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顎とプレッシャーは比例する

仕事柄、いろいろな職業の方にインタビューさせていただく機会が多い。楽しい話やためになる話、ご自身の失敗談など、たくさんのお話を聞いているうちに、「あれ?」と気になることがある。それは、その人の顎が上がっていることだ。

顎が上がっているといっても、アントニオ猪木のような先天的なものではない。首元が丸見えになるほどに、無意識で顎がしゃくり上がっていくのだ。最初にお会いしたときから上がっている人もいるし、話しているうちに上がってくる人もいる。

この態度をとる人のほとんどが男性で、比較的若い人に多い。そして、その人が自分や自分のやってきたことの凄さを自慢に近い形で話したり、これからの大きなビジョンを語るときに「顎上げ」が現れてくる。語る話が大きければ大きいほど、顎が大きくもち上がるのが特徴だ。

私は心理学者ではないので、この「顎上げ」が一体どんな心理を表しているかはわからない。しかし、顎上げをしている人の多くは、私から見ると「無理しすぎじゃない?」と思える人が多いのだ。

新しい事業にいくつも取り組み、何が本業かを見失いがちな人。資金繰りの苦しみを、無理矢理「よろこび」に変えようとしている人。思いも寄らないことで高い地位を手に入れて、必死に「偉い人」と演じているような人……などなど。

顎が上がれば、自然と視線も上がる。そして、聞き手である私を見下ろすようになる。こうして顎を上げて相手を見下げることで、この人は自分を高めているのかもしれないな、と思うこともある。

先日、テレビでインタビューされていた柔道選手もそうだった。2020年の東京オリンピックの金メダル候補である彼は、今後の抱負について訊かれ、「勝って当たり前」「自分より強い選手はいない」などと強気の発言をポンポンと放つうちに、「顎上げ」を発生させていたのだ。

このままでは、せっかくのイケメンが画面から消え去り、顎しか映らなくなるのでは……と心配したくなるほどの「顎上げ」をした彼は、最後まで笑顔を見せることなく、周りの取材陣を見下ろし続けていた。

うーん。彼は強気なことを言いながらも、結果を出さなくてはいけないプレッシャーで、かなりいっぱいいっぱいなのではないか。強気な言葉で自分を一生懸命コーティングしているけれど、彼の中に渦巻いていそうな不安や心配は、どこに行ってしまうんだろう?

そんなことを漠然と考えていたら、さらなる「顎上げ」を見つけてしまった。それは、現在の相撲協会の騒動の渦中にいる、貴乃花親方だ。

相撲協会の理事会に出るときや、報道陣を無視して通り過ぎるときなどに、彼は驚くほどの「顎上げ」を見せている。理事長の八角親方をはじめとする理事会メンバーたちを見下ろし、取材陣を見下ろし、彼の周りのすべてのものを見下ろさんばかりの「顎上げ」だ。そのうえ、テレビを見ている私たちさえも見下ろされているような気持ちになってくるのが、彼の「顎上げ」であるように思える。

「顎上げ」は、パッと見では偉そうで立派な人物像をつくり上げる効果がある。そのおかげか、貴乃花親方もとても堂々としているように見える。だけど、彼があそこまで顎を上げなければならない理由って何なのだろう? そして、彼が横綱時代からよく顎を上げていたことを思い出せば、「顎上げ」は人知れずプレッシャーと戦い、「強さ」の壁をつくらなくてはいけない人にとっての、唯一の心理の露見であるように思えてくるのだ。

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