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「継承語教育の絆」学び続ける大人たち〜「おひさまプロジェクト」さんとの談話〜【Aflevering.200】

 先日、ライデン大学にご招待をいただき「おひさまプロジェクト」の米良好恵さん、山本絵美さんお二人と海外での日本語教育について談話をさせていただきました。
 私はかつて日本の環境しか知らず、海外での生活経験は一度もありませんでした。しかし、自身の教育者としてのスキルアップも兼ねて決断したオランダ移住から2年、手探りの中で海外での日本語学習のサポートについて考え実践してきました。あらゆる年齢と環境で育った子どもたちの学習サポートをする中で、少しずつ自分なりのアプローチが見え始めた頃だったので、既に海外での日本語教育に取り組まれていたお二人とお話しをさせていただくことはとてもありがたい機会でした。

「おひさまプロジェクト」について

 「おひさまプロジェクト」は海外に暮らす子ども向けの日本語教科書を出版された3名の方の活動です。彼女たちが出版された『おひさま』は、国語の教科書だけに縛られず、海外で日本語を習得するのに必要な要素を取り入れた日本語教科書です。海外での子育て中の家庭や補習校などでも多く使用されています。

 私も日本から出る前に『おひさま』を購入させていただきました。今も、娘や日本語教室に通っている子どもたちが、その本を本棚から出して自分で読んだり、内容を尋ねてきたりしてきます。
 継承語としての日本語教育は本当に難しいと日々感じているので、とてもありがたい教材です。

 そういった継承語として日本語の想像力を刺激する「読み物」教材も、現在は定期的に発行されています。

談話を通して学んだこと

大人も学び続けるということ

 海外の日本語教育に関して先輩方のお話を伺っていると、お二人共まだまだ学び続けておられる途中だという印象がありました。継承語としての日本語教育に長く関わって来られている方々だからこそ見えているものがありますが、そこに慢心することなく子どもたちの日本語をどうすれば良いのかについて今も考えておられる姿勢がそこにはありました。
 私はそこに、海外での日本語教育の難しさと同時に奥深さや面白さを感じることができたのです。

子どもたちは「一人ひとりみんな違う」という意識

 日頃子どもたちのサポートをしていると、子どもは一人ひとり違う人間だということを、日本にいた時よりも強く感じるようになりました。日本の学校で学んでいる子たちは、学習内容もほとんど統一されていることから、年齢を聞けば日頃学んでいる内容を容易に推し測ることができました。
 しかし、海外で暮らしている子どもたちは学校のカリキュラムも違えば、学校で学ぶ学習言語も異なります。そして何よりも、日本語に触れてきた期間や環境も一人ひとり異なります。
 私たちは子どもたち一人ひとりの日本語へのモチベーションやこれまでに日本語に触れてきた量に配慮しなければなりません。そのため、大人の物差しではなく、子ども自身をよく観察してカリキュラムを設定する必要があります。
 また、学校での学習と違い、単位や成績などを目的として子どもたちに日本語を学ばせることができません。そのため、子ども自身の内にある「日本語に対する意識」に目を向け、日本語学習を継続的かつ積極的に取り組めるにはどうしたら良いのかを考えて環境設定をするのが、日本語を教える立場としての役割だと改めて感じました。

自分の得意なところで勝負する

 今回の談話を通じて、それぞれが見てきた海外での日本語教育についての意見交換はとても有意義でした。絵美さんは、ライデン大学で日本語を教えておられて、外部の方を呼んでその方が得意なテーマでワークショップなどを行ってもらうというお話を伺いました。その時に、海外での日本語教育には正解がないからこそ、自分の得意なフィールドで勝負することがとても大切だと思いました。
 子どもたちが楽しく学ぶためには、大人のワクワクする気持ちも大切です。大人がワクワクできるフィールド(旅行、アニメ、お茶やお花などの伝統文化など)で子どもたちの日本語を育てていくことができれば、子どもたちは生きた日本語を学ぶことができます。

子どもだけでなく、大人同士のつながりも大切に

 教科書のように内容が整理されているものを学ぶことも時には重要です。しかし、それだけではなく大人が自分のフィールドで子どもたちに日本語を教えることも大切だと思いました。ただ、家庭だけでは日本語での子どもと大人の関わりは限定されてしまいます。ましてや、保護者の方が一手に引き受けて日本語を教えるというのも難しい時があるかもしれません。

 私は日本語教室を開設して子どもたち同士を繋げる活動をしてきましたが、それと同等に大人同士の繋がりも大切だということが分かってきました。大人同士の繋がりが広がれば、同時に子どもの世界も広がっていきます。
 保護者や日本語の先生が一手に担うものではなく、それぞれが得意なことでカバーしあえるように子どもたちにもいろんな大人とのふれあいの時間が大切なのです。

最後に〜「複言語主義」の中で感じること

「複言語主義」とは
 簡単にまとめると、それぞれの言語がバラバラで存在するのではなく、相互に作用し補完し合っているという「個人」にフォーカスした考えです。そのため、ある言語習得の目的をネイティブレベルまで引き上げようとするのではなく、複数の言語や文化が存在することで価値観を広げることができるというメリットを活かそうとしています。

 つまり、子どもの日本語能力だけを見て判断をすることはとても危険だということです。育ってきた環境によって子どもの日本語が年齢相応でなかったとしても、日本語での説明が上手くできないだけで学校での学習言語であれば理解できていることもあります。特にヨーロッパでは、言語を厳格に分けるのではなく、得意な言語で自分を表現することも奨励しています。
 日本語を教える私も、その子の日本語だけでなくその子が持つ他の言語にも注目して一人の人間としてサポートを考える必要があります。

 「おひさまプロジェクト」さんとの素晴らしい時間を過ごしたことで、私自身大きな学びがありました。言語習得という観点ではまだまだ力不足ですが、これまで公教育に関わってきた経験を活かして、自分の得意なフィールドである「子どもの学習意識や協同学習」のアプローチで日本語学習のサポートをしていきたいと思います。
 お忙しい中、わざわざ時間を作ってくださった好恵さんと絵美さんには心から感謝いたします。本当にありがとうございました。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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