見出し画像

k

どうしてうちの兄貴は
自分をいつも
殴ってくるのか
悪魔みたいに

訳が分からなかった
やさしくて仲のいいきょうだいが
羨ましかった

年子とは言え
兄貴には力もスピードも及ばなかった
だいたい、いつだって向こうが理不尽に
吹っかけてくるのだから
自分は逃げ足と避けるスピードだけが
磨かれていった

やり返せよと言われて
悔しくて力まかせに殴り返す
ときどきそれが決まることがあって
9:1の割合で負けることが多かったけれど
決まった時の快感は忘れられなかった

勉強もがんばったし
いい会社にも入った
親も親戚もよろこんでくれた

だけど悪魔の兄貴がやってきて
お前も格闘技をやれという
どうしてこいつはこうなんだ
子どもの時からいつもいつもいつもいつも

それでも抗えない
兄貴はいつも自分のことをつぶさに見ていて
一瞬のスキを絶対に見逃さない
絶対に

そうやっていつのまにか
負けず嫌いな自分は
兄貴と同じリングに立っていた

練習でハイになる
苦しさの後にそれはやってくる
試合のそれは練習の比ではなかった
頭が真っ白になって
痛みも感じなくなる
それから割れるような歓声、
悪魔が自分を抱きしめて
よくやったなって言う

すごい景色を見せてくれる悪魔の兄貴
結局自分はそれに勝てない
いつまでも子どもの頃みたいに

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?