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書評|『「バカ」の研究』ジャン=フランソワ・マルミオン編/田中裕子訳(亜紀書房)

「世の中、バカが多くて疲れません?」

1991年、エーザイ・チョコラBBドリンクのCMで桃井かおりさんは語りかけたが、視聴者からのクレームによって、結局「バカ」の部分が「お利口」に変更された。そのせいで仲畑貴志さんのコピーが台無しになってしまった。ものすごくバカげた話だと思う。

あれから約30年、今、世の中はバカが多いところが、バカだらけなのかもしれない。

2018年10月にフランスで刊行され、わずか1年で8万部の売上を記録したベストセラー。ノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマン、ダン・アリエリーといった行動経済学の権威をはじめ、心理学、神経科学といった分野で優れた見識を持つ知識人が、バカについて大真面目に考察している。

「こんなテーマに首をつっこむなんて、よっぽどうぬぼれているか、相当の世間知らずか、かなり軽率であるにちがいない。そんなことはわたしだって百も承知だ。だが、誰が勇気のあるバカがチャレンジしなくてはならないのだ」(はじめに)

編著者は心理学専門雑誌の編集長で、自らも心理学者であるジャン=フランソワ・マルミオン。インタビュアーとして世界の知性に「バカとは何か?」を問いかけ、切り込む役割も果たしている。

「バカはいつも、さもわかったような口をきく」セルジュ・スコッティ(バカについての科学的研究)
「バカかどうかは社会でどういう言動をするかで決まります」「バカが治るとは考えにくいので、関わらないにこしたことはないでしょう」アーロン・ジェームズ(バカの理論)

見出しも本文も「バカ」のオンパレード。ひとつひとつの考察はコンパクトで、専門的な事柄などについては適宜コラムで情報が補われている。なるほど、そうだよね、と読み進めながら、しばしばぎくっとして手が止まる。そう、まさか?と。

「あなたもわたしも、他の人たちもみな、いつどこでバカな言動をしでかすかわかりません」ジャン=クロード・カリエール(バカは自分を賢いと思いこむ)
「バカは自分がバカであることを知らず、自らのバカさ加減に困らされることもないので、自分の取り巻きだけでなくそれ以外の者たちにも遠慮なく自らのバカを押しつけようとする」セバスチャン・ディエゲス(バカとポスト真実) 
「非常に知的な人物が、何かを盲目的に信じるあまり、批判的思考を忘れ、自らの幸せや人生さえ犠牲にすることもある」ブリジット・アクセルラッド(迷信や陰謀を信じるバカ)
「バカは嘘つきより始末に負えない。嘘つきは真実が何かを知っているが、バカは真実には関心がないからだ」エヴァ・ドロツダ=サンコウスカ(認知バイアスとバカ)

バカで結構コケコッコーとはいかないのだ。では具体的にバカはどんな言動をとるのか?それは言うまでもないだろう。読めばわかる。


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