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「総合的な探究の時間」のパターン

はじめに

高校で始まった「総合的な探究の時間」

本稿は私が見聞した高校生の「探究」をいくつかのパターンに分類する試みです。
しかし、これまでの先進校の実践はパターンに沿って開発したものではなく、各校がうんと考え、ベストなカリキュラムを模索し続けた結果です。
だから千差万別です。
でも、各校の工夫と改善の足跡に敬意を表しつつ、私の主観によって無理矢理パターンとして整理します。

私は以前、中学校で「総合的な学習の時間」のプログラムを開発しました。その際、多くの学校の事例を視察する機会を得ました。
2019年からは高校で「総合的な探究の時間」の先行実施でカリキュラム開発をしました。その際も、多くの事例に学ばせてもらいました。
3年を経て今春、探究1期生が卒業し、つくづく感じたのは次の3点でした。

  • 高校生はすごい

  • 職員室が変わる

  • 学校外の人たちが学校に期待してくれる

私は高校勤務を離れましたが、楽しかったから忘れたくないので、3年で整理できたことをまとめようと思います。
自分のための備忘録ですが、これから学校で「総合的な探究の時間」のカリキュラムを開発したい先生方の参考材料の一つとなるとラッキーだと考えています。
まずはパターン化してみると各校の「総合的な探究の時間」の実践が捉えやすくなるのではないかと考えました。

  1. 課題研究式

  2. ビジコン式

  3. 世直しスタートアップ式

  4. 地方創生式

以下順に各パターンの説明です。

1.課題研究式

簡単に言うと、大学の卒業研究の先取り。
生徒が自分の興味の対象について探究・研究し、分かったことを発表します。
探究過程では内容や手法に大学等の学問分野の力を取り入れます。
ざっくりいうと、実験をしたり、先行研究や論文を調べたり、比較して新たな解釈を見出したりします。
発表は論文を執筆したり、ポスターセッションをしたりします。
レベルの高い場合は英語での論文執筆や口頭発表を行います。

高校での探究の定番とも言える手法です。スーパーサイエンスハイスクール認定校でもよく行われていますし、昭和の時代から継続してきた伝統校もあります。

2.ビジコン式

企業から出された課題に対して、解決するアイデアを高校生が考えます。
「新製品を考えよ」「ヒットさせる方法を考えよ」などの課題です。
企業に対してプレゼンテーションを行なったり、コンテストとして競ったりします。
優れたアイデアが企業によって採用され、企画が実現したり、商品化されたりすることもあります。

企業が抱えたリアルな課題について調べ、アイデアを出し、揉んでいくので、現実の世の中を学ぶことができます。また、企業に提案する日やプレゼン大会といったゴールが設定されているのもやる気に繋がります。

学校規模で行うのではなく、全国大会が催されるプログラムもあり、教育と探求社さんの「クエストカップ」のコーポレートアクセス部門やマイナビさんの「キャリア甲子園」が有名です。


3.世直しスタートアップ式

自分で課題を設定し、解決に挑む探究です。
課題研究式と似ていますが「追究」ではなく「解決」を求めている点に違いがあります。
「課題」は社会問題です。自分の周辺だったり、学校だったり、地域だったり、世界だったり、大小様々なスケールでの「社会」にある課題を発見して解決します。
解決のためにアカデミックな研究を行う場合もありますが、ただただトライアンドエラーでアクションを重ねる場合もあります。

ビジコン式の会社の企画部やシンクタンク的な営みに対し、こちらは社会起業家的な営みという印象があります。アイデアの提示に留まらず、自らアクションを起こすからです。

NPO法人カタリバさんが全国規模で実施される「マイプロジェクト」が有名です。


4.地方創生式

ビジコン式と世直しスタートアップ式を混ぜたような方式ですが、探究テーマや対象を「地元」におく探究です。
「地元を良くせよ」という学習課題のもとで、社会課題を見つけ、解決アイデアを出し、アクションを起こします。

自治体とタイアップして高校生が町おこしに取り組む学校もあります。市町村レベルを地元とするケースが多いように感じますが、町内レベルで課題を発見する例も見聞したことがあります。「よく調べてみると町内のあの道は電灯が少なくて危ない」というような、よく知っているはずの身の回りの再発見です。

大規模で行われた例としては、OECD東北スクールが有名です。
経済協力開発機構(OECD)が震災からの復興をサポートするため、被災地の自治体と連携して子どもの復興への参画とグローバル人材育成を目的として実施しました。


調べ学習との違い

他にも「調べ学習」の実践も多く見聞きしました。
「大学調べ」「職業調べ」「SDGsについて調べて発表」などです。
中学校では「高校調べ」もありました。
「調べ学習」は探究の過程の1つのフェーズになりますが、
「調べ学習」=「探究」ではありません。

探究の過程としての「調べ学習」にするには、

  • 調べ学習が、より大きな課題や目的意識を有する一連の活動に組み込まれている

  • 調べ学習を行うことが「必要な手段である」と教師ではなく子ども自身が認識して取り組んでいる

という2点が必要です。

まとめ

実際には複数のパターンを組み合わせて、独自の実践を行っている学校が多くあります。
探究はきっと、どのパターンが優れているとか劣っているとかいうものでは有りません。
おそらく、探究をやっている学校の先生は、自校の探究プログラムが他校と比べて優っているか劣っているかなど気にしていません。
求めているのは「自校のその時の最高」です。

同様に、先生方は探究の結果についても優劣を重視していないと思います。
コンテンストにして優劣を競っている例も紹介しましたが、競争は子どもたちのエンゲージメントを高めるための手だてとして用いているだけではないでしょうか。

隣の芝は青く見えるもので、他校の素晴らしい実践を見聞きすると真似てみたくなります。
ただ、それぞれのパターンの善し悪しはあるはずなので、自校のめざす生徒と照らして最適なものを組み合わせる必要があると思います。
自分の庭に同じ芝を敷いてもうまく根付くとは限りません。
「あの学校がやっているから」
という思考ストップは、オリジナルの劣化版しか生みません。
つまり、
「うちの子たちに最善の『総合的な探究の時間』とは?」
という先生たちの探究です。
探究が好きな生徒もいれば嫌いな生徒もいるように、探究が好きな先生もいれば嫌いな先生もいて当たり前。
探究が好きな先生たちが自校の探究をリードすれば、それでいいと思います。
私も多くの同僚たちに手伝ってもらい、自分が探究を楽しんだのだと感じます。

「どう組み合わせるか」を考えやすくなるように、それぞれのパターンの善し悪しについては別の機会にまとめてみようと思います。

【追記】
善し悪しを次の記事にまとめてみました。

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