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命がけの英雄、バニラバー

朝から見事なまでに晴れ渡っていた5連休の真ん中。昼過ぎに、買い物に出かけようと車のドアを開けた瞬間、車内で行き場を失っていた空気が一気に飛び出してきた。暑い。こんな日はアイスがうまいだろうと頭に浮かべながら、エンジンをかける。とりあえず窓を全開にして、スーパーに向かった。

ふと、勇敢なバニラバーのことを思い出した。
長男がまだ小学校低学年の頃、命がけで我が家を救ってくれたのだ。

夏場は、夕食後のお楽しみに、アイスを常備している。長男のお気に入りは、10本入り198円の箱入りバニラバー。棒付きの小さいバニラアイスが、個包装されている。おいしくて家計にも優しい、我が家の頼もしい味方だった。
その日もいつものように、食事を終えた長男が冷凍室からバニラバーを取り出した。しかし、袋から取り出し、待ってましたと口に運ぼうとした途端、あろうことか、ふにゃりと曲がってぽとりと落下。直立することなく、バブルスライムのようにやわらかく床に広がった。
その様子を見た僕たちは、
「もう!冷凍室開けっ放しにしてたの、だれ~!?」
と、反論を許さない質問で長男を責めた。
「僕じゃないよ、ちゃんと閉まってたもん!開けたらこうなってたとよ!」
「じゃあ、なんで溶けてるとよ!」
そう言いながら、冷蔵庫の一番下にある冷凍室を開けると、何かが違った。覇気がないのだ。
ラップで包んだ食材は、なぜか弾力がある。空気をなでるように出てくるはずの冷気を感じない。製氷室では、液体の上に小さな固体が浮かんで箱庭のように流氷が再現されていて、僕らの方に寒気が走った。

冷蔵庫が壊れてしまったのか。

長男の誕生に合わせて買い換えてから8年。まだ数年は使えるはず。でも、見るからに燃え尽きている。
僕が元SEで、妻が情報システム部で働くIT系夫婦が閃いたのは、「一度電源を切ったら復活するかも。」という、パソコンみたいな対処法。ほかに家電を甦らせる方法を知らなかった僕は、とりあえずコンセントを抜くことにした。冷蔵庫の場所は、キッチンの一番奥。近くに置いていたものをどかし、冷蔵庫を前に動かして、背後に回り込む。
するとそこで、魔物の正体に遭遇してしまった。

魔物の正体とは、「ホコリ」。
冷蔵庫の裏にある通風孔が、灰色の毛皮で身を守るように、ホコリで覆われていたのだ。
残念ながら、毛皮は肩を温めるではなく口の周りを塞いでおり、呼吸ができなくなった冷蔵庫は温度調整機能を停止させたまま眠っていた。
「寝るんじゃない!ここで寝たら、助からないぞ!」は、雪山を語る場面のはず。
そんなことになっては大変だ。慌てて掃除機を持ち出して、通風孔を塞ぐ魔物を引きはがした。ついでに、床も壁もピカピカにしてしばらく待つと、冷凍室から流れてくるひんやりとした風を感じた。冷たい風が、不思議なほど心をあたためてくれた。

命をかけて、冷蔵庫の危機を伝えてくたバニラバー。
気づくのが遅かったら、本当に故障していたかもしれない。ただただ、感謝しかない。

あれ以来、大掃除のほかに年に2回、冷蔵庫の通風孔を掃除するようにしている。GWと、秋くらいに。おかげで、バニラバーが尊い犠牲になったあの日から8年、今でも現役バリバリで冷蔵庫は働き続けている。

そんなことを思い出しながら、バニラバーの青い箱を買い物カゴに入れた。



たまたま見つけた #GW冷蔵庫コンテスト に、この思い出を捧げます。

#冷蔵庫企画

※illust by:acworks さん / イラストAC

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