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ジョン・ハッティ『教育の効果 メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化』(第1章)本書の試み【317】

 元高校教員で現在も子どもの教育に携わる者として、特に学校関係者にとっては「教育に関するエビデンス」にもっとアクセスしやすい環境で教育活動ができるのが理想的だと思っています。

 学校で経験を重ねるにつれて、いろんな実践ができるようになりますが、その途中で教師自身も学習者として振り返りができるような時間的・精神的余裕がより一層求められてきます。

 学校教育をより広い観点から捉えることができるように、ジョン・ハッティ著、山森光陽訳『教育の効果 メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化』からは宿題、指導方法、振り返りなどあらゆる教育的な取り組みが学力にどのような効果があるのかを知ることができます。
 私たちの周りにある当たり前を疑い、新しい教育実践に取り組んでいけるような環境が整えられていってほしいと思います。

 それでは、この記事では第1章で書かれていたことについてまとめていきたいと思います。
 ジョン・ハッティが本書で一貫して重要性を述べているのは「フィードバック」です。単にフィードバックさえ実施すれば良いかというとそうではなく、フィードバックの本質を理解し、それを実施するにあたってどのような姿勢を持つべきなのかを本書から学んでいただけたらと思います。

【第1章 本書の試み】

学力に影響力を持つのは家庭?学校?

 子どもの発達に直接的に関与する人は、児童生徒、保護者、教師になります。教師を取り巻く環境として、学校の学習環境や教員の働き方などに関しては学校管理職も関わっていると言えます。

 著書によれば、実は児童生徒・保護者・学校管理職・教師の間では「学力に影響する要因」はそれぞれ違うものを想定しているというのです。

 つまり、「児童生徒、保護者、学校管理職は教師と児童生徒であると考えており、教師は児童生徒自身、児童生徒の家庭、学校の教育条件などと考えている」というのです。確かに、教育現場で働いた経験と保護者としての立場をもつ私としては、その食い違いは起こることが理解できます。

家庭が土台ではあるが、学校と家庭の両輪が影響する

 ここの問題点については、学習に入る時の態度や先生の話をきちんと聞けるかどうか、または社会生活面において家庭環境が大きく影響してくると思います。
その一方で、学校では学力に関する直接的な指導が行われ、クラスという集団の中での振る舞いやマナーなどについて学びます。

 これらは完全に独立して構成されるものではなく、家庭教育によって培われた基礎の上に学校教育の効果があると考える方が自然ではないでしょうか。

 家庭からすると学校に行っているのになぜ学力が伸びないとか結果ばかりに気が向いてしまっていたり、友達とのトラブルで学校から連絡があると学校の責任だと感じる保護者も多いかもしれません。しかし、それらは互いに強く結びついており、もちろん学校教育が始まって家庭生活に影響することもあるかもしれませんが、家庭教育が土台となって学校教育があるという考えを持って、お互いに歩み寄りながら一緒に子どもを育てるという感覚が必要なのかもしれません。

学校教育に関する問題提起

 学校とはどういう場所なのか、そしてどうあるべきなのかということについては教師が一人一人自分の考えを持っています。そういった多様な考えが子ども達を健全に育てるという側面があります。

 ただし、学校組織としてある程度共通目標を持っておかないと授業や学習方法の違いが子ども達の学力の伸ばす障害になってしまうかもしれません。
 学校教育でこれまでに当たり前とされてきた「学級は同年齢の児童生徒によって編制される」「知識体系が教科に細分化されている」「編制された学級には1人の教師が付く」といった考えに対して疑問をもち、組織が持つ共通目標に近づけるために変化させられるものは何かを考える力と風土が求められます。

 クラスの子ども達、担当する教師の組み合わせによって授業で行う実践は異なります。「単純に1つの方法を適用したところで、慌ただしく、多面性をもち、児童生徒の文化的背景も多様で、日々変化しつつあるといった状況にある教室では効果はない」と書かれているように、教師の実践は常に変化させることが必要で、そのための観察する力や自分の実践を振り返る力は絶対に必要です。

子どもたちは毎年入れ替わり、組み合わせも変わる

 学習者は、毎年担当する教師が変わる度に、学び方を変えなければならず、学力を上げ自己実現に近づくような方法を身につけることもあれば、その逆で、子ども達の成長を阻害するような方法もあります。また、教室は閉鎖的な環境であることが多く、子ども達の不満はわがままとしてうまく取り合ってもらえないことも多いと思います。

学力の低さは本人の学習に責任があるのか

 児童生徒の学力が低く、さらに彼らがマイノリティである場合、その子たちの学力が低いことはその子たちの責任であるという考えを持ってしまうそうです。それは子ども達も教師も同様で、教師による授業が大きな影響を持つことには気づかないのだそうです。

「恵まれない条件言説」

 本書では、学習に見通しをもち、協同的な学習が進められる学習環境を整え、学習内容を現実世界のものとつながりを持たせることによって子ども達の学力が飛躍的に伸びたことが示されています。
 子ども達へのアプローチとしては、フィードバックや学習がそれぞれの経験とつながっているようにすること、学習の目的やその過程についてもきちんと子ども達が理解できるような支援をしたことが何よりも学力の向上につながったことが分かったとのことでした。

私たちの周囲にある当たり前を疑おう

 教育現場に限らず日常生活においても、疑う必要があるようなものでも、当たり前だと思って考えないままのものがあります。

 そういった俯瞰して考える力やメタ認知の力は、実践と研究の行き来の中から身につくものなのかもしれません。

 このように私たちの身の回りにある当たり前を疑い、子どもたちに必要な教育実践を模索し考えたことを共有する環境があれば、子どもたちの学力を高めるための環境整備ができると考えられます。第2章以降においても、いろんな知見を探りながら記事をまとめていきたいと思います。

<参考文献>
ジョン・ハッティ著、山森光陽訳『教育の効果 メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化』図書文化社、2019

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