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『シン・二ホン』の掲げる未来は、誰がつくりあげるのか?

頑張れる日もある。うまくいかない日もある。日系大企業で、新規事業を担当する私にとっては、「応援ソング」のような『シン・二ホン』。このタイミングで『シン・二ホン』に出会い、自分へのメッセージ・気付きを得ることが出来たのは、大変に幸運だった。『シン・二ホン』を読む前は、サブタイトル『AI×データ時代における日本の再生と人材育成』の通り、データやAIに関するトピックばかりが並べられていると考えていた。しかし、読み終えた感想は、シン・二ホンの未来をつくるのは私たち一人ひとりだという前向きで優しいメッセージだった。

シンニホン

知性の核心は「知覚」

「実はデータやAIの力を解き放ったときに求められるのは、さまざまな価値やよさ、美しさを知覚する力であり、人としての生命力、人間力になる可能性が高い。キカイの強さを解き放ちつつ、人間の強さを活かす、そんな時代に突入しているのだ。」(P.175)。

3章では「知覚する力、生命力、人間力」について述べられている。 
本書によれば、人間の知的作業は、「入力→処理→出力」というプロセスをたどり、「入力」を「出力」につなげる能力が「知性」である。「知覚」とは、外部情報を統合して対象のイミを理解することである。経験に基づく「知覚する力」が人によって異なるため、同じ対象を目の前にしても「入力」、つまり対象への感じ方やイミ付けが異なるため「出力」も変わってくるのだ。「知覚する力」はアウトプットに影響すると言える。

自分なりの「知覚」を鍛えるためには、2つのポイントがあると述べられている。1点目は、ハンズ・オン、ファーストハンドの経験を大切にする。2点目は、言葉、数値になっていない世界が大半であることを受け入れるという点である。さらに、今までの「覚える力」(スポンジ力)よりも「気付く力」がより重要となってくるのだ。 (P.195~201より要約)

データ、AIに関する本は溢れているが、人間に残る「知覚する力、生命力、人間力」にまで言及した本は珍しい。ここに焦点をあてるとより自分事として感じることができる。「シン・二ホンは私には関係のない話」と思っている人にとって、急に「自分にも関係する話、今も日常に起きている話」になってくるのではないだろうか。データサイエンティストや専門家にならなくても、「知覚」は誰もが毎日行っていることだ。

私のちょっとした趣味である生け花を考えてみると、お花、枝、葉によって美しい空間をつくりだすという一連のワークはまさに知覚のかたまりだと感じる。

自分なりの問いをたてる

本書では、未来の方程式は「未来(商品・サービス)=課題(夢)×技術(Tech)×デザイン(art)」(P.61)と主張されている。科学的な知識や技術だけでは、未来の創造につながらない。「こんな課題を解きたい、こんな世界を生み出したい」という課題(夢)が重要になってくるのだ。

 6章では課題解決においては、①ギャップフィル型(あるべき姿が明確であり、あるべき姿と現状のギャップを整理し、それにそったソリューションを提供することで解決する)、②ビジョン設定型(ゴール、目指すべき姿の見極めから課題解決をスタートする)の2つの型があり、ビジョン設定型の課題解決が未来をつくる鍵となると紹介されている(P.392より要約)。

 ここで、私は「知覚する力」と共に「問いをたてる力」が重要な役割を果たすと感じる。「知覚する力」とは、前述の通り、外部情報を統合して対象のイミを理解する力である。この人間を人間たらしめる「知覚する力」を使って、自分で気付き、人がいいなと思うものを感じ取り、課題(夢)を描くことが重要になる。そういったなかで、ビジョン設定につながる「問いをたてる力」が求められるのではないか。AIだけでは、未来をつくりだせないのだ。

 本書では、安宅さんのビジョンとして「風の谷プロジェクト」が掲げられている。とても共感を呼ぶ構想だが、これは安宅さんが現状を知覚したうえで、課題(夢)に繋げているものだ。安宅さんは、「古くから人が住んできた集落が捨てられつつあること、一方世界中で爆増してきた人口は都市にむかっていること」を知覚し、ビジョン設定に繋がる「テクノジーの力を使い倒すことにより、僕らはもっと自然と共に生きる美しい未来を創ることは出来ないか?」という問いをうみだされている。私達はその応援者になることももちろん良いことだし、自分で知覚して自分の課題(夢)を掲げてみることも大切なのではないだろうか。

 自分で生々しい感覚をもって経験し、知覚し、自分なりの問いをたててみることが、課題(夢)につながっていくだろう。


シン・二ホンと私 (as of 2020 夏)

私は現在、日系大企業で自動運転モビリティサービスの仕事をしている。2017年にシリコンバレーにスタディツアーにいった際に、“Change the world”のために奮闘する現地の方々から大いなる刺激をうけて、私自身も新しい価値を生み出したいと志し新規事業を担う部署へと異動した。

「自動運転?」「既存事業に比べて、、、」「そんなこと出来るのか?」こういった呪いの言葉は、私に限らず新規事業担当者、夢を追いかける方々は耳にしたことがあるのではないか(「呪いの言葉」は、安宅さんが講演で使われた言葉である、実にドン・ピシャリな使いやすい言葉!) 。ようやく異動を経て、新しい価値を生み出せるような仕事を担当できるようになったにもかかわらず、いつしか思いに蓋をし、忙しさを言い訳に、サラリーマンとして日々の仕事をこなしてしまうような私がいた。何よりも自分の軸が弱かった。

そんな中、私は『シン・二ホン』から勇気をもらった。自分には手の届かない壮大なことを考えなくても構わない、自分で「知覚する」と、自分の小さな小さな日常から「何かを気づくことの大切さ」を教えられた。全く関係のない未来の話や意識高い系の本ではなく、自分にも少し関係しそうだと親近感をもったのだ。地に足がつく感覚であり、読まれた方が自分事と感じることができるのではないだろうか。

自動運転の仕事は、会社から与えられたものだが、自分はどんな問いを解きたくてこの仕事に向き合っているのか、いま必死に言葉にしている。順番が逆なのはわかっているが、ビジョンを描き始めた。偉い人も巻き込んで。自分のビジョン、自分なりの裏テーマが出来れば、少しくらい嫌なことがあっても立ち向かっていけそうだ。

また、「数%で未来は変わる」という言葉が背中を押してくれた。とくに私のように大企業で働く人、それから本書で「埋もれたままの3つの才能」とされている女性が少しでも勇気をもてれば大きな流れになるかもしれない。会社で10人のチームだったら、私ともう一人誰かが仕掛けていければ良い。こんな感じで拡大していけば、「数%で未来は変わる」も実現出来そうだ。
数年後に再度読むとそのときの自分の置かれている状況で違う読み方が出来るかもしれない。『シン・二ホン』が扱うトピックが多岐に渡り、読者のバックグラウンドに応じて響くメッセージが多様だからだ。このように自分の人生のフェーズにあわせてちょっとしたワクワクと当事者意識をもたらしてくれる本なのだ。

さいごに


「シン・二ホンの掲げる未来は、誰がつくりあげるのか?」

この問いに対して、私たちひとりひとりが主役になり、シン・二ホンの未来をつくりあげていくのだと私は思う。自分で知覚し、自分で未来を描き、仲間を募って、自分で実行していこう。あくまで主役は「自分」なのだ。スーパーデータサイエンティストやスーパー起業家にならなくても、誰もがシン・二ホンの未来はつくっていける。誰もが自分の「風の谷」を描いていけるのだ。読書後に得るこの気づきによって、「失われた15年」をただ嘆くことで終わりにせず、さらに「未来を限られた人のものにしない」という前向きな明るさを感じさせてくれた。

「シン・二ホン」に対して、「知っている」「耳タコ」という感想が寄せられたと聞いたことがある。「それ知っている」から一歩踏み出して、あなたは何を感じて、何を描く?

私の好きな本書の一文を紹介してクローズしたい。

「もうそろそろ、人に未来を聞くのはやめよう。そしてどんな社会を僕らが創り、残すのか、考えて仕掛けていこう。未来は目指し、創るものだ」(P.6)

※追伸
『シン・ニホン』の著者である安宅和人さん、プロデューサーの岩佐文夫さん、NewsPicksパブリッシング編集長の井上慎平さん!シン・ニホンを本屋さんに並べて下さってありがとうございました!!

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