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『心をほぐす書道家』四條畷学園理事 牧田悠有さん

大阪や東京を始め、海外でも多数個展を開催するかたわら、大正15年から続く伝統ある四條畷学園の理事を務める牧田悠有さんにお話を伺いました。

〜牧田悠有さんプロフィール〜
■出身地:
大阪
■経歴:●毎日書道公募部門最高賞 毎日賞受賞
●大阪国際交流センターにて初個展開催以来、大阪東京で多数個展開催
●海外では、ミラノ(1991年)、ニューヨーク国連ビルでデモンストレーション(1993年)ニューヨークアートディレクターズクラブ(A.D.C.ギャラリー)で個展(1993年)
●その他、薬師寺でデモンストレーション、神戸で阪神大震災の復興を願うデモンストレーヨン等、各地でデモンストレーションを行っている。
●花と緑の博覧会(大阪)10周年記念で自然をテーマにした庭をデザイン
●あべのハルカスで個展(2013年)(2016年)
●芦屋市谷崎潤一郎記念館で個展(2017年)
●歌舞伎座片岡愛之助楽屋作品制作
●道頓堀船上チャリティーライブイベント「Wonder Osaka Vol.9」にて、デモンストレーション(2018年)
●現在、四條畷学園理事、四條畷学園「友の会」会長、四條畷学園小学校教諭(書道)

記者: 今されている活動の経緯を教えてください。

牧田さん(以下牧田、敬称略):家に芸術がある環境という影響もあり、書道家一本で行こうとずっとやって来ました。書道家としての始まりは19歳の大学生の頃からです。きっかけは師匠から「人に教えることで自分も上達する」と言われたことです。大人3人、子供3人くらいからの教室を始めて、大学を卒業する時には、70名ぐらいの生徒さんが口コミで来てくれました。こうして書道家としてスタートできたのですが、あるとき掛け軸に入れられていた作品をみて愕然としました。私の作品は師匠のお手本に縛られていて動きがなく、これが自分のやりたいことではないと思ったんです。

そんな風に自分の作品や環境に限界を感じていた頃に、お仕事でご縁のあった有名な工業デザイナーの方に「アーティストだから何者にも縛られずにやったほうがいいんじゃないか」と言われました。それをきっかけに、通算3年半程ミラノにいました。またそれ以外にも、ニューヨークで個展を開いたり、ミュージシャンの方とコラボして音に合わせて書を書くデモンストレーションをしたり、世界各地で仕事をしていましたね。

海外にいたからこそ、日本の良さや日本の和の美というものに触れました。日本人として日本の過渡を誇りに思うことが大事だなと思い、私は逆に日本の良さを学びたいという想いもあり日本に戻ってきました。

そのあと4、5年はイタリアで得たことを日本に回帰するような活動をしていたのですが、学園を経営している父の影響もあり、40歳の時に四條畷学園に来ました。まさか自分が学園で働くとは考えていなかったので、一度は断わったんですけどね。

自分の力ずくをやめたとき、自分の力以上のものができる

記者:活動されていく中で、記憶に残る大きな出来事はありますか?

牧田:薬師寺でデモンストレーションをした時ですね。
私はいつもその場の臨場感を楽しむために、あえて適当に打ち合わせをするんです。予定調和が好きじゃないので。その場の事前に知っていたのは「マンドリンという打楽器に合わせて書を書く」ということだけで、当日を迎えたのですが...!!ビックリしました。壁面に紙を貼ってありそこに書いてくださいと言われたのですが、10メートルくらいの大きさだったんです。そこで初めて焦りましたね。自分の適当さを恨みました。
なんせ筆が墨を含んだら、重たくてとてもあげられません。そのままだと墨が垂れるので、粘度を出すためにマヨネーズを混ぜてみたりと工夫していたのですが、その分重たくなっているんです。これは上がらないと思って、ヒヤーっとして。そして初めてその時に仮病を使おうと。

記者:仮病ですか?!

牧田:はい。でも、もうマンドリンの方も準備してらっしゃって、リハーサルで鳴らしてて、お客さんも入って来てて、もう倒れるタイミングがなくなってしまったんです。
「どうしよう、もうこれは出て行って倒れるしかない」って思いました。それでいよいよマンドリンが鳴り出して、好きなタイミングで入ってくださいと言われ…。みんな見入っているので、シーーーンと静かで、数百人の方が固唾を呑んで見守っていて。そんな中ステージの方に出ていって、紙を眺めて、筆で墨を解くような動作をして、お客さんを背にしました。

みんないつ書くのか、と背中に目線を感じて、背中が熱くなりました。


もう頭が真っ白になり・・・


で、気がついたら終わってたんですよ。。。

書いたのを覚えてないんです。こんな経験は初めてでした。

記者:え!?それはもう作品が出来上がっていたということですか?

牧田:そうです。その時の字が『巡』という字なのですが本当に覚えてないんです。私はそこで初めて、もう自分の力を信じるのはやめよう、人間の力を信じようと思うようになりました。
学園の子供たちにも、この体験をもとに火事場の馬鹿力というか「人に委ねよ」ということを伝える時があります。「自分一人で頑張るな、なんとかなる」といった意味です。
あの体験から「なにかあっても乗り切れる」という想いはありますね。本当にありがたかったです。みなさんの気を送っていただいたというか…。だから私もよく、子供たちが書を書いているときは後ろから気を送ります。
「いけいけー」って。
作品って自分の力ずくで書いたものは全然よくなくて、自分を解放することで、自分の力以上のものができるという面白さがあるんです。

個性の尊重を通してきらきら輝く原石を磨いていく

記者:牧田さんは現在、「小学生に教える」「お弟子さんに教える」「ご自身のアーティストとしての活動」と3つの活動がありますが、今後の夢やビジョンはどのようにお考えですか?

牧田芸術を通して人と人とが言葉を超えるということをしたいと思っています。ミュージシャンなど表現者の友人が多いのですが、音楽だったら世界を超えて、壁を超えて繋がっていくイメージです。戦闘地という悲惨な環境であっても歌を口ずさんで笑顔になれたりしますよね。書も同じで、コミュニケーションのツールになります。子供たちにもそういうツールを使って、言葉じゃないところで自分を表現をする手段を持ってほしいなと思っています。
また、私は子供たちに人に関心を持つことが大事だということを伝えています。その人の「特技」「良さ」「いいところ」などを探すということです。みんなどんな人にも絶対に才能はあります。うちの学園は、個性の尊重というものを昔から大切にしています。それを発見できないとしたら教師の責任です。原石を磨いて個性を輝かせていくということをやっていきます。どの人にも個性が備わっているので、それを発見する喜びを感じ、また尊重し、そして自分の才能を惜しみなく発揮できることを心がけています。

そういう意味では、私は書家としてやってきたので、書家として表現して背中をみせていくことができると思っています。だからといって、みんなに書道家になれということではなく、たまたま私は書だ、というだけ。私の書をみて「元気が出る」「癒される」と言ってくれる方もいてくださいますが、人に喜んでもらえることは自分の喜びでもあります。
最近は自己肯定感のないこどもたちが多いので、子供たちにはきらきら輝いて自信を持って欲しいです。我々教師は子供たちのいいところをみつけだし、世に送り出せたらいいなと思って日々仕事をしています。

残すべきものは残しつつ、常識にとらわれないこと

記者:牧田さん自身が、日々の中で意識して取り組まれていることはありますか?

牧田:自分自身が元気でいること、くよくよしないことです。大人が楽しんでいないと子供は夢が描けないと思うんです。大人がズーンとしていたら、大人になってもつまらない、と思わせてしまいます。もうこれは大人の責任ですね。
「なんか大人は楽しそうだな、大人になってみるのも悪くない、大人になってもいいことあるんじゃないか」と思ってもらうこと。だからたまに子どもに「先生元気ないね、どうしたん?」って言われるときがあると、すごい反省します。いいモデルでいたいと思っています。

また、これからの学校教育や学校経営ということにおいていえば、今までの常識に縛られていたらダメだと思っています。どの企業も一緒だと思いますが、うちの学園も私立ですので潰れる時は潰れますからね。

現在は創立93年ですが、これから100年を目指しています。その時に学園が永続的にあるためには、温故知新、古き良きもの、残すべきものは残さないといけないですが、やはり常識にあまりとらわれずにいきたいですね。
私はずっと学校にどっぷりいた人間ではないので、いろんな方と今も繋がりがありますし、いろんな業種、ジャンルを越えて、いろんな人に今も会ったり繋がろうとも思っています。そこで得るものを活かして、さまざまな化学反応を、今後は起こしていきたいですね。

記者:本日は貴重なお話ありがとうございました。

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【編集後記】
今回インタビューを担当させていただいた、山口と帆足です。
大人が楽しんでいないと子供は夢が描けないというところに、とても共感しました。色々な取り組みをされている方がいる中で、「楽しむ」ということは共通して大切なことですし、そんな大人が増えたら、子供たちも希望を持てる社会になっていくと思いました。
写真は、牧田さんの作品の前でご一緒に撮らせて頂きました。
これからのますますのご活躍をお祈りしています。
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この記事は、リライズ・ニュースマガジン “美しい時代を創る人達” にも掲載されています。

https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36

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