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【戯曲】カフェ

北海道の高校出身の同級生(35歳)が、久しぶりに昼食を共にする。

場所は東京。二人共東京在住。結婚しているが、子供はいない。コロナ禍前は年に数回会っていたが、およそ3年ぶりに会うことになった。

みえ「馬刺し、もうひとつ頼もうか?」

とら「うん。いいよ」

みえ「すいません!」

店員を呼ぶが、聞こえていない。

みえ「さっき言ってた、店の話」

とら「うん」

みえ「やっぱり、もうちょっと、頑張ってみたら?」

とら「うん」

みえ「お客さんだって、戻ってきてるんだろ? カフェ開くの、お前の夢だったじゃん」

とら「そうなんだけどさ」

みえ「奥さんは何か言ってるの?」

とら「彼女は、続けろって言ってくれてる」

みえ「なら……」

とら「なんかさ」

みえ「うん」

とら「わかんなくなっちゃって」

みえ「うん」

とら「何のために店やってるんだろうって」

みえ「うん」

とら「自分の好きな音楽で、自分の好きなコーヒーを、自分の好きな人達に楽しんでもらいたくて続けてきた仕事だけどさ。ここ数年ずっと大変だったし。ここまでしてやる必要あるのかなって、何度も考えた」

みえ「うん」

とら「今だって大変だよ。ずっと続けるどころか、来年だってどうなるかわからない」

みえ「うん」

とら「でも、いまさら他の生き方ができる自信もない」

みえ「うん」

とら「そんなこと考えてたらさ、不安ばっかりになっちゃって」

みえ「うん。(店員を見つけて)あ、すいませーん。あ、あの、馬刺しひとつ! 大変だったんだな」

とら「うん」

みえ「俺は、無理してまで、続ける必要はないと思うよ。思うようにしたらいい」

とら「うん。ありがと」

みえ「うん。俺は、お前の判断には、信頼をおいてるんだ。そりゃ、間違うことだってあったさ。もっと良い方法があったんじゃないかって思うこともある。でも、お前はちゃんと周りが見えているし、何より、自分に正直だよ。そんなお前の判断を、おれは信頼してる」

とら「うん。ありがと」

みえ「まぁ、俺はお前の店も好きだから、できれば続けてほしいけどな」

とら「うん」

みえ「それにしても、ここの料理、正解だったな」

とら「うん。うまかったな」

みえ「今度は何食べようか」

とら「今度は……そうだな。エスニックなんてどうだ?」

みえ「エスニックか。あんまり食べないんだよな、エスニック。トムヤンクンとかか?」

とら「うん。けっこう、いろんなのがあるんだ。新大久保に、いくつか行ってみたいところがあるんだ」

みえ「いいね。新しいとこ、行ってみようぜ」

とら「うん。まだまだ食べたことないものも、行ったことのない店も、いっぱいあるんだ。そんなところに、どんどん行こう」

みえ「うん。俺たちはこれからも、新しいところに行けるんだ」

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