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『学習する学校 子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』第15章つながり(コネクション)【375】

 これからの学校教育のあり方について、教室と学校で必要な考え方や取り組みについて見てきました。そして、第3部「コミュニティ」では、学校教育を学校内だけのものとせず、学校外の地域や組織とつながることの重要性や取り組みについて書かれていました。そして、第15章ではコミュニティのつながりという視点で重要だと思った部分をまとめておきたいと思います。

当たり前を疑う

 小学生低学年で読解の学習が遅い生徒に対して、追加の補習を受けさせる方が学力を補完できるという考えが正しいと思われがちですが、実は小学生の能力は時間の経過とともに後から伸びてくるにも関わらず、留年や追加の課題などで「あなたはできない」というメッセージを伝えて、子どもたちの自信を奪ってしまう状況に気づくことができません。

 こういった例にあるように、無意識に前提となっているものを自覚できるためになるようなコミュニティへのアプローチが、セント・マーティン教区で行われた、コミュニティ全体の学習能力を高めるための方法が紹介されています。そこではコア・グループを作成し、コミュニティや学校に関して心配していることをいろんな立場の人から共有し、自分たちだけでは思いつかなかったようなことに気づき、「自分にも何かできることがあるかもしれない」という新しい発見に至るアプローチが紹介されています。

オーバー・ザ・ライン住民プログラム

 ここでは、住民同士が自分の分野を超えてつながることについて書かれています。このプログラムでは、コミュニティとして批判的に教育について考え、「今の現実を再生産している支配的なイデオロギーや利害や教育内容を検証」したり、公平なコミュニティを築くのに障壁になっているものや、他者と深く関わりながら自分の中にある前提を問い直すことを学びます。

 私がこのプロセスで特に印象的だと思ったことは、「表現こそがより創造的でかつ解放につながる実践になる」という考えです。問題を分析する時に、自分が問題だと感じていることについて話すこと、自分にできることは何かを考え他の人に表現することは、新しいアプローチにつながる可能性が十分にあるということです。問題の責任の所在を探したり、誰かのせいにしてそれで終わるような受動的な姿勢のままでは問題は改善されません。
 このプログラムの中で、学生が貧困問題を現実的に捉えられるようになり、投票の意義を感じることができるようになったという変化が起こったことも紹介されています。

終わることのない学び

 教室や学校に限らず、コミュニティでの学びにおいても終わりが来ることはありません。私たちはプログラムが終わっても、問い続けること対話をすることは終わるものではなく、それ以降も学び続けたいと思うものだと書かれていました。コミュニティ運動のボニー・ノイメイヤーの言葉が紹介されていたので以下に引用しておきたいと思います。

 この場にいる私たちの仲間の一部になりました。この場を去るとき、あなたたちはここに自分の何かを残し、そして私たちの何かをもって行くのです

『学習する学校 子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』第15章より

「パズルのピース」と共有ビジョン

 私はかつて部活動の顧問をしていた時に悩んでいたことが一つありました。個人競技しかしたことのない私が、指導経験のないハンドボール部の顧問をしていた時に、チーム内でのモチベーションの差にどう対処すれば良いのかということです。そういった悩みを解消するヒントが書かれていました。

 バスケットボールのコーチとしてのアプローチが紹介されています。そこには、さまざまな動機でやってくるプレーヤーに対して、全体を見渡すシステム的な3つの見方をすることで成功につながるとされていました。
 チームが相互関係で成り立つものであることを自覚し、共有ビジョンや共有ミッションを時間をかけて話すことで育てていき、チームの目的や目標に焦点を当てることで、対立などが起こった時にもそこに立ち戻ることができれば、チームがバラバラになることを防ぐことができるとされていました。

 ここでもチームとして話す時間が重視されていることがわかります。対話を重ねていくことで、自ずとチームが目指すべきものが見えてきます。共有ビジョンを育てる時に、パズルのピースにそれぞれが得意なことや不得意なことを書いていき、それを合わせてチームとしてのビジョンについて語り合う活動をしています。そのように個人のビジョンとチームのビジョンを可視化することで、それがチームというものを深く考えるきっかけにしているのだと思います。
 そのようにチームの土台をしっかりと作っておき、その後は共有したビジョンに立ち返ったり、個人への援助をうまく組み合わせていくことでチームとしての成功に近づくことができるということがわかりました。

ビジネスと教育におけるパートナーシップの改善

競争では学力は底上げされない

 企業が求める人材と卒業生のスキルのミスマッチが現在起こっています。
世界市場で求められるのは、「科学的知識とコミュニケーションスキル、テクノロジーへの鋭敏な洞察力を持つ」ことで、今の卒業生はそういった能力を持ち合わせていないと考えられています。
そこで起こることは、ビジネス界のリーダーが学校を人材供給機関として考え、学校を競争的な市場に置いたり、研修や賞罰制度を取り入れようとします。しかし、こういったアプローチは教育における成果向上には貢献することはなく、多くの学校が深刻な状態に劣ってしまったと2009年のスタンフォード・教育成果研究センターの研究では判明しています。

 アメリカの一部の企業では、「利潤の最大化は中心的な目標ではなく、社員、彼らに関わるコミュニティ、顧客たちが望むことをすれば、利潤はおのずと上がることを経験している」ため、教育においても成果を求めるのではなく、子どもたちに安心や希望を持たせるような取り組みであれば結果は変わっていたはずだと書かれていました。

ビジネスと教育のパートナーシップの可能性

 ビジネスが教育に誤った方針を押しつけた過去があったものの、学校教育はビジネス界とのつながりをもつことで、社会をより現実のものとして捉えることができるというメリットもあります。例えば、社会の利益のために働いている人たちの話を聞くことで、社会に出てこんなことがしてみたい、こんな風に社会を良くしたいという気持ちを持たせることができるかもしれません。ビジネスと教育がパートナーシップを持つような取り組みができれば、コミュニティとしての強さが強化されます。詳しくは本書での取り組み例を参考にしていただければと思います。

 このように、過去の失敗から「ビジネス界の影響を学校教育から排除する」のではなく、悪影響だった部分を見直す方向に持っていくことが望ましいと考えられます。そして、どうすればより良い関係を築き、子どもたちの学びの環境を発展させていくことができるかというところに視点を移すことで、物事の見方はずっと変わるのではないでしょうか。

<参考文献>
・ピーター・M・センゲ他著、リヒテルズ直子訳『学習する学校 子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』(英治出版、2014)

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