話をするのは時と場合によってはとても苦手だけど今日はとても得意なときでした。たくさん映画、っていうかお話を作ることの話をできました。誰に頼まれたわけでもないのに「とりあえずダンス」を始めたのは、私はたぶん石川さんに観て欲しかったからなんだなあと思います。ずっとそんな気はしてたけど今日とてもそれが確信になりました。なので石川さんが「観たよ」と連絡をくれたとき私はとてもホッとしたんだなあと、ホッとしていた自分にも今日気づきました。言葉に気持ちが追いつかない感覚がすごくあって言葉にすると本当に嘘くさいです。でもホッとしたんです。ふたりがいてくれて。

某日⑦
定期が昨日で切れた。あと写真やってる男基本的にむりだ。

某日⑧
同期の撮影を手伝う。
明日までにメニューを覚えなきゃだけどぜんぜんできてない。

某日⑨
何をしていたか今日は。早起きで記憶がないです。夜は居酒屋のバイトに行きました。次までにメニュー完璧にしとけ、と言った社員さんが今日はいない日だったので首の皮一枚で生き延びました。世界レベルに動きがトロイくせになぜ飲食業のバイトはじめたかというと、1お金がほしい2人と話したいからです。人とはめちゃ話せる。たまに黙れともなるくらい話せる。

某日⑩
すばやい動きを習得するためにステップを踏みながら歯磨きをする。実験室の道具を大量にかきあつめる。ちなみに響きがかわいくて好きな実験道具は「こまごめピペット」と「るつぼばさみ」です。

某日11
いつも仕事に向かう時スーパー満員電車なのだけど今日は空いているなあと思っていたら祝日でした。向かいに座ったお母さんとお出かけ中の5歳くらいの男の子がめちゃくちゃに鼻をほじりながらこちらを見ている。わたしはときおり電車で鼻をほじっているひとと目が合うけど、鼻をほじっているひとと目があってしまったとき、鼻をほじっているひとの対応としては1鼻をほじるのをやめる2鼻をほじり続ける なわけで、今回の彼は後者だった。むしろとても得意げだった。わたしもその調子でいけ、と目でメッセージを送りました。

某日12
高校時代の友人から生後3ヶ月の娘の写メが送られてくる。むちむちでかわいい。どんどん大きくなる。送られてくるたびたまげる。子どもは苦手だけど写真だとかわいいし北海道に帰ったら早く会いに行きたい。彼女の名前は「ひより」ちゃんです。わたしと一文字ちがいです。いつか大きくなったら「わたしたち、名前、一文字ちがいだね」ていう話をするのかと思うとドキドキしてます。メニュー、なんとか覚えました。今日の居酒屋は送別会の団体のお客さんが来ていて、大盛り上がりでした。新天地でも頑張ってほしいですし、なるべく呼んでから悩むのではなく、注文を決定してから呼んでほしいです。

某日13
2週間ハワイに仕事にいっていた上司が戻ってくる。朝自分のデスクにハワイのおみやげが置いてあった。うれしくて倉庫を駆け抜けていたら謎の板に引っかかって打身をつくった。その上司はわたしの直属の上司ではないんだけど、菩薩のように優しくて、電ドリの使い方も天板の付け方もオイルステンの塗り方も尺寸も菩薩が教えてくれた。あとわたしがどうしても自分の歌っている鼻歌の曲名が思い出せなくて誰にも注意されないように静かに歌い続けている時、菩薩は必ず曲名をあててくれる。必ず曲名をあててくれるので、菩薩が忙しそうにしているとついつい仕事をどんどん手伝ってしまって、直属の上司から電話がかかってきて「お前は今どこにいる」と言われてしまう。今日健康診断ではじめてバリウムを飲むことを菩薩につたえると、発泡剤は喉の方まで入れて飲むとよいこと、ぐるぐるまわされること、ちょっと滑稽なポーズをとらされること、ゲップはしちゃダメってことを丁寧に教えてくれた。バリウム検査に行くと病院のお姉さんが丁寧に説明をしてくれたけど、わたしは前もって菩薩にもっとていねいな説明を受けていたので、初心者とは思えない堂々とした佇まいだったと思う。
夜、映画学校の同期と、その友達の初めましての俳優さんと新宿の金蔵で飲む。どうしても吉岡にその俳優さんを会わせたいというので、恐る恐る会う。どうして私にどうしても会わせたかったのかは不思議だったのと、バリウムのせいでお腹が痛くて、もう少し万全な状態で出会いたかった。

某日14
お腹が張りすぎててくるしいのと、24時間バリウム便が出なかったらやばい、とググったら出てきて不安になる。一緒の日にバリウムを飲んだ子たちにきいたら、もうバリウム便はみんな出ていて、やっとすっきりした〜など言っていて余計に不安になる。この感じ身に覚えがあって、小1の時、みんなのアサガオはどんどん咲くのに私のアサガオはどんだけ水をあげてもなかなか咲かなかったことを思い出す。みんなと同じタイミングで植えたはずなのに、みんなと同じにしてるはずなのになぜかわたしは咲くのが遅かった。しかも楽しみにしていたピンクのやつは咲かなかった。バリウム便がこのまま出なかったら。。と不安になり、念のため父にLINEで遺言を残す。わたしはたぶんとりあえず今のところ人生に後悔はそんなにない、父の娘でよかったと伝える。父は白内障の手術をしたら黒目がぱっちりしたと言う。父の黒目がぱっちりしたならそれこそわたしはもう後悔はない。メニューもちゃんと覚えられたし、住民税もちゃんと払った。もう一度だけディズニーランドに行きたかったくらいで、わたしはそれなりに幸せ者だった。

某日15
バリウム便が出た。すぐ父に報告した。とても喜んでくれた。

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