見出し画像

悩める就活生との対話から感じる日本教育の課題〜約3年ぶりの日本への一時帰国②【254】

 日本に一時帰国した時、私が元々勤めていた公立高校の卒業生と久しぶりに会う機会がありました。その子は、私の退職と同じ時期に高校を卒業し、大学に進学した元生徒です。そして、これから就職活動が始まるタイミングで相談したいことがあると声をかけてくれました。

「将来自分のやりたいことが分からない」
「今の自分が社会に出て何ができるか分からない」
「自分の強みは何か分からない」

 私が高校教員の時から、そういった悩みを持つ生徒がたくさんいました。そもそも、子ども自身に将来の選択権が残されているような、経済的に豊かで生活環境に恵まれた国では、こういった悩みは日本に限らず一般的なことなのかもしれません。ただ、私がいつもこういった話を聞いた時に感じることは、日本の教育では自分のこれまでについて振り返るような内省の機会が、まだあまり用意されていないことが問題だということです。

 私自身がオランダに住んで感じた「自分のことを振り返ったり、何かを深く考えるトレーニングの重要性」とも関連しているので、今回卒業生と話した内容とそこから感じたことをまとめておきたいと思います。

答えは自分で用意する

 学校教育で学習することには答えが用意されていることが多いです。また、学校の先生自身も子どもたちにじっくりと考えさせて決断させる機会を用意できていないことがまだまだ多いように思います。
 しかし、これまでに世の中で散々言われてきたこととして、社会に出ると正解のないことばかりで、その中で自分なりの「納得解」を見つけ軌道修正しながら前に進む力が必要になります。そういった力を付けるには、生徒が自分で決めて取り組み、自ら小さな修正を加えながら何かを成し遂げるという経験が必要なのです。これまでにそういった経験がほとんどなく、周りの大人が用意したレールを進んできた子たちにとって、そういった練習をしてきていないため、急に「自分で決めなさい」と言われても難しいのです。
 私はそういった自分で決めるトレーニングが不足しているけれど、自分なりに深く考えたいと思っている学生を応援したいと思っています。

就活生のキャリア意識と向き合ってみた

 就活生の話に戻って、私がこれから就活を始める元生徒と話したことをまとめていきたいと思います。公立高校の教員いわゆる教育公務員を辞めて、現在オランダでフリーランスとして働く私が、その学生に話したことは以下のようなことでした。その時に私が伝えたのが、「これが正解だと考えるのではなく、こういう意見の人がいるという参考程度にしてほしい」と伝えました。これまで歩んできた人生も出会ってきた人も全然違うので、私の話を鵜呑みにされても困ります。話を聞いたあとは、本人が時間をかけて「自分ならどう考えるか」の時間を作ってほしいと伝えました。

実際にどんな仕事がしたいか分からない

 どんな仕事が最も自分に向いているのかというのは、あまり考えすぎるのは良くないと思います。実際に始めてみないと分からないこともたくさんあるわけです。

 今のこの仕事が自分に向いているかはわかりませんが、少なくとも私自身が「楽しい・やっててよかった」と感じる場面は多いです。
 そもそも私は「社会全体の幸福度が上げたい」と思っていたので、かつては学校の先生という選択をしました。しかし、その最終的な目標を達成できるものだったら、学校の先生でなくても他の選択肢があります。もしくは教育に関わらなくてもできることがあるかもしれません。世の中に数えきれないくらいの職業・職種があるので、どの仕事が最も自分に向いているかというのは難しいことだと思っています。

 そのため、少なくとも自分にとって全く興味のないものを除き、その後に残ったものから、いろんな条件(勤務地や自分の働く上で必要だと考える環境)を整理して選択したら良いのではないでしょうか。
 重要なのは、これが私にとっての正解だと考えるのではなく、ある程度ふるいにかけた後に行った選択をしてから「何を学びどう自分が成長していくか」だと思います。また、そこで経験したことを活かしてこれからの自分はどうありたいのかというところに意識を向けたら良いと思います。

自分にどんなアピールができるのか分からない

 日本の学生にはかなり多いケースで、自信のない子が多いというのは日頃オンラインの家庭教師をしていても感じることです。自信過剰よりも多少謙虚なのは大切なことだと思いますが、あまりにも自分に自信を持てていない学生が多いです。

 とはいっても、大抵の学生や生徒たちの話を聞いていると、意外と自分で考えて行動していることというのはあるものです。ただ、それを自分で振り返ることが不十分なケースがほとんどです。つまり、そこにはどんな苦労があり、自分はそこで何を達成できたのか、どんな学びがあって次に活かせたのかというフィードバックが十分にできていないのです。
 そういった意味でも「自分のこれまでについて振り返る」機会は、家庭や学校教育などあらゆる場面で必要だと思います。私は今担当している子たちとは、なるべくそういう機会は設けるようにしています。

学部と働く内容についてあまりつながらない

 その学生は文学部に所属していて、経済学部や経営学部、商学部などに在籍する学生の方が有利になるのではないかと不安になっていたようです。

 業務の内容によってはそういった学部せ学んできた学生の方が良いという場合もあると思います。しかし、その一方でそういった実務的なこととは違うスキルが求められることがあります。これは、新聞記事で読んだものなのですが、実務的な面以外の物事を広く深く捉えられる思考力を持つ人材も求められているのです。
 同質性の高い集団からは新しいものは生まれにくいものです。実際に企業で働いている人の話を聞いても、現状を打破できる力、当たり前を疑える力は求められています。そういった意味でも、文学から学んだことは逆に活かすことができると考えても良いと思います。実際に私がIBの文学の学習サポートしていても、ただ文章に書かれたことで議論するのではなく、その時代背景や社会がどのように作品の中に映し出されているのかというような、細かい部分までの分析を求められている場面がたくさんあります。そういった文学研究で身につけた思考力や分析力を武器にしてもらいたいと思います。

 現在は、AppleやGoogle、Microsoftなどの巨大企業でも、瞑想ルームを設けマインドフルネスを重視しています。また、文学部や芸術系の学部、哲学を専攻した学生の採用する企業も増えているという記事を読んだことがあります。
 実用的なことも重要ですが、その前提として忙しい日々の中で実務だけに捉われず、一人一人の仕事に対する思いや日頃の忙しい中で心を整えることができる人材も求められていると言えるのではないでしょうか。

どんな企業を選べば良いのか

 これもどの企業が正解かはわからないと思います。働く条件については事前に手に入る情報もあると思いますが、自分の配属や一緒に働く人、自分に任せられる仕事内容や取引先など、会社に入ってから決まるものや入った後から変更されるものもたくさんあります。

 大切なのは、その時に置かれた環境の中で周りのせいにせず、「自分ならこの環境で何ができるか」を考えることだと思います。もちろん、無理を強いられ自分の生命や健康が脅かされるような環境であれば、その環境から離れるという決断もすべきです。しかし、自分らしくいられる環境が整っているのであれば、そこから自分が何ができるかを考えて行動していけば良いと思います。
 自分の好きなことだけを仕事にできるのはほんの一握りの人たちだけなので、常に自分らしさを保つのが難しい時もあるかもしれませんが、今の仕事が次につながる経験になっていると思って働くことができたら良いのではないでしょうか。
 企業は自分が働く土台であって、その土台を変えるべき時は変えたら良いし、その土台でできることがあれば取り組めば良いということです。

 最近は自主性が変なところに行ってしまって、自分の思い通りにならないから辞めるという社会人もいるようですが、それは物事が全て主観的にしかみられていない人たちが陥るパターンなのではないかと感じます。自分が社会の中でどんな存在でありたいのかという広い視野を持つことができていればそういった考えにはならないはずです。

 つまり、結論として自分が成長できるもしくは自分が幸せだと感じられる場所が良いのではないでしょうか。人によって幸せを感じる部分は違うので、それぞれが自分らしくいられる環境を選んでいけば良いと思います。

仕事は「思い×能力」

 中学生のキャリア開発の授業を担当した時、この考え方はとても分かりやすいと思いました。仕事は「思い」「能力」のどちらかだけでも不十分です。またそれを伝える力も必要です。

 私が話した学生は、「自分の仕事の時間に合わせてお客さんが来てくれることがあり、それがとても嬉しい」ということを話してくれました。その時にこの話を思い出して学生に伝えました。
 あるお客さんが仕事をうまくこなせる能力だけで仕事を任せようと思うと、自分よりももっと上手な人を選ぶかもしれません。しかし、仕事には人の思いが載っているため、「この人にお願いしたい」ということがあります。もしその人が魅力的な人でも、任された仕事を遂行する力がなければこれも成立しません。つまり、思いと能力のどちらもが必要とされており、その人の魅力で仕事が動くことがあるということを伝えました。仕事という捉え方を、ただ業務をこなせる、その業界の知識があることだけが大切なのではないという広い考えを持ってほしいと思います。

日頃から「振り返り」「対話」をすること

「自らの考えや行動を言語化し他人と共有しつつ、自分のこれまでについて振り返ることができる」
これが私が考えるみんなが幸せに生きるための条件だと思っています。

 正解を見つける、もしくはそれが正解かのように振る舞って相手を論破するのではなく、自分の考えと相手の考えを組み合わせ、うまく噛み合っていないところは話し合いで調整し、最終的にお互いの良いところを混ぜ合わせた「合意形成(コンセンサス)を作り出す」という考えは非常に重要だと思います。
 正解に頼りすぎると自分の考えに固執したり、特定の人の考えを鵜呑みにしてしまい、修正すべき部分が見えなかったりすることがあるかもしれません。

 大切なのは、自分が社会に出てどんな「自己実現」をしたいと思っているのか、またどんな形で「人々を幸せにしたい」のかがスタート地点です。
 そして「仕事に求められるスキル」とは、業務をそれなりに効率的にこなす「業務遂行力」に加え、自分なりの思いをのせたアイデアが出せる「発想力」、みんながそれぞれに持ってきたアイデアを互いに調整できる「コミュニケーション能力」、集めた情報を整理したり吟味する「分析力」、最終的に合意形成まで持っていける力だと思います。

 私は企業に勤めたことはなく、公立の学校と現在はフリーランスとして子どもたちの教育サポートの仕事をしていますが、企業で働いている友人や新聞記事などに書かれていることをまとめて考えたことが以上になります。

 この話を聞いた学生は少し安心した様子で、「自分の持ち味をしっかり出して就職活動に挑みたい」と言っていたので、これからも頑張って欲しいと思います。これからも子どもたちや生徒、学生たちと関わって気付いたことや考えたことを記録していきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?