さよなら青空。(1)
《再会1》
8月25日午後1時、天気晴れ。
シャワシャワと懸命に鳴く蝉がうるさい。
視線の先では淡い青色のワンピースが風で揺れて、後輩が悪戯っぽく笑っていた。
「おっそーい!」
「ここの、坂さ…、キツいんだって…。」
自分の体力の無さに嫌気がさした。もうすっかり息が上がって膝だって笑ってしまっている。
8月もあと残すところ1週間程になってやっともぎ取ったせっかくの夏季休暇に、私は長い長い階段を登っていた。
(何でこんなことしてるんだろう。)
最後の一段を登り切ってから上がった息を整えるために深呼吸する。
「お疲れ様ですっ。頑張りました、えらいえらい。」
差し出されたスポーツドリンクの入ったペットボトルを受け取ると一気に半分ほど飲み干した。
「ありがと、生き返った。」
「おぉ〜、良い飲みっぷり!」
「実玖は元気だね…。」
「翠春先輩より若いですからねぇ。」
「二個しか変わんないじゃん…。」
「二個って大きいでしょ〜。体力だって、ねぇ…?」
「はいはい。」
実玖は大学の後輩だ。サークルの新歓飲み会の時に泥酔しているところを介抱して以来やけに懐かれている。そんな彼女が旅行に行きたいと言うから猛暑の中こうして必死に歩いているというわけだけど、気分はまるで命懸けで住処を移動する蟹のようだった。
「あ、向こうにかき氷あるみたいですよ!」
「ちょっと休ませて…死ぬ…。」
「かき氷食べたら元気出ますって、ね?」
「むり〜…。」
「レッツゴー!」
彼女は私の要望は全く聞く気がないらしく、半ば強引に手を引かれながら商店街を歩く。
(あぁ、あの夏もあの子に手を引かれてかき氷を食べたっけ。あの時は何味を食べたんだったかな…?)
そんな懐かしい記憶が蘇る中、かき氷の文字がひらひらと揺れているのを見ていた。