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人をえらぶ水たまり

昔は、日本中にあったのに、今ではめっきり数が少なくなったらしい。でも、なくならずにひっそりと存在している、「人をえらぶ水たまり」。

その水たまりは、たどり着いた人のお願いを、ひとつだけ叶えてくれる。

3ヶ月ぶりに彼女に会うために慌てて家を飛び出した青年には、鏡となって身だしなみを整えてくれた。
今年も町のプールが営業中止が決まってガッカリしている親子の願いは、夏の思い出づくり。プライベートプールになって、暗くなるまで水遊びを楽しんでもらった。
暑くてのどが渇いた動物たちのためにきれいな水飲み場になって、身体と心に潤いを届けることも多い。

この水たまりには、大切な約束ごとがある。
それは、「来たときよりも、美しく」。

青年は、身だしなみを整えたあと、ハンカチで鏡をきれいに磨いた。
夏のひとときを満喫した父と子は、周辺のゴミ拾いをして帰った。
動物たちは、水たまりのそばに木の実や植物の種を植えている。きれいな森があって心地よい木かげができているのは、そのおかげだ。

ある日、いたずらっ子のタケシが水たまりにやってきた。タケシは、サプライズで感動を届けたいからとうそをついて、風景にとけこむ水たまりを作ってもらった。近づいてもそこに水たまりがあることには気づかれず、足を踏み入れたら水だった、という仕掛け。ひんやりして気持ちいいから、きっとみんな喜ぶはずだと、水たまりを説得した。その出来の見事さに、タケシもびっくりしている。
でも、タケシは、友だちを喜ばせるためではなく、いたずらするために使った。
「いいから、いいから、こっちこいよ。」
「なになに?楽しいことって。」
「それは後での、お楽しみ。」
「あっ!」
ビシャッ。ヨシオの右足が、水たまりにつかった。
「やーい、ひっかかったー。」
「なにこれ、どういうこと?」
「へっへー。すげぇだろ。落とし穴水たまり。オレがつくったんだ。」
「もう、ひどいよ。お気に入りのくつを履いてこいって言うから、こないだ買ってもらったの履いてきたのに、いきなり汚したら怒られるじゃないか。」
「そんなの知らねえや。じゃーなー。」
タケシは、ヨシオを置いて走り去った。

すべてを見ていた水たまりは怒った。汚れてしまったヨシオのくつは、きれいな水で洗い、森から涼しい風を送って乾かした。そして、目に見えない速さでタケシに追いついた。

「あー、おもしろかった。ふんふんふーんの、たららんらん。」
いたずらを成功させ満足したタケシは、鼻歌まじりで歩いている。突然、目の前スレスレをカラスが横切った。
「うわっと、あぶねーな。」
後ずさりした先にちょうど石ころがあって、タケシが転びそうになる。もちろん、水たまりの呼びかけに応えた石ころだ。
「おっとっとっと。」
よろめいて、尻もちをついた瞬間、バシャン!地面だと思ったその場所は、水たまりになっていた。タケシのズボンは、泥だらけのびしょ濡れになった。

「わーん、母ちゃんに怒られるよー。」

毎週テーマを決めて共同運営を続ける日刊マガジン『書くンジャーズ』。
今週のテーマは、【 水遊び 】でした。

せっかくなので、先日受講した「物語の発想法を学ぶ」講座の復習を兼ねて、教わった手法でショートショートを作ってみました。改めて、家の中を見回して名詞を探していると、たまたま三男が見ていたテレビで流れてきた「北海道」のCMが目に留まります。
そこから発想が広がり、「水遊び」とくっ付けて、『人をえらぶ水たまり』となりました。

後半がかなり強引な気がするけど、書き上げたことを良しとしているのは、書くンジャーズ土曜日担当の吉村伊織(よしむらいおり)です。

今日も最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

他のメンバーたちは、大人の水遊び、家族の何気ない1コマにかける想い、子どもたちと楽しめる水遊び、について書いています。ぜひ読んでくださいね。

それではまた、お会いしましょう。

※illust by:灰兎 さん / イラストAC

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