小論文サポート(IB MYP)を1年間続けて分かった「小論文指導に必要なこと」【Aflevering.192】
先日、MYPの"e-Assessment Official Exams"というMYPの最終試験が終わった生徒から、「日本語のレッスンの中で取り組んだことのある課題が3つも出題されました。これまでに日本語でしっかりと考えてきたテーマだったので、構成の組み立てもスムーズにできて自分の納得できる内容を英語で書き上げることができました。」という報告を受けました。私は、MYPの試験対策も英語の授業も全くしていなかったのですが、日本語の小論文の授業で積み重ねてきたものが、結果的にインターナショナルスクールの最終試験の助けにもなったので良かったです。
私も生徒も試験を目標にしていたら、こういった結果にはならなかったのかもしれません。初めは、日本に帰国する時に受ける入試対策として始めた講座でしたが、5ヶ月ぐらい経過して入試対策の必要性がなくなった後でも生徒から「日本語で自分の疑問を解消したり、学ぶ機会を確保しておきたい」という希望もあり、それから約9ヶ月の間学習を継続してきました。そして、その結果が今回実ったのです。結果の公表については1ヶ月ぐらい先になるようなので、その報告も楽しみにしたいと思います。
今回は、私が今大切にしている「インタビュー形式のフィードバック」についてまとめ、その他小論文(エッセイ)のサポートを継続的に行なったことで分かったことや、これまでどのように学習を進めてきたのかを記録しておきます。
かつての「入試のためだけの小論文」
これまで小論文指導を継続的に指導したのは、長くても3ヶ月ぐらいでした。私が高校現場にいた頃は、そもそも授業の中で自分の考えを論理的に述べたり、そういったトレーニングをするような機会はほとんどなかったのです。高校生が小論文に取り組むのは、入試科目に含まれている時ぐらいで、入試前に初めて生徒が書き上げたものを添削し2〜3ヶ月で仕上げていく程度でしかありませんでした。やっと、文章として整ってきたなと思った頃に入学試験が終わってしまい、それ以降は取り組まなくなります。
私が経験上感じていたのは、日本の高校生は自分の考えを根拠などを示しながら論述する力がかなり低いということです。高校入試の作文のように、自分の考えを述べるだけのレベルで止まっている生徒がほとんどでした。つまり、単に自分の意見を述べているだけで、そこに客観的な事実を用いたり、自分とは反対の意見に対してどのような考えを持っているのか、といったところまでは到達していません。ただ、これは生徒の能力が低いことを示すのではなく、そういった力を付けるためのトレーニングが不足しているということです。私は、物事を広く捉えるトレーニングを受けることがないまま高校を卒業することは非常に危険だと感じています。
そのため、入試だけのために小論文を学ぶのではなく、継続的な指導を通して自分の考えを論理的かつ客観的に述べられるようになるためには、どんなアプローチをするのが良いかをずっと知りたいと思っていました。
日本語教室で継続的な指導をスタート
2021年の3月に、IBのMYPで学んでいる生徒の保護者から、日本語でエッセイを書けるようになるためのサポートをしてほしいというご依頼をいただきました。授業では、日本に帰国する時の入試対策も含めて、日本語でエッセイを書けるようにするための基礎からのスタートしました。
小論文が書けるようになるまでのステップ
ここで、私が授業をする時に大切にしている「小論文が書けるようになるまでのステップ」について整理しておきたいと思います。
授業では向上させたい「スキル」を決めておく
授業の流れは、資料を複数の読んで内容を理解し、自分の意見を組み立ててどのように資料と結びつけるのか、エッセイの構成をどのようにするのかを徹底的に取り組みます。そして、その構成を元に宿題でエッセイを仕上げてきてもらいます。
毎回の授業の流れは大きく変わりませんが、生徒たちが自分の成長を感じられるように、授業の中でどのスキルを中心に鍛えていくのかを明確にします。最終的には、生徒から授業の中でどういうことがわかったのか、今後の課題などを明らかにするフィードバックを必ず行ってきました。
開始3ヶ月頃から起こる「小さな変化」
私は、生徒が学習に前向きに取り組めるような環境設定をするということが「講師の役割」だと思っています。学習の目的や目標、その途中にあるプロセス、授業でどのようなスキルを身につけるのかを明確にして、学習者が「今の自分に何が必要なのか」に気づいてもらうようにしてきました。
1回や2回の授業ではすぐに効果は現れませんが、毎回の授業の流れの中で生徒の緊張感が途切れないようにポイントを決めて進めていきます。
すると、エッセイなどを定期的に課されているIB生は、ある時課題がスムーズに取り組めるようになる感覚になるそうです。
私が担当した生徒は3月から授業をスタートしましたが、6月頃に「最近、英語のエッセイを書くときも構成などがスムーズに立てられるようになりました。あと、学校の先生から受けたフィードバックでも『エッセイのレベルが上がったね』と言われました。」という報告をしてくれました。
そういった成功体験をした生徒にかける言葉として、「僕は単なるきっかけだったかもしれないけれど、そこから努力したのは◯◯さんだから、これまで取り組んできたことを自分の力に変えることができたね!」とこれまでの積み重ねが実ったことを明確にして伝えます。自分の頑張りを褒められて嬉しくない人なんていませんよね。
それからは生徒も授業内容に飽きることなく、毎回の課題と向き合い1年以上いろんなジャンルの課題をクリアしてきました。最初は少し幼稚に感じた日本語の表現もみるみる上達するとともに、物事を捉える視野も初めは自分の身の回りでしかなかったのですが、次第に広まった議論や論述ができるようになっていったのです。
サポートの中心は「生徒の力を信じる」こと
「できていないところを伝えておかないと、その子は気づかないままなのではないか」という、生徒を思う気持ちが強いからこそ、つい増えてしまう指摘が子どもにとっては苦痛になると私は考えています。
手探りでいろんなことを試している時に、横からああだこうだと言われたら、なかなか前向きに取り組もうという気持ちになれません。
私も子育てをしていて、「ちゃんと父親をやらないと」と思えば思うほど、余計な口出しをたくさんしてしまいます。そんな気持ちを一旦リセットして、どんな時でも子どもの力を信じるという立場をベースに考えます。
添削などをする時は、指摘するポイントは2つかせいぜい3つぐらいまでにします。それよりもむしろ、今回達成できたことを明確に伝えることのほうが前向きな気持ちで学ぶには必要なのです。
私が現在行なっている、子どもを対象とした日本語講師という仕事の中で、約30人ぐらいのあらゆる年齢の子どもたちに接してきて共通に感じていることがあります。それは、課題に対して達成感を持つことで、改善すべき点にも自ら気づいて自分で修正できるということです(その子の性格に合わせたちょっとした声かけは常に必要ですが)。
同じ指摘だとしても声の掛け方次第で受け止め方は変わります。
それは大人のコミュニケーションでも同じことが言えます。
小論文を書く前に必ず生徒の課題を明確にする
私の小論文指導で大切にしているのは、できていないところばかりを指摘しないということです。小論文というのは、いろんな要素が絡み合って最終評価が出されるので、初心者にとっていきなりいろんな角度から指摘されてしまうと、できなところばかりに目が行ってしまい「それじゃあどうしたら良いんだ!」とやる気を削がれてしまいます。
私の学習指導の方針は、「自ら学び、自ら成長する」です。私の役割はそのために必要な環境を整えることです。
小論文指導もなるべく自分でステップアップしていけるようにするためには、その時の課題でどのような目標が達成されたのかを明確にする必要があります。そのための目標設定は、生徒の論述レベルによって異なります。例えば、「まずは全体を書き上げられるようにしよう!」「今回は自分の意見がどこに書かれているのかを明確にしよう!」「根拠がはっきりと分かるように書いてみよう!」というように、その小論文を書く時の課題をまず明確にして取り組むのです。
大切なのは「自ら振り返り、修正する」力
その時の課題の目標が明確であれば、生徒自身も自分が書いた文章を見て、その課題が達成できているかどうかのフィードバックも行いやすいです。たまに、書き上げてしまった小論文を自ら見直しをすることもなく提出する生徒がいますが、自分で振り返る癖をつけておかないと修正する力が身につきません。自分でも何を言ってるか分からない文章を書いて終わりにすることが多く、かえって上達するのに時間がかかってしまいます。
「得意なスキル」を伸ばすことで、「苦手なスキル」も引っ張られて遅れて伸びてくるという考え
私が添削をする時は、その課題で設定された目標が達成できたかどうかを確認します。つまり、生徒それぞれのレベルに合わせて「まずは書き上げることができたか」「自分の意見(あるいは根拠)が明確に示せるようになったか」「全体の構成が整っているか」ということを確認します。その上で、「もっと良いパフォーマンスにするには、次の課題ではどういう目標を設定したらいいかな?」という観点で改善すべき点を一緒に探していきます。
この進め方で行くと、生徒は毎回小さな成功体験を積み重ねていくことになります。「目標を達成できた」や「あともう少しで納得できるものが書けた」という気持ちが、「次はこれにチャレンジしたい」「もう一回この目標で再チャレンジ」したいという挑戦を生み出すのです。
そしてその小さな成功体験は、今まで自分が苦手だった分野にまで入り込み、それを引き伸ばしてくれる作用があるように感じます。
つまり、最終的には小論文も自立型学習ができることが大切だということです。
インタビュー形式のフィードバック
私は、「学んだことを忘れても残っているものこそ教育だ」というアインシュタインの言葉を大切にしてます。「学び」を通して得られる"点数では測り難い"もの、例えば学習態度や自己修正力、思考や分析などを大切にするからこそ、試験でのパフォーマンスも上がってくると考えています。今回のMYPの生徒のサポートでも同じことが言えます。
そういった学びを実現するため、小論文であっても自立して学ぶことは大切だと思っています。もちろん最終的なチェックは私が行いますが、それまでにどれだけ自分でフィードバックできているかが重要なのです。
生徒たちがフィードバックできる力を付けられるように、初めはフィードバックの練習を一緒に行います。そこで役に立つのが「インタビュー形式」でのフィードバックです。これは、私が生徒に書き上げた課題に対してインタビューをしていきます。単に、インタビューをするのが私になるだけで、生徒は自分の文章を客観的に見ざるを得なくなります。やがて、自分でインタビューをすることができるようになれば、それはまさに自分でフィードバックできたことになるのです。
こういったインタビュー形式で進めることにより、学習者自身が自分の小論文を客観的に見ざるを得なくなり、やがて分析できるようになっていくのです。インタビュー形式に慣れてくると、自分でまとめて振り返るできるようになります。すると、自分で文章を書いている最中も全体の構成に気をつけながら筆をすすめることができるのです。
また、授業自体も生徒側の発言する割合が高くなるため、生徒が退屈を感じることも少なくなります。いつも私が目指しているのは「対話型の授業」です。
以上が、今回小論文指導を継続的に取り組んできて学んだことになります。
私もまだまだ発展途上ですが、これからも生徒たちが幸せに生きていく力をつけられるようにサポートを頑張っていきたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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