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ジョン・ハッティ『教育の効果 メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化』(第7章)教師要因の影響 【325】

 これまで、学校や家庭そして学習者本人の要因について、本書の各章に合わせて考察をまとめてきました。この記事では、第7章の内容に合わせて「教師要因」について学んだこと、考えたことをまとめていきます。

【第7章 教師要因の影響】

 学習者が自分に力をつけてくれたと感じる教師は、小・中・高を通して2〜3人程度とされているそうです。これは、私も経験上納得できますが、割合でいうと全ての出会う教師のうち4〜6%程度でしかありません。

 力をつけてくれたと感じる教師の特徴としては、複数の研究結果から「学習者との関係が良好」「効果的な学習方略を教えたり、学習のサポートを喜んでする」というのがあると書かれていました。

教師と学習者の関係

心を開く教師

 ニュージーランドにおけるマオリ族の児童生徒も通う学校に関する研究が紹介されています。ここでは、教師が「学習者の主体性と有能性、もちあわせている個人差を尊重し、教室で認められる経験をさせる」ことで、大きな効果が得られたということが分かりました。教師と学習者の関係を深めるには、「傾聴・共感・思いやり・他者に対する敬意を払うことが不可欠」(Cornelius-White、2007)で、学習を効果的なものにするためには、関係づくりを疎かにしてはならないということが分かっています。

関係づくりのヒント

 子どもが学校に行きたがらない、あるいは学校が嫌いになる理由に、「主として教師のことが嫌いだから」というのが上がるそうです。確かに、人には相性がるので、教師が全ての子どもから好かれるのは難しいことです。しかし、子どもとの関係がうまく構築できていない状況だと、教師のことを嫌いになる子どもが一定数出てくるので、学習環境もきっと良くない状況があると思います。子どもたちに気に入られようとする態度は必要ありませんが、子どもたちとの関係にも気を配らなければならないということだと思います。

 学習者の学力が高まることは、誰もが望んでいることです。しかし、その前提として教師がうまく学習者と関係を築けていないと、せっかくの効果的な指導を行っても結果は実りません。そのため、まずは学習の第一歩としての「教師と学習者の関係をつくる」にはどのようなものが必要なのかを、本書に書かれていたことをもとにまとめておきます。

 私たち学習をサポートする立場の者は、「教師の学習者尊重性と学習者の学力と態度との相関は高い」ことを理解しなければいけません。「教師主導ではないこと、共感、温和さ、高次な思考への励まし、違いへの順応、信頼、学習者中心の考えをもつこと」があるかどうかを確認し、「児童生徒一人一人を人として尊重し、一人一人の学習を思いやりをもって支援し、児童生徒に共感的に接する」ことができているかどうか、とありました。ここで私が感じるのは、教師の魅力以前にその人の「人間としての魅力」が重要だということです。こういった、共感性や思いやりのある教師というのは、そもそも人間的にそういったものを持ち合わせていないと、学校の現場だけでそれができるとは思えません。

 人間的な部分以外には、「学習の目的とまずは何に取り組むべきかを明確に伝える」「児童生徒の立場に立って、児童生徒のことを理解し、児童生徒にとって自己評価をしやすく、安心感をもち、関心を寄せられ気遣いを受けていると感じられるようなフィードバックを与える」と書かれていました。

現職教育

 教師は現場に出たらそれで終わりではなく、常に社会の変化に対応しながら教えるという技術を磨く必要があります。そのために、現職の教師が学び続けるためにどのようなサポートが必要なのか、本書にまとめられていた内容を簡単に載せておきます。

 「教師は長期にわたって学び続けなければならない」という前提に立ち、「学校外の専門家も加わる」ことでより効果的になるとされています。また、教師が「じっくりと学ぶ」ことができ、「学習にまつわる固定概念や言説を疑問視」できるような現職教育が理想的だとされています。その上で、「あらゆる手を尽くす」機会があり、「授業について教師が議論」できるように、学校管理職の支援が受けられることで現職教育は充実するとされていました。現職教育について、資金や職務専念義務免除の有無、参加の自発性などは学習者の学力には違いをもたらさないとされています。そのため、学校現場の業務の中で、常にそういった対話や教師が学習する場を設けることで、より効果的になっていくのではないかと思いました。

学習者への期待

 教師が学習者に期待を持つことは、家庭で保護者が期待を持つのと同様に重要だとされています。

ピグマリオン効果

 教師が生徒に期待をかけると、その生徒の成績が向上しやすいということが分かった実験です。その逆で、期待をかけないでいるとその生徒の成績は伸びないという「ゴーレム効果」があるとされています。

 学習者に期待を寄せ、どのようにアプローチするのかはいろんな方法があると思いますが、これについても見通しのある学習、アウトプットの機会、フィードバックがあるかどうかが重要であると考えられています。この辺りは、第3章の主張の部分と重なるところです。信頼関係を築き、適切なサポートをすることで学習者の学習効果は大きくなります。また、単に褒めるだけではあまり効果は期待できず、フィードバックを行うことが重要だとも書かれていました。さらに子どもの見た目に対する効果の違いもあり、これは教師側が見た目の良い方に無意識的にアプローチを偏らせてしまうことが背景としてあるようです。

学習者のレッテル貼りが生み出す「負の効果」

 学習困難児やマイノリティというレッテル貼りは負の効果をもたらすことが分かっています。また、教師が学力は固定的なものか、もしくは変化させられるものだと捉えるかどうかで、学習の効果も変わってくると書かれています。能力よりも上達を強調することで、子どもたちの学習の取り組み方にも変化が生まれます。

 学習者は自分の見られ方を十分に理解していることも本書に書かれています。ここで、能力別の授業などをしてしまうとそこで生まれた劣等感をさらに強調することになります。こういった学習者への期待の差は、学校だけではなく社会全体から生まれているため、教師はそのことを深く理解する必要があります。

 このように、教師が自分の経験に基づく偏った判断が負の効果を生み出さないように「過去にもちあわせていた期待に対する証拠を探すのではなくこれまでに見られなかったことは何かを求めるべき」ということも書かれています。私は別に「学習する組織」という書籍も読みましたが、同じようなことが書かれていました。要するに、見えていないものを見ようとする姿勢の重要性がうかがえます。

学習者の分類

 学習者には人格的なもの以外に、学習に関する個性も多様です。読み書き計算は習得の差は現れやすく、特に小学校低学年の時は保護者もかなり気にしています。発達の度合いや時期にはそれぞれ個性があるにもかかわらず、大人が勝手なレッテル貼りをして子どもに劣等感を植え付ける可能性があります。それがやがて、「ゴーレム効果」として本来伸びるはずの学力の発達を阻害することになります。
 また、読み書き計算の発達が遅れていると感じた時に、それを分析するためのいくつかの考えがあった方が落ち着いて対処できると思います。そういった分析が本書に載せられていたので、ここに記録しておきます。

算数障害

 算数が苦手だという傾向がある時に、ただ計算量を増やせばよいというわけではありません。「文章題、命名速度、文字、単語、数、文章の短期記憶といった言語能力が低い」ことがその背景として考えられるそうです。
 このような「言語的作動記憶に困難が見られることが算数障害につながっている」(Hoskyn & Swanson、2000)ことから、もし子どもの算数の勉強がうまく進められない時は、そういった言語的なアプローチを再考すると改善が見られるかもしれません。

読解障害児

 読解に関してうまく学習が進められない時に、どのような訓練をすれば良いのかについて書かれていました。「語彙知識、統語知識、視覚空間処理、音韻処理」などの「音声的な訓練(綴りと単語の理解を結びつける)を行うことが読解能力に対して直接的に効果的」だとされています。

教師の明瞭さ

 これは、本書に一貫した主張として述べられている「見通しの立つ学習」や「フィードバック」の重要性と関連しています。

 教師の学習に関する話の聞き取りやすさや内容のわかりやすさが学力との相関があるとされています。また、評価が学習者にとってわかりやすく伝えられるかどうかも関係してくるとされています。

まとめ

 教師の質と期待、現職教育、効果的な指導、学習者との良好な関係が、学習者の学力に影響することがわかっています。学習者にとっては、どの教師が担当するかが大きな賭けであることが問題視されています。

 教員養成を効果的にするためには、客観性の高い方法による評価制度を作ること、さまざまな指導方法を試行錯誤を繰り返しながら幅広く身につけることができる環境が重要です。これは初任の教員にとっては効果的とされています。また、熟練した教師にとっても、これまでの経験を相対化させたり、まだ見えていない問題点を把握するきっかけになると書かれていました。

 教師の期待に次いで、学習者の能力を伸ばすことに関する「共通理解」も重要だとされています。共通理解と共に学習者との関係を重視することで、より学習の効果が高まっていきます。最後に、教師がもつべき価値観を以下に引用しておきます。このようなマインドセットをもって子どもたちと接することからスタートすると、教育の効果がさらに高まると考えられます。

「学習者が自己評価に役立つフィードバックを受け取り、安心感を抱き、教師も自分と同じ関心をもち、また教師が自分のことを気にかけていると感じることにつながる」(Cornelius-White,2007)

・教師とは変化を起こすものであるという職業観
・全ての学習者は学ぶことができ、伸びることができるという学習者観
・学力は固定的なものではなく変えられるものであるという能力観

『教育の効果 メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化』(第7章)より

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