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夏祭りの電話の向こう

大学1年の時だから、もう20年以上経っている。人生で一番、夏祭りに行きまくった年。

まだその頃は、「調べものは、とりあえずネットで検索」ではなく、コンビニで旅行雑誌の夏祭り特集を立ち読みして情報を集めた。バイトと重なってなかったら全部行く、くらいの勢いだったのは、祭りの成り立ちを研究していたからではない。ただ、それしか見えてなかったから。

仲のいい友だちと行くのはもちろん楽しかったけど、何より重要だったのは、その人が来るかどうか。大学で知り合ったミカは、ラーメン屋でバイトをしていた。

その日、バイトは入ってるけど、ランチタイムのシフトで15時あがりだった。その時間なら、終わってすぐ準備すれば、夕方からの祭りに間に合う。「今度の祭り、花火大会もあるから行こうよ。バイト終わる時間に、迎えに来るから。」
強引すぎるかな、と振り返ることもせず、誘っている自分。今思い出すと、若さに笑ってしまう。いいよと言ってくれたのは、向こうも薄々感じてたからだろう。どの友だちと行った夏祭りにも、メンバーの中にはミカがいた。

ミカのバイトが終わる前に、マサコとケイスケを拾って、ラーメン屋の駐車場に着いた。
「ごめん、ごめん。ニンニクくさくないかな?」
「大丈夫、誰も気にしないから。ほら、早く乗って。」
B'z、ミスチル、イエモン、ハイロウズ。カセットテープに詰め込んだお気に入りの曲が、僕たちのドライブを盛り上げる。「実はね、運転しながら小声で歌ってるのを聞いて、歌うまいんだなって思ってたんよ。」と教えてくれたのは、秋になってからだった。

市内から南へ1時間ちょっと走った街が、その日の目的地。河童に縁がある街のようで、いたる所に銅像や看板が立っていた。薬局の店先には二頭身のかわいい親子河童がいるかと思えば、僕よりスタイルのいい長身の河童が橋の欄干で釣りをしている。いつもと違う雰囲気に、だんだん気持ちも高まってきた。

出店の並びが見えてきたころ、ミカの携帯が鳴った。
「もしもし。うん、ちょうど着いたとこ。うん、隣にいるよ。代わるね。」
はい、と僕の前に携帯が差し出された。ごく自然に渡されると、ごく自然に受け取ってしまう。何のことか全くわからないけど。
「いいから、出て。友だちだから。」
「あ、うん。」
そのまま耳に当てる。
「あ、もしもし。代わりました。」
「あー、はじめまして!サオリです。ミカの高校の同級生。今日は夏祭りに行くって聞いたから。どう?楽しんでる?」
「あ、うん。今着いたとこで。でも、なんか祭りは盛り上がってそうですよ。」
「なにー、緊張してるの?もう、大丈夫だって。ミカのこと、よろしくお願いしまーす!泣かせたら、許さないよ。」
「なに言ってるんすか。泣かせるわけないっすよ。」
「あはは、じゃあ、大丈夫か。うん、大丈夫。じゃあ、ミカによろしく言っといてね。ばいばーい。」
あ、あの、と追う間もなく、一方的に電話は切れた。
「サオリさん?電話、切れちゃった。」
「あ、大丈夫。なんか、声聞いてみたかったんだって。電話出てくれて、ありがと。」
「あ、うん。」
よく分からないまま、ミカに電話を返した。
「さ、行こ。なんかお腹減ったなー。ラーメンはお客さんに散々運んだけど、私は食べてないし。ねー、何食べる?」
満足そうな笑顔を見せて、ミカが歩き出す。少し先を歩いていたケイスケたちに追い付くように、ペースを上げて僕も歩いた。

それから、何を食べたか、はっきりと覚えていない。多分、お好み焼きとか、ポテトとか、かき氷とか、夏祭りっぽいものをみんなでワイワイ言いながら食べたんだと思う。
そして、花火を観て、あー楽しかったねと言い合いながら、市内に戻ったはず。
それらの印象をかき消すくらい、サオリからの電話が、心に残った。なぜ、僕のことを知ってるんだろう。どうして、声を聞きたいなんて言ったんだろう。ミカをよろしくって、何を伝えたかったんだろう。

でも、そんなことを考えるのは、野暮ってものなんだろう。ミカもその気持ちがあって、サオリに相談してただけのこと。
だから、わざと帰りはマサコとケイスケを先に送るルートで運転しても何も言わなかったし、「この後、夜景でも見に行かない?」って誘ったら来てくれた。そして、夏祭りの翌日に、僕は想いを伝えた。

毎週テーマを決めて共同運営を続ける日刊マガジン『書くンジャーズ』。
今週のテーマは、【 夏祭りの話 】でした。

大学1年の夏休みに行った夏祭り。その思い出を、一番印象に残っている電話での会話が中心に来るように、少し脚色しながら綴ってみました。
妻に見せたら、「なんで書くとよ!恥ずかしいやん!」って言われるだろうから、見せられません(笑)

今回は脇役になってもらったマサコとケイスケを除いたら、主要な登場人物は3人。ということは、この思い出を使って、2000字のドラマに挑戦できそうです。

夏祭りの翌日に付き合うことになり、今は5人家族+愛犬1匹で暮らしているのは、土曜日担当の吉村伊織(よしむらいおり)でした。

今日も最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

他のメンバーたちが語る夏祭りの話も、ぜひ読んでくださいね。

それではまた、お会いしましょう。

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夏の思い出

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