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「悲しみ」に蓋をせず解放する習慣を〜『サードカルチャーキッズ 多文化の間で生きる子どもたち』からの学び④【277】

 これまで『サードカルチャーキッズ 多文化の間で生きる子どもたち』を読んで学んだことを記録してきました。ここまでは「アイデンティティー」「反抗期」「家族」という観点に絞って、本書を読んで大切だと思ったことをまとめました。最後は、異文化へ移動する時に起こる「悲しみとどう向き合うか」というテーマでまとめていきます。これは、海外生活を送る人に限らず、国内でこれから「別れの季節」を迎える日本で暮らす人にとっても重要な考えだと思いました。

悲しさと向き合えるように

 本書では、新しい生活を始める前に、これまでの生活の中にあった当たり前のもの、大好きなものとの別れをきちんと済ませておくことが大切だと書かれています。その国を飛び立ってしまえば、会いたいと思ってもすぐに会うことはできません。いわゆる「お別れの儀式」として、大切な友人とお別れの挨拶をきちんと済ませ、家にあるお別れしなければいけない物との別れもきちんと済ますべきなのです。

 そうすることで、仲の良かった友達や大切にしていた物との別れという悲しみを少しずつ受け入れ、後になってからその悲しみが爆発しないようにすることができます。悲しみに蓋をすると、その跳ね返りは必ずどこかにやって来ます。そして、時間が経過すればするほど、その時にはどうしようもない状況になってしまうため、その悲しみを和らげようにもその方法が見当たらないという状況に陥るそうです。

別れによる「辛さ」を回避する行動

 別れというのは誰にとっても悲しいもので、できればその悲しみを味わいたくないと感じることもあります。しかし、別れの時に辛さを受け入れることを拒否していると、子どもは別れそのものを回避する思考になっていくのです。

 特に親の仕事の都合で数年単位で住む場所を変えなければいけない家庭もあります。その度に、子どもたちには別れがやってくるのです。その別れを繰り返すことで、その辛さから自分を守ために回避するような行動を取るのです。つまり、他人を大切に思ったり必要とすることをやめていくことです。新しい土地で「どうせ別れが来るんだから、友達なんて作らないでおこう」「どうせまた新しいところに行くんだったら、今の学校に行っても意味がない」というような思考が働き、悲しみを感じないようにと感情を抑えるようになります。さらに、その副作用で何も感じなくなり、喜びを表すこともできなくなると書かれていました。

 この内容を読んだ時、もしその時に親がその状況を客観的に見ることができず「新しいところに来たんだから、気持ちを切り替えて新しいお友達と遊びなさい」や「いつまでも前住んでたところのことばかり考えてないで、今の学校に行きなさい」なんて言ってしまうと子どもの心はどんどん閉じていくのではないかと感じました。

子どもたちに大人からの本当の「慰め」を

 こういった「悲しみによる辛さからの回避による感情の喪失」を起こさないために必要なことはどんなことでしょうか。それは、先述した悲しみと向き合うためにお別れをきちんとするということです。また、それだけでは解決できることはなく、最後は自分の居場所である家族から「慰め」をもらうことです。

 この慰めについて、勘違いしてはいけないのが「次があるよ」や「新しいお友達(あるいはもの)と出会えば忘れるよ」といったような次の行動を促すことは慰めではありません。大切なのは、ただその悲しみを理解しようとする共感や、ただ側にいることの安心感です。気持ちを切り替えさせようとする誘導はついしてしまいがちかもしれませんが、そこから気持ちを放すタイミングは本人が決めるべきです。時間はかかるかもしれませんが、きちんと悲しみと向き合う時間を設けてあげることで、次に向かう準びが整います。これをぜひ忘れずに私自身も行動したいと思います。

 ちなみに「大人しく聞き分けのよい子どもほど悲しみが深く、話を聞いて慰めてあげる必要がある場合が多い」そうです。本心に耳を傾けるとともに、子どもが自分の思ったことを口に出せるような機会を日頃から準備しておく必要があります。

子どもと良好な関係が築けているか?

 親は子どもたちと良好な関係を築けているでしょうか。私自身の答えとしては、「できている部分もあればできていないところもあると思う。もっと大切なことは、良好な関係を築こうと努力することや、親としての自分の言動を客観的に見られる環境を作ること」です。しかし、自分を客観的に見るというのは非常に難しいことです。

 著書の中には異文化教育者のシャーリー・トーストリックが提唱した「質問リスト21」というのがあります。その質問にどれぐらい答えられるかで、親は子どもの言うことをしっかり聞いてきたかどうかを自己評価できるとしています。例えば「あなたの子どもはどんなことに真剣に怒りますか?」や「あなたの子どもは自分の部屋を何色にしたいと言いますか?」、「あなたの子どもは家族でいるときに何をいちばんしたがりますか?」など、その他子どもの日常の行動や思考についての質問があります。私は全ての質問には答えられませんでしたが、質問されているその場面、「うちの子は何て言うかな?どう考えるかな?」を想像するだけでもとても幸せな気持ちになれました。

 何度も述べてきましたが、「子どもにとって家族は自分らしくいられる場所、安心できる場所」です。その感覚を持たせるためには、「子どもも家族の一員であるという意識を持たせる」ような関わりが必要です。具体的には、家族の話し合いに混ぜる、引っ越しの際はその話も一緒に聞かせるといったことで、子ども自身が存在することを認めることです。

子どもが「過去に辛かったこと」を言ってきたら?

 子どもはその時は口にしない(あるいは思考の整理が追いついていない)ことがあっても、後になって当時の自分の気持ちを言ってくる時があります。その時に、「その時はあなたは何も言っていなかったじゃない」や「あなたはその時大丈夫って言ってたから、今そんなこと言われても困る」などと返してしまうとせっかく出した感情も意味がないものになってしまいます。

 この場合は、「現実に起こったことがどうだったかの議論よりも、子どもの出来事そのものに対する捉え方、その奥に隠された感情への対処の方が重要」です。また、子どもが示す表向きの行動は本心を隠すためのものであることを親が理解しておくことが必要です。まずは、子どもが出した感情や思いを受け止めることを忘れないようにしないといけませんね。

「親子関係が失われると子どもは悲しみに打ちひしがれ、絶望し、最終的に喪失感を癒すために一切の感情を切り離す」ことがあります。それだけはないようにケアして行かなければいけません。

不安や悲しみに対しての反応は人それぞれ

 引きこもりがちになったり攻撃的になったり、時にはある一つのことに異常なぐらいのめりこむことなどが挙げられています。これは、楽器やスポーツ、勉強などに異常に打ち込んでいる場合は、不安や悲しみの反動である可能性があるそうです。その行為自体は悪いことではありませんが、子どもの様子を観察して、必要であれば声かけをして内に秘めた思いを話すきっかけを用意する必要があるかもしれません。


 以上がこの著書を読んで学んだことです。ここでは主に、海外で生活した時または日本に本帰国した時に起こる気持ちの変化やトラブルについてまとめてきましたが、日本国内で生活していても大切な人たちの別れや移動に伴うストレス、子どもへの関わり方として学べることはたくさんあると感じました。また、ここで紹介したこと以外に、「親が子どもの話を聞く時に陥りがちなトラブルやその対処法」について細かく学ぶこともできます。

 どうかこの記事を読んで役に立ったと思っていただけたら何よりですし、この記事をきっかけに著書をお読みになって新しい気づきがあれば嬉しいです。最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考文献>
デビッド・C.ポロック、ルース=ヴァン・リーケン著、嘉納もも、日部八重子訳『サードカルチャーキッズ 多文化の間で生きる子どもたち』(スリーエーネットワーク、2010)

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