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書評|『スマホ脳』アンデシュ・ハンセン/久山葉子[訳](新潮新書)

スマホやiPadが人間、特に子供や若者にどういった影響を与えるか――。

スウェーデンの精神科医であるアンデシュ・ハンセンは、心の不調で受診する人が、特に若い人の間で著しく増加している要因として、一気にデジタル化したライフスタイルを疑う。

現在、大人は1日に4時間をスマホに費やしている。10代の若者なら4~5時間。自身もスマホに毎日3時間を費やしていることに気づき、ショックを受けたという。スマホをはじめとするデジタルデバイスはもはや生活に欠かせないガジェットだ。しかしその一方で、先進諸国のほとんどでこの10年、睡眠障害の治療を受ける若者が爆発的に増えている。スウェーデンでは、不眠を訴えて受診する若者の数は2000年頃と比較して8倍にもなったという。

それはなぜか。ひとことで言えば「人間の脳はデジタル社会に適応していない」というのだ。進化の産物である人類が現代に適応できない理由。ストレスのシステム。脳のメカニズムとドーパミン。マルチタスクがもたらず集中力の低下とワーキングメモリ(作業記憶)への悪影響。スクリーンとメンタルヘルス、そして不眠。SNSがもたらす不安。子どものスマホ依存。脳と運動。心の不調。デジタル時代のアドバイス。スマホを全否定するのではなく、テクノロジーで退化しないため、というスタンスで検証が行われている。

人によっては、既知のことを書いてあるだけで新しい発見がない、と感じてしまうかもしれない。あるいは、だからどうした、と否定的な見方をする人もいそうだ。賛否両論あるだろうが、デジタルデバイスと人間の因果関係に焦点を当てた興味深い研究結果が数多く示されており、脳科学の本として読み応えがある。

スマホをつかうことに、どんなリスクがあるのか。今、誰もが意識して、知ろうとし、考えることが大切ではないか。認知バイアスを排除して、先入観を持たずに読むべきだと思った。著者のアンデシュ・ハンセンも書いている。「これは答えばかりを集めた本ではない。問いを想起する本でもあるのだ」と。


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