見出し画像

不思議なところへ|おはなし#1

不思議なところへ行ってきました。
訪ねた場所が不思議なところだったのではありません。
その場所へ行った帰り道、坂道を通りました。
その坂道が不思議なところだったのです。

わたしは、その坂道を下っていました。
舗装もされていない、昔話に出てくるような土の道でした。
わたしと、もう一人の人しか、その道を歩いていません。
もう一人の人は、わたしを探し、わたしを誘い出した人でした。

二人とも話をすることもなく、ただただ、その坂道を歩いていました。
途中、冬枯れになった木が1本ありました。
大きすぎず、小さすぎず、ちょうど良い大きさのその木は、葉も実もつけておらず、ただひっそりと立っていました。
『今は何もつけていなくても、時期が来たらたわわに実る。その実は、甘く、美味しいに違いない。』
と、その木を見た瞬間、実が生る木だと思いました。

その木のことを考えていると、いつの間にか、変なモノがわたしに近づいて来ていました。
それは、小さくて、酷く醜い顔をしていました。
顔色は悪く、口は大きく、耳まで裂けていました。口を開くと、口の中が真っ赤でした。
それは、小さい鬼でした。
4、5匹くらいでわたしのあとをついて来て鬱陶しかっただけで、怖くはありませんでした。
必要以上に、わたしだけに絡んでくる鬼たちは、わたしに罵声を浴びせます。

「お前ごときが、ここへ来るなんて生意気だ。本当は来れないところなのに、いい気になるな。」

口ばかりで手を出すことはなかったけど、同じことを繰り返し言いながら、いつまでもついて来ました。
『あの木の実が生っていたら、その実を投げつけることができたのに』
そう思いながらも、この鬼たちを振り払う力がわたしにはありません。

どうにもできなくて困っていると、それを見かねたもう一人の人が、呆れ顔で、その小さな醜い鬼たちを追い払ってくれました。
軽く手で払い除けただけで、鬼たちは消えていきました。
わたしがお礼を言うより先に、その人がわたしに向かって、
「もっと、強くなりなさい」
とだけ言いました。優しくて、力のある声でした。

いつの間にか、わたしは自分の部屋に戻っていました。
なんとなく、あそこがどこなのか、分かる気がするのだけれど、今は答えを求めません。
それは、そのうち行くから、そのときにその場所のことがちゃんと分かるから、今はそれが問題ではないような気がします。

あの道で起こった出来事と言われた言葉。
それが何を意味して、どう理解していけばいいのか分からないままだけど、それは残された時間での課題なのかもしれません。

今度行くときは、木の実が生っていると嬉しいかも・・・。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?