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自立型自習に必要な「読んで理解する基礎的な力」③ - 教育のための科学研究所のRSTから学んだこと【Aflevering.157】

 日本教育は詰め込み型の学習から脱却するために、日本各地でいろんな試行錯誤が行われています。そういった実践に関するニュースや記事を拝見する度に、日本で働く先生方の教育への情熱を感じます。
 私は今はもう高校教諭という立場からは離れてしまいましたが、高校生の段階から「考える力」を養うための授業をすることはかなり難しいと感じていました。
 特に、中学生の時に「社会科は覚えるもんだ」ととにかく丸暗記をすることを求められてきた生徒たちは、新しい学び方に慣れるまでにかなりの時間がかかっていました。単純に覚えれば良いという作業から、自分で論点を見つけなければならない作業に移行することはかなり難しいと思います。

 私は初めて授業をする時は、中学生の体験授業でも、高校生の授業でも、「社会科は暗記科目だと思いますか?」という質問をすることにしています。その質問に対して、ほとんどの人が手を挙げます。
 私も一部、同意です。社会科の学習は事実に基づいた考察が必要になるため、仮にそういった要素がそれなりにあるとしても、「試験前に大量に詰め込む癖」だけは何とか改善させたいと思っていました。

 中学生や高校生の中には、教科書の文章をよく読んで理解してから覚えている生徒もいるようです。私のかつての同級生にもそういった生徒はいました。
 これまでの私の経験からすると、彼らは自分で学習する能力があるので、基本的にどんな学習法においても成績は高いのではないかと思っています。

 日本の教科書については、ただ事実を羅列しているだけで、その間の社会の動きや関係性に関する記述が少ないため、理解するのは難しいのではないかと感じています。
 これについては、中立求められる教科書に客観的な事実は記載できるが、生徒に思想的に誘導しないよう、偏った解釈を教科書に載せることができないという理由があると思います。
 その一方で、事実だけを無味乾燥に教えてしまうと、試験でも同じ事実を確認するだけに止まってしまい、そこにはただ事実を丸暗記するだけになってしまう作業に陥ってしまうという恐れがあるかもしれません。

 今日は、高校の社会科を教えていた時に感じていた「キーワード検索」の勉強法をどのように見直していけば良いのか、新井紀子氏の著書から学んだことを記録しておきたいと思います。

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』『AIに負けない子どもを育てる』から学んだこと

 まずは、私が新井紀子氏の著書を読み改めて気付かされたことについてまとめていきたいと思います。

・教科書に書かれている内容を「本当に」理解できているのかという疑問
・「穴埋めプリント」が生徒に与える影響
・暗記によってテストの点数が取れた経験により、論理的思考よりも暗記に走ってしまう

 これらのことは、分かっているようなつもりでいましたが、実際に日本教育を受けてきた私たちにとって「当たり前のように」学んできたものも多く含まれるため、なかなか客観的に捉えて考えることができていませんでした。

 しかし、実際に新井紀子氏はAIが得意とする分野と、日本の学校で生徒に求めている学習が似ていることを指摘し、子どもたちがこれから身につけるべき力について言及されています。なぜその力が必要なのかについて、とても明確に述べられているので勉強になりました。

RSTのテストについて

 以下の引用は、RSTが紹介されている「教育のための科学研究所」のホームページに書かれていることです。こちらにシェアさせていただきます。ホームページに例題も載せられているので、ぜひチャレンジしていただきたいと思います。

RST(リーディングスキルテスト)とは?
①係り受け解析
 文の基本構造(主語・述語・目的語など)を把握する力

②照応解決
 指示代名詞が指すものや、省略された主語や目的語を把握する力

③同義文判定
 2文の意味が同一であるかどうかを正しく判定する力

④推論
 小学生6年生までに学校で習う基本的知識と日常生活から得られる常識を動員して文の意味を理解する力

⑤イメージ同定
 文章を図やグラフと比べて、内容が一致しているかどうかを認識する能力

⑥具体例同定
 言葉の定義を読んでそれと合致する具体例を認識する能力

「基本的・汎用的読解力」を身に付けさせることが21世紀の公教育が果たすべき役割だという考え

 RSTのサンプル問題にチャレンジしたところ、短い文章を読むのにもかなり苦労しました。この経験から、日頃如何に自分が自分の都合の良い読み方をしていたかを実感させられます。
 正確に読むこと自体、簡単に見えてとても難しいということがわかりました。

 「文書で書かれていることを正確に読み取る力」こそが義務教育の段階でつけるべき力だとこれらの著書では述べられています。
 これは、学ぼうと思った時に「自分で学べる力」でもあります。
 高度に情報化された社会では、何かを学びたいと思った時に、教えてくれる先生がいなくても多くの情報に触れることができます。
そこで正確な情報を選び、書かれていることが理解できれば、自分の学びたいタイミングで学習を深めていくことができます。この便利な時代に求められているのは、「自分で学べる力」なのだと最近は感じています。

 また、本書で指摘されているように、ドリルや暗記で結果が出てしまうと学習スタイルを変えにくいと言われているところも非常に興味深いと感じました。
 理解する方が難しく、暗記する方が楽だという経験を子どものうちにさせないよう、日本語講師としても気をつけておきたいと思いました。

 また、『AIに負けない子どもを育てる』(東洋経済、2019)では、家庭教育や学校教育においてどんなことに注意して子どもたちに関われば良いのかについてまとめられています。そちらも大いに参考になりました。幼児期から小学校低学年から高学年に分けて詳しく書かれていますので、子どもの学習方法にヒントがほしいと思っている方がおられたさましたらぜひ参考にしていただければと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考文献>
新井紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報、2018)
新井紀子『AIに負けない子どもを育てる』(東洋経済、2019)

<参考ホームページ>
一般社団法人 教育のための科学研究所「リーディングスキルテストとは?」(最終閲覧日2021.11.01)

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