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父の詫び状【読書のきろく】

何気ない生活を通じて、生きることが愛おしくなる

向田邦子さんのエッセイ集。SNSで素敵に紹介されているのを見かけて、図書館で借りてきました。向田さんの作品は、これがはじめて。とってもおもしろかったです。
描き出されているのは、家族の何気ない「生活」。昭和初期の、頑固で意地っ張りの父親は、家の中で怖い存在ではあるけれど、不器用な頑固さにはおかしみもあって、口元がゆるむ場面がいっぱい。
お父さんだけではありません。お母さんも、おばあちゃんも、それぞれが家族みんなから愛されているのが伝わってきます。それは、みんなが一生懸命に生きていたからなのかなと感じました。21世紀の現代と比べたら不便な生活かもしれないけど、生き生きとした姿は、羨ましくもあります。

家族の日常が面白おかしく描かれているのを読むと、さくらももこさんの『もものかんづめ』を思い出しました。そちらは、もっとお笑い要素が強くてワハハと笑う感じで、こちらはクスッと笑う感じ。
さくらさんはアニメ、向田さんはテレビドラマ、の違いなのかもしれません。

解説を読んで納得したのが、向田さんのエッセイのおもしろさの基盤が、テレビドラマを永く書き続けたことにも意味があるという分析。ひとつひとつの場面が豊かに描かれ、軽快に展開していくさまが、テレビドラマのようであると。
もちろん、その手法としての巧みさだけでなく、日々の生活に向ける観察力の緻密さがあるからこそだと思います。人に、生活に、生きることに、興味・関心を持って向き合っておられたんでしょう。

ただ、思い出に対しては、必要以上に執着しないようにされていたようで、興味深いこんな記述もあります。

思い出はあまりムキになって確かめないほうがいい。何十年もかかって、懐かしさと期待で大きく膨らませた風船を、自分の手でパチンを割ってしまうのは勿体ないのではないか。
だから私は、母に子供の頃食べたうどん粉カレーを作ってよ、などと決していわないことにしている。
>p.248「昔カレー」より

その時、その時に、感じたことを大切にする、という姿勢。
感じること、表現することの豊かさを、楽しみながら教えてくれるような一冊でした。


読書のきろく 2021年58冊目
『父の詫び状』
#向田邦子
#文春文庫

#読書のきろく2021

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