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シンクロと自由【読書のきろく】

著者の村瀬さんは高齢者施設よりあいの代表。出会いは、遡ってみると6年半前でした。校区の社会福祉協議会のメンバーとして仲間入りさせてもらい、その年度の初回のイベントで「老い」についてお話しされたところからのお付き合いです。
お付き合いと言っても、一方的にお世話になっている状態ですが、いつも勉強させてもらっています。

最初に聞いたお話しで衝撃を受けたのは、「老い」に対する捉え方。
以前は、年を取って、出来ていたことが出来なくなったり、分からなくなったりするのは、悲しいことでできれば避けたいことだと思っていました。でも村瀬さんは、「生きていく営みでは当たり前のことだ」と語ります。そして、周りがそれを理解して協力すれば、老いても住み慣れた街で暮らすことができる、と教えてくれました。
村瀬さんの介護の実践から語られる言葉は説得力があり、よりあいで見聞きする光景がそれを現実のものとして実感させてくれます。

そこには、ある程度の葛藤もついてきます。
話が噛み合わなかったり、同じことを何度も繰り返したり、さっき言ったことをもう忘れていたり。
学校や会社で教わる「世間一般の常識」という物差しでは測れません。
だからと言って、その現場が殺伐としてみんながお互いを敵とみなして責め合っているかというと、そんなことはない。むしろ何かに許されたようなあたたかさがあり、ほっとする。
そのギャップに、僕は驚き、話を聞くたびにどんどん魅了されています。
どちらが正しいという見方ではなく、今自分が認識している時空間とは違う捉え方があると知るだけで世界が広がり、そこには、子育てを含め自分自身の生き方を考えるヒントがたくさんあると感じています。

この本は、村瀬さんが体験された介護現場の出来事やそこで感じられたことが、やさしい語りで綴られています。
帯に「気がつくと温かい涙が流れている。」と添えられているとおり、感動してじーんとくるエピソードもあれば、可笑しくてつい笑ってしまうやり取りもたくさんです。
村瀬さんの話を聞いたことがある人なら、その声が聞こえてくるでしょう。

僕が印象に残っているのは、「山」についておばあちゃんと話す場面。
山を見ているおばあちゃんに村瀬さんが、「あの山、知ってる?」と尋ねます。おばあちゃんは、「知ってる」と答える。そして、「緑の濃い山、よか色しとる」と続けたそうです。
山の名称(我が家のマンションからも見える「油山」)を知っていると、僕たちは「知っている」と認識します。僕も、油山も、阿蘇山も、富士山も知っています。所在地とか、高さとか、特徴とか、知ってることがたくさんあると得意気になってしまいます。
だけど、おばあちゃんは、その感覚では見ていない。緑の濃い油山を見ながら「緑がきれいかねー」と言われたら、僕はハッとしてしまいそうです。ちょっと大げさに言うと、油山の何を知っていたんだろうと愕然としそう。

同じようなことは、本当は日常的に起きているはずです。
子どもの物の見方・とらえ方もそうだし、細かく見ていくと一人ひとりの感覚はみんな違うはず。
だけど、忙しすぎて、そんなことに構っていられない。

「いったい何をしてるんだ?」と、少し立ち止まって自分に問う。
村瀬さんのお話には、そんな瞬間がたくさんあります。
だから、テーマは「介護」なんだけど、介護に携わる人だけが手に取るのではなく、子育て真っ盛りや働き盛りと言われる30代~50代の人に触れてもらいたいといつも思います。

僕の記事がその架け橋になり、誰か一人でも読むきっかけになったら、とてもとても嬉しいです。
この本を読み終えて、改めてそう思います。


追伸。
先月、校区の福祉講演会で村瀬さんが講師をしてくださり、この本に書かれているようなことも話してくださいました。

参加された80代の方が、「これからが楽しみになりました」と話してくださったことに感動しました。

読書のきろく 2022年
『シンクロと自由』
#村瀬孝生
#医学書院

#読書のきろく2022

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