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修羅走る 関ケ原【読書のきろく】

文庫本で約600ページと言ったら、本好きの人にはその厚みが伝わるでしょうか。
僕がよく紹介している河合隼雄先生の『こころの処方箋(新潮文庫)』は229ページ、夏目漱石の『こゝろ(角川文庫 版)』は301ページ。この物語の最後の一文が刻まれているのは、590ページでした。

そんな厚みのある小説だけど、少しも長いと感じることなく読み終えました。まさに、駆け抜けた感覚です。

描かれているのは、慶長5年9月15日の夜明け前から日が暮れるまで。慶長5年は、西暦になおすと1600年。舞台は、関ケ原の戦いです。
徳川家康と石田三成、東軍と西軍が激突したその一日に、誰が何を想ってどんな行動をとったのか。乱暴にまとめると、それが刻々と綴られているのが、この物語。知ってることはたくさんあったけど、構成や描写、展開がおもしろくて、どんどん引き込まれていきました。最終的な勝敗の行方を知っていても、この使いが間に合ってくれれば、あと一撃が届きさえすれば、と祈りながら読んでしまいます。その言葉に騙されちゃいけない、どうか踏みとどまってくれ、と心の中で祈り叫んだ場面もたくさんありました。

印象的だったのは、関ケ原の戦いの長い一日が、何人かの武将の行動に焦点を当てながら進んでいく描かれ方。ひとつの持ち場から次へ次へと順に流れていく時間もあれば、並行して別の場所で発生した出来事がそこに交差して変化やうねりが発生し、激しく渦巻いていきました。
登場するのは、徳川家康、石田三成、黒田長政、福島正則、宇喜多秀家、大谷吉継、島左近、など。戦場では、一瞬の判断が、自分だけでなく一族や配下にいる数千、数万の人たちの人生を左右する。その緊張の中で選択される言動は、それぞれの価値観によって変わります。読者である僕が共感しても受け入れなくても、それぞれが自分の正しさを考え抜いての判断です。苦悩も分かるから、心が揺さぶられます。

関ケ原での勝敗が決まったあとの場面、その会話のその先は、そして夜が明けてからのそれぞれの行動は、とまだまだ続きを欲してしまう物語。巻末で安部龍太郎さん(小説家)が語る山本さんの裏話にも感動して、本を閉じました。

読書のきろく 2023年
『修羅走る 関ケ原』
#山本兼一
#集英社文庫

#読書のきろく2023

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