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ツバメに家を貸す

「ツバメが落ちてる!」
と家人が叫んで、でも慌てて仕事に行ってしまった。こちらも子ども&自分の朝の支度でバタバタだ。え、ツバメ?

毎年、家にはツバメが巣を作りにくる。正直、糞で壁が汚れるし、迷惑だなあと思っている。それでも、今年も玄関脇に巣を作られた。

覗いたらもう卵があったので、そのままにしておいた。最近雛が孵って、毎日親鳥が忙しく餌を渡してた。

とりあえず、洗いかけてた食器だけ水で流し、サンダルを履いて外に出る。

「あっ…」
巣ごと地面に落ちていた。散乱する藁と泥。昨日まで壁に張り付いていた場所には少しの乾いた泥が残っているのみ。

「ピーピーピー」。足下を見る。
雛。3羽の雛が身を寄せあって鳴いている。体の割に大きな嘴を出して一生懸命。

「ツピー」声につられて頭を上げると、近くに成鳥。たぶん親鳥だろう。餌は渡せてるのかな?

このままではたぶん持たない。ここには、ヘビも、猫も、カラスも鳶もいる。地面にいては、半日も経たず、何者かにやられてしまうだろう。

どうしたらいい?朝の時間のないことも手伝い、パニック状態になる。
ネット検索!ええと、なんて入れれば?「巣が落ちた」?「ツバメの巣」?
僕が焦る必要はないのだが、やっぱり焦る。
とかやってるうちに、「簡易巣」というワードにたどり着く。ザルや発泡スチロールの入れ物で…これだ!

台所に戻る。棚を開けてごそごそすると、ちょうどよさそうなザル発見。ピカピカ過ぎて気が引けるが、そんな場合ではない。ステンレスで丈夫そう。なんとかなるかも。
それを持って外へ。問題は固定方法だ。家はログハウス。いつもなら、インパクトドライバーで打ち付ける。でも、大きな音を出すと雛がびっくりしそうだ。どうしよう。また、小パニック状態になる。
巣の落ちた辺りを見渡す。プロパンガスがある。あ、あれを利用すれば、紐でいけるか?
今度は下駄箱をごそごそ。ナイロン紐が出てきた。よし。
すぐ近くで雛が鳴いている。気持ちとしては「泣いている」。感情移入しすぎ。

プロパンガスの上にあるメーターと配管まわりを利用すればなんとかなるか?
一旦適当に縛ってみる。あ、ダメだ、片方を持つと傾く。これじゃ、親鳥が乗れない。もっとぐるぐる巻く。見た目悪いが仕方ない。
何分やってただろうか。なんとか固定完了。
さて、今度はこのザルを「巣」にしなきゃ。

とりあえず落ちている巣の欠片を入れる。藁と泥だけでうまく作ってあったんだな。あと、柔らかそうなもの…草刈りしてそのままだった枯れ草を一握り。こんなもんか。
さて、本番。雛。
しゃがんで雛を見る。一生懸命身を寄せあって鳴いている。よく見ると、1羽の死体がある。たぶん落下したときに死んでしまったんだろう。もう蟻が群がり出している。
生きてるのは3羽。まず1羽。そっと手に包む。暖かい。びっくりしたのか、糞をする。そおっと、巣の中へ。親鳥は気が気じゃないだろうな。続けてあと2羽も入れる。僕の手の中にものすごく無力で大事なものがいる。そっと、でもなるべくはやく。・・・完了!

あとは親鳥に任せるしかない。ダメ元だと思わせる、あまりに異質な「巣」。でも、今の僕にできる限界。

割り切って家に入り、朝の家事の続きを。なんか浮わついた気分だが、なんとか子どもたちを学校に送り、自分も仕事に行く準備をした。

クルマに乗る。ちょうどさっき作った「巣」が見える。
雛は黙ってる。親鳥はどこへ?

近くにいる。親鳥もどうしたらいいかわからないだろうな。気になりながら、仕事にいく。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
浮わついた気分のまま仕事を終え、とりあえずいつもより早く帰宅。気になって仕方がない。
静かな「巣」。やっぱりダメだったか…と思ったその時。

親鳥が来た!一斉に鳴き出す雛たち。

やったー!

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