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古本を買う

体調不良になり早3週間。さすがに寝てばかりもいられないので、出掛けることにする。
リハビリみたいなものだ。咳以外は治ってるんだよね。
とりあえず行きたい場所・・・本屋と美術館しか浮かばない。

C市にお気に入りの本屋がある。なにせ品揃えが良い。大きめなのに独立書店のようなラインナップ。ZINEもある。
ただ、近くない。40キロくらい離れてる。とっておきの日にしか行かないので、反って自分のなかで希少性が上がっている。なんだかんだで20年くらい前からホソボソと通い続けている。
今の体調なら行けるか。よし。

オープンまで時間があるので、途中、喫茶店に寄る。久々にモーニングを食べる。先週は全く食欲がなかったが、ちゃんと食べることができて安堵する。
雑誌を読みながらのんびりモーニングを食べる、こんな当たり前のことができる幸せ。

思えば病気とはほとんど無縁のまま半世紀生きてきた。それだけに崩れるのは一瞬、と実感している。今までも無駄な時間は使いたくない、と頭では思っていたが、精神の中心から感じるようになった。

本屋到着。途中ちょっとだけ道に迷ったが勘で走ったらなんとかなった。カーナビのないクルマ、楽しい。(一人だから言えるのね)
オープン三分前に着く。何台かクルマが停まってて、みんな待機中。ここに来ると本屋の危機とかあまり感じない。

入店。感じのいい店内。早速端から見ていく。いつも中を3往復くらいする。ほしい本が多すぎて厳選するからだ。今日は3冊までと決める。値段で決めないのが恐ろしい。

「出張古本市開催中」の張り紙。
なぬ?
どうやら他の古本屋さんが店内に場所を取ってるらしい。早速向かう。
おう、なかなかの品揃え。値段は「すべて500円」。わかりやすい!
並びは敢えてかジャンルまちまち。つまり文学の本だけ見たくでも、ご飯の本だけ探したくても端から端まで見る必要がある。面白い。
これは500円高いよね、という本も混じってる。逆もある。時代もまちまち。10年くらい前のと昭和初期の本が混ざってる。いや、面白いなー。
鳥の図鑑がある。昭和40年代くらい。小学生のとき、図書室で見た気がする。なかなかよい。これにしようかな。さらに見る。
小さめの本が目に止まる。他の本にほとんど埋もれてる。

「鳥たち」。ちゃんと赤い紙函に入ってる。題名も装丁も気になる。手に取る。ちっちゃい。縦15cmくらい。かわいい。
作者は内田清之助。鳥類学者だったかな。自分の知識が少なすぎてよくわからない。ペラペラと頁をめくる。短編が多い。あ、エッセー集だ。この時代なら随筆という言い方か。面白そうだ。よし、買おう。
あとは、新刊本を2冊。だいぶ迷いましたが、結局「センス・オブ・ワンダー」レイチェル・カーソン(新潮文庫)と「さあ、本屋をはじめよう」和氣正幸(株式会社Pヴァイン)購入。「センス~」は10年くらい前に図書館で何度も借りて読んでた本。沈黙の春読むのはかなりたいへんだけど、こっちはたいへん読みやすい。新潮文庫版は写真も多くてセンスの良い装丁。「さあ、本屋を~」はいろんな書評で紹介されてて気になってたのです。

帰宅。
さて、「鳥たち」。
作者は内田清之助。出版社は三月書房。出版年は・・・1961年!昭和36年か。さすがに生まれる前だ。

検印もある!かっこいい

いくらなんでも初版じゃないよね・・・いや、初版だ!マニアじゃなくてもなんかうれしい。
当時の定価550円。今だといくらだ?500円で買ってしまった。なんかすごく得した気分。昔よく昭和初期の本の復刻版を1000円以上出して買ってたけど、それより相当お得感がある。まあ、お得感だけで買ってないけど。

いろんな雑誌や新聞に寄稿した随筆を集めた本。戦前の昭和10年代から戦後30年代の鳥にまつわる話がまとめてあり、どれもその時代の空気感が感じられて面白い。前半が鳥中心、後半は鳥に拘らず様々な視点での随筆である。
なにせ戦争が身近だ。自分の家が焼けた話(「鳥の寿命」昭和36年)もなんかカラッとしている。満州、ちょっと前まで日本だったよねー(「日本の鳥類」昭和13年)、とか何か読んでると勝手に知らない時代の人の感覚になる。昭和10年代の東京はネオンが眩しく、段々自然が失くなってる、と嘆く文にはっとする。(「東京都内の鳥」昭和10年)
勝手に昭和初期は自然がいっぱいだという思い込みに気付く。
昭和30年代だともう朱鷺が希少になっている。(「白鳥の当り年」昭和36年)
また、交通戦争がすでに始まりつつあるみたいで、毎日東京で5人死亡、150人怪我してる、とか。(「鵜舟」昭和35年)
こういう世相がわかるのがたまらない。
何より、作者の鳥に対する愛情みたいなものが此処彼処に感じられる。昔の人の文章は総じて無駄がなくて読みやすい。

「殖民地で日本人が原住民を虐待するのを見たくなかった」(「旅せざるの記」昭和34年)
作者が旅、殊に植民地に行きたくなかった理由が記してある。こういうところからも作者の思想が強く感じられる。

作者、内田清之助について。
以下、 日本人名大辞典より。
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1884-1975 明治-昭和の鳥類学者。
明治17年12月1日生まれ。農商務省鳥獣調査室長,東大,京大などの講師を歴任。日本鳥学会を創立し,会頭となる。鳥類の分類,生態の調査・研究をおこない,鳥獣保護につとめた。昭和50年4月28日死去。90歳。東京出身。東京帝大卒。著作に「日本鳥類図説」「鳥学講話」など。
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こういう解説より、エッセー1冊読んだ方が人となりがわかる、という好例。

もったいないので、ゆっくり読みます。


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