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SMよ、人生をひっくり返してくれ④ SMバーを探す

あと数日で、世界が変わってしまうかもしれない。
SMバーデビューが、今週末に決まったのだ。

4月下旬、東京都内に1週間ほど出張する予定があるので、そこで何軒か試してみようと考えていた。実は、そのタイミングでT女王様が「私のお店でなんか企画しましょうか?」と言ってくれていたのだが、ここしばらく連絡が取れなくなってしまったのだ。当初は、T様のお膳立てで事が運べば安心だなんて甘えていたけれど、「虐待の後遺症克服」とも言える人生の賭けなのだから、T様の好意とは別に、自分の足で歩くのもいいのではないかと思い直したのだ。そんなわけで、自分でお店を探して飛び込んでみることにしたのだ。

さて、どこにしよう?
「SMバー 初心者」などで検索してみると、SMバーの元スタッフによる店選び指南や、M男さんおすすめの店ランキング、性風俗系の体験談など、多様な立場の人たちがそれぞれの視点でおすすめポイントを教えてくれる。それらを読んでいると、SMバーと一口に言っても、S嬢たちの妖艶なダンスが見られたりするショーパブのようなお店から、女王様がしっかり対話してくれるようなカウンターバーなど幅広くあるのがわかる。

そんなお店のメニューのひとつが「体験」や「プレイ」だ。やはり花形は、鞭打ちや緊縛、蝋燭垂らしのようだ。ただ、これらはやり方を間違えると人体への危険を伴うために「経験者のみ使用可」という店もあれば、プレイ自体がNG、というお店もあるようだ。M性癖の人を縛る縄師を目指す人向けに「緊縛講習会」などもあり、向上心の高さもうかがえる。しかし、「いずれも”ごっこ遊び”のようなものだから、本格的なプレイがしたければSMクラブに行きましょう」と説く元スタッフの記事もあって、もはやなにが本格でなにが本格じゃないのかよくわからない。
とりあえず私は、鞭も縄もいらないし軽い行為で充分だけど、Mの方を靴で踏んだり、ひどい言葉をかけてみたりはしてみたい。だから「体験」ができるかどうかはあらかじめ確認しておいたほうがよいだろう。

あと、胸がじんわり温かくなったのは「店内ルール」だ。
SMバーのホームページには、店内でのマナーが真面目に丁寧に書かれている場合も多く、中でももっとも重要なことの一つが「他人の性癖を否定したり、馬鹿にしたりしないこと」である。こういうお店の門をくぐる人の中には、自分がおかしいのではないかと自問したり、傷ついてきた人もいるだろう。どの店でも重んじられているのは「尊重」の精神だ。もしかしたら、SMバーは人生の迷い人が流れ着くオアシスなのかもしれない。そのような人たちから、大切にされている場所なんだということが文面からも伝わってきた。

もう一つ、大事なこととして書かれていたのは「相手の同意のない限り、その人の身体をさわったり、叩いたりしないこと」だ。M性癖の人でもプレイ以外で、自分が選んでもいない相手から叩かれたり、ひどい言葉をかけられるのは嫌なことだと書いてある。そりゃそうだよなと思うのだが、抑圧していた願望を解放する場となると、「なんでもやっていい」と勘違いして人間関係のキホンを見失ってしまう人もいるのかもしれない。

料金システムは、女性は安価に設定されていることが多く、フリードリンクで3000円程度。男性は倍の6000円+ドリンク別。カップルだと1万円程度。このほかに入会料がかかるところもあった。
意外だったのは、昼間から営業しているお店もあったこと。いや、SMだから暗い夜・・・なんてイメージを持っていた私に偏見があったのかもしれない。だって、その人にとってはごく当たり前の、生きる上での営みなのだから。お日様が上っていたって関係ないでしょうよ。

基本はだいたいわかってきた。
ただし、不安がふつふつと沸いてくる。

人をいたぶる「プレイ」なるものをして、私の中の危険な暴力スイッチがONになったまま止まらなくなったらどうしよう。そもそも私の血には、そのような過ちを犯してしまった親のDNAが組み込まれているのだ。遺伝子は関係ない? だとしても、この身体と記憶には刻まれている。

暴走を止めてくれるストッパーがほしい。
もしくは、暴走なんてしなくても、なんらかの理由で落ち込むことがあるかもしれない。店を出てからホテルに帰るまでに泣かないで済むように、誰かにいてほしい。精神がどうにかなっちゃいそうで怖いんだ・・・。

じゃあ止めればいいじゃん、と心の常識人が言う。
でも試してみたいんだ、と心の無鉄砲野郎が言う。

だから傷つかないための保険がほしい。
ごめん、身勝手だ。でも偽らざる気持ちだ。
こんな状況に巻き込める相手は――、今のところ一人しか思いつかない。

10年以上前に同じ会社で働いていた、元同僚のAちゃんだ。

カラス雑誌「CROW'S」の制作費や、虐待サバイバーさんに取材しにいくための交通費として、ありがたく使わせていただきます!!