【詩】凪
さっきまで
何をか伝えたい気がして
差し迫った気持ちで
内側が泡立っていたのに
ふとした瞬間に
意識が逸れて
何を言いたかったのか忘れてしまった
ことばは不意に奪われ
空白だけが横たわる
手元に残されたのは
とても単純なことだけ
空は青く
鳥は歌い
花が柔らかく揺れる
明瞭で
曇りのない
世界の美しさ
私の伝えたかった
入り組んだことがらは
みんな解かれてしまった
あの枝を揺する風が
遠くへと運んでいった
いま内側は空白で
湖が映す風景のように
空の青さが
鳥のさえずりが
花の優しさが
私の中に生きている
シンプルでたしかなものたち
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