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IGCSE"Economics"の課題〜ニュース記事を経済的視点から分析[409]

 今回もケンブリッジ式のIGCSEのカリキュラムで学ぶ生徒が取り組む経済の課題について紹介したいと思います。学習言語はもちろん英語なのですが、元公立高校の社会科教員としては非常に興味深く、このような学習が日本でも広まってほしいという思いで、日本語に訳して記録しています。
 中学の公民として考えると非常にハードな内容かもしれませんが、高校の政治経済の科目であれば部分的に導入できるかもしれません。


ニュース記事①「薬はどのようにして210万ドルも費用がかかるのか」

 この記事では、小児疾患を治療するための遺伝子治療の薬ゾルゲンスマが、スイスの会社から210万ドルで売られることが承認されたと書かれています。この法外な値段に対し批判も生まれていますが、この比較的新しい遺伝子に関する薬物開発にかかるコストを踏まえるとこの価格は適正であると判断されています。ちなみに代替品となるスピンラザは、投薬の回数が1回であるゾルゲンスマに比べ長期間に渡って服用する必要があり、最終的にかかる費用はゾルゲンスマを超える400万ドルになります。薬の作用についての詳細は記事をご覧いただけたらと思いますが、高い価格であることに対して学習者がどのように捉えてどう考えるかがテーマになります。

7つの問い

①「独占」を定義する
②ノバルティス(スイスの製薬会社)が210万ドルを請求する2つの理由を説明する
③別の会社がまったく同じ薬を低価格で提供できるかどうかを考える
④「代替品」を定義する
⑤ゾルゲンスマの代替品であるスピンラザは合計400万ドルで販売されている。ノバルティスのような製薬会社がどのようにこの価格を維持することができるのかを説明する。
⑥あなたがノバルティスで働いていると仮定して、210万ドルの値札への経済的正当性を主張する(利益を生むことは正当化ではない)
⑦これらの薬を低所得世帯に手頃な価格で提供するための2つの可能な解決策を説明する

ポイント

 経済用語について定義をし、その働きや関連する経済的な事象をうまくこの事例に当てはめながら考えていくことが必要になります。
 独占状態での価格はどうなるのか、新規の参入があると価格は変化するのか、新しい産業で生産された物の価格について学習したことを整理していくとニュースの記事で書かれていることを理解し、自分の考えをまとめることができます。さらにこの課題では、税金を課したり補助金などの役割も問われています。

ニュース記事②「FacebookがWhatsAppを190億ドルで買収」

 こちらの記事では、"Facebook"がメッセージアプリである"WhatsApp"を、Facebook史上過去最大規模で買収したことが報じられています。
 "WhatsApp"は1日で100万人もの新規登録者が現れるほど、世界中の人々が利用する無料のメッセージや画像のやり取りができるアプリとされています。"Google"が10億ドルで買収しようとしたところ、"Facebook"が19億ドルを提示した程の魅力が"WhatsApp"にはあったと書かれています。メッセージアプリの中には、支払い機能を搭載しているものもあり、若者を中心に拡大しています。他にも"Snapchat"や"WeChat"があり、過去に"Facebook"が"Snapchat"の買収を失敗したことも書かれています。このようなメッセージアプリの今後の展望が期待されているというような内容の記事です。

6つの問い

①「合併」を定義する
②"Facebook"が"WhatsApp"を買収することを決めた2つの理由をする
③"Facebook"が無料で提供されているにもかかわらず、どのようにお金を稼いでいるのかを複数の方法で説明する
④「水平合併」と「垂直合併」の違いを説明する
⑤"Facebook"が"WhatsApp"を買収するのは、水平合併か垂直合併か、もしくはコングロマリットのどの種類の合併になるかを考える
⑥"Facebook"は"Snapchat"とどのような競合関係にあるかを説明する

ポイント

 ここでは、合併の種類について復習し今回の"Facebook"が"WhatsApp"を買収という事象がどれにあたるのかを分類し、その理由を説明することが求められています。このように授業の中で学ぶ知識を現実世界の文脈で考えることは非常に有益だと感じます。授業で得たことを社会に応用するという経験は、今後も科目や学習内容が変わってもいかされていきます。

 上記の2つの課題のように、現実で起こっていることを経済の知識を使って理解するという経験は、学習者にとって学ぶことの意義を再確認する機会にもなります。そのため、机上の空論として終わるような感覚になりにくく、常に自分が生活している中で考えたり気づいたりする喜びに触れると、学ぶことが自分の成長につながることが理解でき、学習意欲の向上にもつながると感じます。

 以上、私がIGCSEの経済の課題から感じたことでした。最後までお読みいただきありがとうございました。

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