それでも時間は過ぎる
世の中はうまくできている。『あつ森』にいい感じに飽きてきたころに、緊急事態宣言が解除された。
私はもう、あののんびりとした島の住人でいる必要はないということなのかもしれない。だからといって、どこかほかの社会にがっつりと属しているわけでもないのだけど。
フリーライターって仕事自体も、フリーだし書き仕事だし、会社に縛られているわけでも、ノルマに追われているわけでもない。徹底して無所属で、とてもフワフワした存在だ。
この自粛期間中には、初対面の編集さん2人からお仕事をいただいた。初対面といっても、会ってはいない。自粛中なので、面と向かっての打ち合わせもなく、電話で話しただけだ。それでこんなフワフワした私に仕事を依頼してもいいのか。大丈夫か。
訊くまでもなく、その編集さんたちは、私が宣伝用に作っているポートフォリオサイトを見たことを話してくれた。経験はそのまま信頼になることを実感しながら、昨年の分で、まだポートフォリオに入れてない仕事があることに気づき、ポチポチと入力した。
昨年のちょうど今ごろ、乳がんであることが判明した。思い出すのは、がんを宣告される前に食べた多奈加亭のケーキと、宣告されたあとにカーニバルで買い物をしたこと。
家族に何て話そうか。特に息子にはどうしようか。まぁ、正直に言うのがいちばんだよね。そう思いながら、カーニバルで買い物かごにお菓子を放り込んだ記憶がある。
それから手術に抗がん剤治療、放射線治療を乗り越え、今は分子標的薬(ハーセプチン)の投与で3週間に一度病院に通うだけになった。抗がん剤治療の副作用が消えたころから、主治医のH先生の私への対応も、いい意味で雑になってきた。「この人は、もう大丈夫」。そんな気持ちが伝わるくらいに。
抗がん剤で抜けた髪も、自粛期間にグイグイと伸び、今は長めのベリーショートにまでなっている。そしてその自粛中に、息子は受験生になった。
休校中は、早起きして弁当を作らなくていいぶん、家に居続ける息子の昼ごはんを作るのがひたすら面倒だった。面倒すぎて、ほぼ毎日冷凍食品に頼った。スーパーに並ぶ冷凍チャーハンは、全制覇したんじゃないだろうか。
こんなにいろんな冷凍チャーハンを買い込んだのは、息子が小学生のときに「冷凍チャーハンを比較する」という夏休みの自由研究をやって以来だ。どのチャーハンにどんな具材が入り、どのチャーハンのエビが大きいかとか、かなり楽しかったし、なかなかいい研究だったと思う。
まじめな担任からは「もっと科学的な内容のほうが……」などと言われたが、隣のクラスの担任の先生は「面白くて、とってもためになる研究でしたね!」とめちゃくちゃウケてくれた。
休校が終わって、冷凍庫にはもうチャーハンがストックされなくなった。代わりに、クーリッシュがぎゅうぎゅうに詰め込まれている。夏だね。