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【散文】5・秘儀を授ける者としてのハイエロファント

 THE HIEROPHANT(ハイエロファント)は語源をギリシャ語のヒエロファンテスに由来する、と手元の本にある。さる秘密結社に関する研究書の1ページだ。

ヒエロファンテス=「聖なるものを見せる者」「秘儀を授ける司祭」

チック・シセロ+サンドラ・タバサ・シセロ著『黄金の夜明け団入門』より

 教皇、法王と訳されることが多いけれども、この本に従えば「霊的案件、とりわけ拝礼と供犠を教える」存在と理解されるだろう。霊的な儀式の主宰者にして、密儀を授与する者である。

 背景の2本の柱には白百合が掘り込まれ、その先が聖域であることが示される。秘儀参入の門なのだろう。右手では祝福を与えるポーズを取り、左手には法王だけが持つことを許されたペペル十字の杖が握られている。この特別な十字は、三位一体の象徴であるとも言われている。
 頭に戴く冠も三重になっていると言われており、法王のカードには複数の3が隠されているようだ。それは宇宙の秘数であり、父・子・聖霊を表すものであり、私たちを構成する肉体・精神・魂のトリアッドにも通じている。

 一つ前の4・皇帝のカードと、5・法王のカードはいずれも男性の統治者、権力者を表している。皇帝は権力による支配者であるのに対して、法王は精神的指導者であり、宗教的な権威を示す。
 ハイエロファントの語源に立ち戻って考えてみると、道を求める者たちを導く精神的指導者は、祝福を与える者の中に最も神聖な自己を見いだすだろう。私たちの意識の中で至高のもの、自己の中で最も善きものを呼び覚ます役目を持った存在と言えるかもしれない。人間という多面体の、純化された内奥の一点に光を当てることを「祝福」と呼んで差し支えあるまい。
 
 4の支配者になかったものを一つ付け加えたのが5という数字であるとするならば、それは物質世界を超えた霊的世界の視座だろう。5は五芒星に通じており、四大元素に聖霊を加えたものであるという。古代の密儀において、第5番目の元素はエーテルであるそうだ。この第5元素エーテルを、インドの人はアカーシャと呼んだ。すべての物質に行き渡っている浸透的な実体、遍満する溶媒。

 法王の足元に跪く二人の僧侶の衣装には赤い薔薇と白い百合がそれぞれあしらわれている。キリスト教の文脈ではイエスの殉教とマリアの純潔を思い浮かべるかもしれない。しかしここでは、錬金術的な神人合一のメタファーと読みたい。
 二人の間にクロスした二つの鍵が配されているのは、顕在意識と潜在意識の合一であり、陰陽の合一であり、物質世界と霊的世界の合一でもある。二つのものが合わさった時に天界の門が開くということを暗示している。

 秘教的に言うならば、天界の門を開き、天界上昇の秘儀を授ける者が、ハイエロファントということになるのだろう。

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