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【本の旅】 ハン・ガン『光と糸』 − ノーベル賞受賞記念講演全訳

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ノーベル賞授賞式のハン・ガン氏

ノーベル賞のホームページで12月7日にストックホルムで行われたノーベル文学賞の授賞式の動画を見た。ハン・ガン氏が韓国語で受賞講演(Nobel Prize lecture)を行っていた。韓国語はまったく分からないが、彼女の静かな音楽のような語り口が心地よいので最後まで流して聞いていた。

同ホームページには、韓国語の講演原稿と、そのスウェーデン語英語の翻訳が掲載されていた。講演には、Light and Thread(光と糸) というタイトルが付いている。何を意味しているのだろう?僕はハン・ガン氏がノーベル賞を受賞したと聞いてから、『すべての、白いものたちの』を読んだが、その一冊以外のことは何も知らない。

動画の中のハン・ガン氏の表情、素振りには何か懐かしいものを感じた。横柄さはまったくないが、卑屈さもない。毅然としているが、肩に力が入ってるわけではない。落ち着いた振る舞いに作りものではない自然さがあった。突拍子もない派手なドレスではなく、普段も着るであろう黒いパンツスーツにスカーフという選択が好ましく思えた。昔々このような日本にもこのような人が普通にいたような気がするが、もう長いこと見ていないので忘れていた。多勢の欧米人に囲まれた中での彼女の流れるような凛とした動きにアジア人として嬉しい気がした。

ノーベル賞授賞式のハン・ガン氏の佇まいには、『すべての、白いものたちの』を読んだ時の印象と同じものをを感じた。彼女は詩のように小説を書き、詩のように話し、詩のように振る舞う。彼女は詩のような人だった。

講演原稿の英語版を読んでみた。彼女はこういう作家だったのか。もう一度書くがハン・ガン氏のことを何も知らなかった。ポジティブな衝撃でときめいた。

彼女の全ては詩で出来ている。しかし、それは日本語では揶揄用語に貶められた、あのポエムではない。彼女の詩は、もっとも厳密な意味での「現実」と向き合う詩だった。講演では、ハン・ガン氏の作品の構想の過程が、彼女自身の私的現実と彼女の国の歴史的現実への問いであることを語っていた。そして、もう一つ、今2024年12月という現在の世界的現実が暗喩として語られている、と僕は強く感じた。

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