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僕の空、わたしのそら

「ちがうよ。わるくないよ。」

 隣のベンチから会話が飛び込んできて、読んでいた文庫本の小説から目を離し、顔を向けると目が合った。3歳くらいだろうか。黒くてくりんと丸い瞳が印象的な女の子。「子どもは曇りなく世界を見ているんだな」と、頭の中でつぶやきが生まれた。
 空港は一時期の混雑は落ち着いているが、ちょうど修学旅行生たちが集まってきて賑やかになっている。先生の指示に従って整列しながらも、友だち同士の話は途切れることがない。

 東京出張で前日入りするために予約していた便は、なんと欠航になってしまった。天候のせいか、乗る予定だった飛行機が空港に来ていないらしい。曇りの予報だった福岡は、朝からサラサラと雨が降っている。風も強い。今週はずっと、天気予報を信じて傘を持たずに出かけたのに夕方には雨という日々だ。
 一緒に行くスタッフと合流して便の変更手続きをすると、1時間半後の便に乗れることになった。向こうで落ち合うことにしていた客先の担当者に状況を伝え、こちらはしばらくの自由行動ということにして一時解散。一冊多めに持ってきてよかったと思いながらANAの窓口近くのベンチに腰かけて、小説を読み始めた。

 隣のベンチに来て話し始めたのは、女の子とおばあちゃん。母親は、ちょっと買い物に行くからと、赤ちゃんを抱いて売店の方に向かった。ガラス張りの窓からは、外の音は聞こえないが様子はよく見える。
おばあちゃんが雲に覆われた空を見上げて言った。
「あぁ、今日も天気悪いね。」

「ちがうよ。わるくないよ。しろいくもがひろがってて、あおいおそらがみえないだけ。」

「あぁ、そうだね。ごめんね。」
おばあちゃんと同じ言葉が、僕の中にも生まれていた。

これは、こないだ水曜日の出来事です。
東京行きの飛行機を待つ時間に起きたことを、物語風に綴ってみました。

飛行機の欠航のおかげで僕に届いた、女の子のことば。
とても貴重な体験をさせてもらった気がします。

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